第24話 それぞれとの時間
「俺と、デートしてもらえませんか?」
それは三人がいる時に、俺が言ったものだった。そしてみんなの口から、同時に食事が吹き出た。
「でっ、でーと?」
まるで初めて聞いた言葉かのように竜樹さんが、どこか舌足らずな言い方でオウム返しをする。倉敷先生は机を拭きながら、ぎこちなく俺を見た。
「つ、椿君。デートというのは、どういうことでしょうか?」
「そ、そうだよぉ。どうしたのぉ?」
優介君も困惑している。こんなふうに三人を取り乱させられたことに、満足感を得た。
「前々から思っていたんですけど、一人一人との時間が足りないかなって。だから、それぞれ出かけてくれませんか?」
三人は優しいから、断ることはない確信があった。俺の期待通り、話を聞いても嫌がる様子はない。むしろどこか嬉しそうだ。
勢いでデートと口にしたけど、恥ずかしくなってきた。
「あの、えっと、予定は合わせますから……いつでも。駄目なら、わがままは言いません」
断られはしないと思ってはいたけど、突然すぎたかもしれない。みんな忙しい身だから都合をつけるのは大変だろう。もう少し前もって相談するべきだったかと反省していると、優介君が勢いよく抱きついてきた。
「駄目なわけないでしょ。つぅくんとデートなんて嬉しい!」
まるで犬のように抱きついてくるから、俺もそれに答えて頭を撫でた。
「それなら良かった。デートと言ったけど、一緒に二人きりで出かけたいんだ。俺が決めてもいいし、決めてもらってもいいし。どっちがいいかな?」
「俺が決めたぁい」
「わ、私も決めさせてもらっていいですか」
「俺がエスコートしてやるよ」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです」
全くの無計画だったが、いい感じにまとまって良かった。ほっと胸をなでおろし、後は簡単に決められると口を開いた。
「それじゃあ、順番をどうしますか?」
ただ単に言ったものだったのに、これが争いのきっかけになるとは思ってもみなかった。誰が先で、誰が後でも別に何かが変わる気はしないが、三人にとっては重要な問題だったらしい。
最終的には、じゃんけん大会を始めて順番を決めていた。仲良くなったようで何よりだ。
順番は、優介君、倉敷先生、竜樹さんの順番に決まった。どう戦った結果なのかは知らないし、聞きもしなかった。
デートの内容は向こうが決めてくれるので、俺はただ待つだけである。何もしなさすぎだと考えたが、全部任せてほしいと言われてしまったので甘えてしまっている。
このデートで決められるかどうかは不明だ。大事な決断を決めるための準備ということにしておく。デートの話をしてから、みんなのテンションが高い。そんなに喜ばれると、こちらも嬉しくなる。
「つぅくん。今度の日曜日にデートに行こうかぁ」
「うん、分かった」
「楽しみにしててねぇ」
「うん」
いつでもデートができるために、予定は常に空けておいた。だから優介君に言われても、予定を確認せずにOKが出せた。断るわけがないのに、優介君はとても嬉しそうにガッツポーズをしている。
「やったぁ。つぅくんとデートだぁ。えへへぇ」
「そんなに嬉しい?」
「嬉しいに決まっているじゃん。だってぇ、二人きりでデートできるんだよぉ。こんなにぃ、嬉しいことなんてないよぉ」
「そっか。俺も楽しみにしているよ」
「相思相愛だねぇ」
うふふと笑い合いながら、俺達は日曜日の話をした。そんな俺達の邪魔をしないように、倉敷先生と竜樹さんは見守ってくれた。
日曜日。
優介君の頼みで、一緒に家を出るのではなく、駅前で待ち合わせすることになった。
こっちの方がデートらしいと、そういう理由である。そんな細かいところまで気を遣うなんて、今日という日をどれだけ楽しみにしてくれたのかと嬉しくなった。
遠足前の子供みたいに眠れなかったせいで、早めに家を出た。駅前には待ち合わせ時間よりも、三十分前に着いてしまった。どれだけだと自分に呆れる。
見つけられやすいだろう時計台のところに立ち、そのまま時間を潰すことにした。スマホを取り出し、適当にゲームを起動する。
これからどこに行くのか、優介君は最後まで内緒にしていた。その時までのお楽しみだと言われれば、それ以上は聞けなかった。
どこへ行こうと楽しいだろうが、サプライズ感があってドキドキする。
起動したはいいがゲームには集中出来ずに、ただただ指を動かしていると、駆け寄ってくる音が耳に入ってきた。
画面から目を離す前から、誰だか分かった俺はおかしいのだろうか。
「つぅくんっ、待たせちゃってごめんねぇっ」
俺を見つけて急いで走ってきた優介君は、髪が乱れてしまっていた。セットしたふわふわの髪もだ。頑張って整えただろうに、申し訳ないことをした。
「楽しみすぎて、俺が早く来すぎただけだから、そんなに謝らないで。むしろ、急がせてごめん」
少しは直るようにと乱れた髪を整えてあげると、優介君は顔を緩ませた。
「俺も楽しみだったぁ。一緒だねぇ」
「そうだね」
とりあえずなんとか直すと、俺は優介君に手を差し伸べた。
「それじゃあ行こうか」
「……うんっ!」
差し伸べた手をしばらく凝視していた優介君は、さらに顔を緩ませながら指を絡めてきた。
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