第137話 崇徳院の願望、集結する勢力

「是が非でも我が子を次なる治天の君にしなくてはならぬ。」


崇徳院は苛立っていた。


(私はこのために実権のない日々に耐えながら、苦渋の思いで生きてきたのだ!)


「我が苦難を報いるのは院政の大権を得ることのみ・・・。これ以上『叔父子おじこ、叔父子』と呼ぶ父院を斥けねばならぬ。」


こうして考えをこまねいていても焦りが募るばかりであった。


「誰かいるでおじゃるか!」


「い、如何なさいましたか?」


近くの近習が慌てて扉越しに耳を傾ける。


「今、如何程に余の味方は集まっておるのじゃ。」


「は、はい。源氏からは六条判官、平氏からは右馬助がおられますが・・・。」


「ここへ呼び寄せるのじゃ!」


「は、はいっ!直ちに!」


いそいそと慌てながら走り去っていく。


「行ったか・・・。」


崇徳院は近習が走り去ったのを確認した。


「戦力が・・・戦力がこのままでは足らぬっ!」


上に立つ為政者たるもの弱みは見せられない。

人々はついて行く主に対して常に尊敬をいだけるような人物でなくては求心力を失ってしまう。


日に日に焦りが募る中で自身のストレスが覆い隠せないほどに肥大化しつつあった。


「為義がここに。」


「忠正がここに。」


宮殿の下の庭に二人の武士が畏まり控えていた。


「おお、来たでおじゃるか。今日呼んだのは他でもない。どれほど集められた?」


「・・・。」


「・・・。」


両者虫の居所が悪いようで顔を見合せている。


さすがにそう反応されれば焦りで心の機微に鋭敏になった院は察するのも容易い。


(真実を黙っておるのも院の精神状態的に良くない。聡い方なのだ。かえって正直に話した方がいいだろう。)


「我らの手勢がそれぞれ50騎、並びに多田蔵人、右衛門大夫が50騎ずつ余りで大きく見積っても300騎程かと・・・。」


どの道院に心労をかけるに違いないが統率者の心持ちを戦が始まって掻き乱してはよろしくないと重苦しくも言い淀まず為義は口を開いた。


「て、敵は幾らぐらいの目算でおじゃる!右馬助!」


「高平太が300、義朝が200、源頼政ら沈黙する諸勢力を少なく見積ってもその数・・・ろ、600騎にございます・・・。」


「ぬぬぬ・・・。劣っておるな、他に手はないでおじゃるか?」


(うろばえつつも決して目を逸らさず相対するところはまさに天性なる帝王であらせられる。)


「失礼しますっ!」


「な、なんでおじゃる!?」


「興福寺は500騎を援軍で都に送るとのことです!」


「おおっ!よくやったぞ!」


(合わせると800騎、援軍さえこれば数の劣勢は覆せる・・・が)


「・・・。」




(源氏の棟梁たる身でありながら、東国の味方は誰もおらなんだ。痛烈な皮肉なものよ・・・のう?義朝よ・・・。)



「六条判官?」


難しい顔をしていたようだ。

院が覗き込むようにこちらの表情を伺う。


「失礼、情けない顔をしておりましたな。」


「大丈夫なのか?」


ほっと一息ついて為義は顔をあげた。


「ええ、色々差はあれど見込みは大いにありますれば・・・」


「お前のところの彼奴は?」


「・・・とんだじゃじゃ馬で御しがたいのは本音でございます。しかしながら!本気でさえあれば・・・この戦、我らが貰いますぞ・・・!」






ーーーーーーー


ギィ・・・ギィ・・・ギィ・・・





「くくく・・・この感じ血沸き踊るのう。戦が近づいてきた感覚・・・。」


「あ、兄者よ。あんまりわしに面倒事を持ってくるなよ・・・。」


「さぁ?それは戦が決めることだ。為宗。」


「本気っ・・・!絶対に本気を出してくれよ!!!」


「それも戦が決めることだ。」



「め、面倒くさいことになるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜。い、胃がキリキリィィィするぅ・・・。」







(あの女が言った通りの奴が・・・この戦に現れるのなら・・・な。)



為朝の矢は的のド真ん中に突き刺さっていた。


その前に用意されていた鎧を10つ以上も貫いて・・・。





ーーーーー


「獅子王が疼いておる・・・。」



ーーーーー


「ふっふ〜!久々に院からの招集か!朱若は元気かのぅ!」



ーーーーー


「我が家に院はなくてはならぬ。信濃からわざわざ参るからには勝利を・・・!」


ーーーーー


「この戦で・・・俺が多田の正当後継者だと思い知らせてやる・・・頼盛ぃ・・・ッ。」







ーーーーー


「ここから・・・ここからだ。俺が平家を日ノ本の頂へ連れていく。」






ーーーーー


「八幡太郎が魅せた坂東の夢・・・儂が再び・・・皆に、妻に子供たちに魅せるのだ・・・!」













ーーーーー


「・・・。」


「おい・・・一体お前に何があったんだ!」


本当はこんなこと聞きたくない。

だが、時間もない。


わけも分からない。


「あなたには・・・迷惑を掛けたくない。」


「・・・ッ!誰なんだ。罪のねぇお前が・・・こんな・・・ッ!?ま、まさか・・・ッ!?」


「覚えてくれていたのね・・・。」


ふっと笑う顔は儚げだった。


「今すぐじゃないわ。もう少し経ってからよ。」


「なんでそんな達観してんだよ・・・。式、おまえは・・・」






「親から引き離されるんだぞッ!伊勢斎宮って!あんまりだろーが・・・ッ!」






それは史実とは異なるものの未来に待ち受ける淋しき運命の宣告であった。
















ーーーーーーーーー


どうも、綴です!


保元の乱の足音はすぐそこまで迫ってきましたね。


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次回もお楽しみに!

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