第139話未来の女帝サマ、戦乱誘う物の怪の影

ーーーーーーー


「そうか、義父が逝ったか・・・。」


「・・・。」


「由良・・・。」


源氏館では静かに時が流れていた。




ーーーーーーーーーー







「さて・・・」


(これからどうしたものか・・・。)


斎宮行きを止めるとは決意したものの、具体的どうしたらいいのか皆目見当もつかない。


「前に藤原得子、美福門院が怪しいとか言ってたな?しっかし・・・俺が坂東と都と修行やらとで忙しくしてるうちに既に後白河が即位してたなんて・・・クソ、とんだ見落としをしてたもんだ。」


ドン・・・ッ!


「おっと・・・。」


「あ、すいませ・・・ん・・・!?」


目の前には見知らぬ女性がいた。



「あ、あらぁ〜・・・?」


(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいッ!?!?!?)


「あ、あなたは誰かしら〜?」


(終わったぁ〜・・・。)


「あ〜、えっ〜と・・・そのぉ・・・」


台本無きハプニングで器用に乗り越えられるようなアドリブなんてあるわけない。


「まさか・・・侵入者?」


(ひえぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!)










「お!こんなところにおったか!」


「!?」


懐かしい声だった。


「?お主は・・・」


「あ〜っはっは!がとんだ御無礼を!申し訳ありませぬがどうぞご容赦を!」



「よ、よよよよよよよよ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」


(義康ッ!!!!)



「壊れたござる・・・。」



あまりの想定外な救世主に呂律が粉砕した。



ーーーよくきたよ!義康ッ!!!ーーー


ーーーこんなところで何してるのだ?ーーー


ーーーいや、かくがくしかじかで・・・ーーー


ーーーまぁ、話はあとだな!ここは皇女様を誤魔化そうぞ!ーーー



「・・・?」



ーーーとまぁ、こんな感じでとぼけた顔をしているがこの都で最も食えないお方だぞ!ーーー


(まじかよ・・・この人が・・・)


「ボケ〜」


(そうは見えないけど・・・。)


ーーーなぁ?この人思ったよりもアホそうだけど?ーーー


ーーーな!?そ、そんなことを言っては・・・



「ほうほう・・・妾が阿呆と?」


「へ・・・?」


(へ?)


ーーーへ?ーーー


「な、なななんのことで・・・」


「妾は口角と唇の動きで何を言うてるか分かるのじゃ。」


「・・・。」


「・・・。」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「いやぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!ほんとうに!?ほんっとうに知らなかったんですぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!!!」


「・・・。」


「いやだぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!そんな目だけはやめて!やめてくださいよぉぉぉ〜〜〜!!!」










「ほんっとにすいませんでした・・・」


「からかいがいのある子ねぇ。」


全部わかっててやってたらしい。


「子どもにこのような心の臓に悪いことはおやめくだされ。」


「え〜、でもなんか子どもと話してる感じじゃないっていうか・・・情けない年上と話しているような感覚なのよねぇ・・・。」


「ゔ・・・ッ!」


(鋭いかつ、なんて心にくることを・・・)


少年の朧気なる前世に大いに心当たりがあった。


「んで・・・こんな所で何をしてるの?」


「い、いやぁ〜えーーーっと・・・」


「もしかして身分違いの恋?」


「いや、それは無いです。」


「ちぇー、即答なんて面白くないの〜。」


(下世話なくせして否定したら不貞腐れるのはやめて欲しい・・・。)


「そ、そういえば女房の方々が見られませぬが・・・」


義康の指摘通り周りには誰も側づきがいなかった。


「あ、それ内緒ねぇ〜。」


(最近の皇族はおひとり様が好きなのですね〜)


「なんか言った〜?」


「いででででででで!?!?!?な、何も言ってませんが!?!?!?」


「すごく失礼な気を感じた・・・。」


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!?!?!?耳ッ!耳を引っ張らないでくださいぃぃぃぃ!!!!!!」







ーーーーーーーーーーーー


「いでで・・・」


「朱若。」


声が小さい。


「なんでそんな耳元で話すんだよ!」


念の為こっちも声量を合わせる。


「配慮してくれて助かる。実は頼みたいことがあるのだ。」


「面倒くさそうなのはごめんだぞ!」


「まぁ、そう言わずに・・・これはおいそれとは他人に頼めないんだ。」


義康は極めて真剣な眼差しであった。


「んで、聞くだけはタダだし・・・」


「『ただ』?とは何か知らぬが、助かる!実はだな・・・」



「は!?物の怪退治ィ!?!?!?」


「ちょ!?声が大き・・・」


「何よそれ!楽しそう!!!私も加えてくださいな!」


「ぐあぁ・・・面倒なことになった・・・。」


義康があまり見せない苦虫を噛み潰したようような顔をしていて察しざるを得ない。


(例に漏れずこの女・・・)


「そうだ、かなりじゃじゃ馬だ・・・。」


「じゃ、俺はこれで・・・」


反射的に立ち去ろうと背を向けた。


「なぜ逃げる。」


「嫌だよ!なんかこれからすっごく面倒くさそうだもん!!!」


(色々やらないといけないことがあるこんな時に限って!!!)


「頼む、ある方の最期の頼みなのだ。」


「なんだって俺に・・・」


「身軽なソナタが適任なのだ。それに・・・」


「・・・?」


観念したような顔だ。


「正直、皇女に露呈したのはかなり面倒くさい。」


(あ、やっぱり〜)


「っていだだだだだだだだだ!?!?!?!?」


「失礼な感じがした〜!」


笑顔だが、どう考えても行動が噛み合ってない。


「頭のグリグリはやめてくれませんかねぇ!?」


「面倒くさいというのはそれもあるのだが・・・また別で・・・って痛い痛い、痛いですぅ〜〜〜!!!」


「あなたも欲しがりね?義康。」


ーーーどうせなら、このまま話そうーーー


ーーー痛くて話が入ってくる自信が無いんですけど!?ーーー


ーーーこれぐらいしないとこの人は誤魔化せない、過剰に痛がって注意を逸らしてくれーーー


ーーー一応聞いとくけどなんでこの人に聞かれるとまずいの?ーーー





ーーーこの遺言を持ってきたのは、皇女様の父、鳥羽院様でその内容は・・・皇女様の御母である得子様に憑いた物の怪を退治せよということなのだーーー


ーーーま、まじか!?そりゃ聞かれると色々不都合もあるな・・・ってこの人まさかーーー


(八条院か!?)


八条院、平安時代後期に朝廷で最も影響力があったとされる女院である。


そして鳥羽院から正当に遺産を受け継ぎ愛された為、天皇に即位こそしなかったが、まさに女帝の名がふさわしい隠れた女傑。


八条院が継承した八条院領は後の時代にも影響を及ぼす広大な寄進地の集合体である。


しかし、そんな女性は今・・・


「あら〜、二人とも余裕で隠し事?酷いわねぇ〜〜〜。」


「なんか威力が強まった気がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?!?!?!?」


しばらく仲良くグリグリされました。














ーーーーーーーーーーーー


「重仁の猶子の件はあれど次の帝は守仁じゃ。」


(ふふふ・・・数年前にあの発言を匂わせてからいい感じに怒りの火種が燻ったのう。次は武家や公家辺りも掻き回すか。)


「もっと、もっとじゃ・・・この日ノ本を壊す為、あの御方を討ち滅ぼした英雄に仇なす為、まずはその歴史を汚して汚して汚し尽くしてやる!ふははははは!!!!!」


藤原得子は近頃機嫌が良い。


いや、その中の存在というのが正しい。


「いだだだだだだだだだッ!?!?!?!?」


「む・・・。」


遠くからこの依代の娘が二人の男の頭に拳を押し付けていた。


「一人は鳥羽院四天王最後の一人、源義康か。もう一人は・・・存ぜぬな。ふむ、怪しいな。消すのも手か。ふふふ・・・」


物の怪の殺意の触手が少年まで伸びようとしていた。



「・・・。」



その屋根の上で見つめる仙女の目に気づくことなく。そして・・・











ーーーーーーーーーー



「姉上、そろそろ動かねば。」


別の場所でもある勢力が動き始めていた。


「落ち着きなさい、そろそろ立ち上がる頃ね。私は割られっぱなしは好かないのは知ってるでしょう、雅仁?」


「ええ、分かってはいますが・・・」


俯く、親王は決意がついていない。


「いい?帝を目指すということはあなたの子どもたちにとっても茨の道、きっと不幸になるわ。」


「・・・ッ。」


「けど、守るためには立ち向かわないあなたは全て失う。」


「・・・分かっている!」


「戦に勝ったらあとは私に任せなさい。後宮勢力は抑えてみせるわ。得子様と異母姉上のことはね。そのためなら広く才ある者を募る。由良曰く、面白い息子がいるらしいのよ。」



食えない皇女がまた一人・・・統子内親王、後白河天皇こと雅仁親王の同母姉であり、彼女のサロンは八条院と並んで最大規模、数々の天才が集うこととなる。


後の上西門院である。













ーーーーーーーーーーー



どうも、綴です。


しばらく空いた投稿になってしまいましたが、楽しんで頂けると幸いです。




もし、気に入っていただけたら応援、星レビューよろしくお願いいたします!





ーーー



「そうか、もう後には引けんか・・・」


「私は我が父と我が兄弟とこの戦で雌雄を決しなければならないのか・・・」


「いい!いいわよ・・・もっともっと壊す!」


「私は手を下せないけど・・・せめてあの子達の手助けぐらいは惜しみなくさせてもらうわ。」


「こ、これは・・・」


「なんちゅう・・・禍々しい・・・」




微かに残った絆を打ち砕く陰謀、止まらない悪意を前に仙女は再び朱若のもとに現れた!






次回「その白き尾は禍々しく九つに破れて」

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