第136話 玉藻前 美福門院、静寂に渦巻く政争
「・・・
妖艶な美女ですら我が子の死には飯は喉を通らず痩せこけ泣き暮らし袖はひたひたに濡らす。
「なぜじゃ・・・なぜ・・・躰仁は死ななくてはならないのじゃ・・・。」
(その怨念、晴らしたくはないか?)
「だ、誰!?」
(ふふふ・・・)
「こ、答えるのじゃ!見えぬところから不気味に笑うでない!引っ立てるわよ!」
(出来るわけないさ。だって私は・・・)
ーーーお前自身の中にいるのだから。ーーー
「な!?なにを・・・」
ーーー少し壊してやるのさ、この国をなーーー
「な・・・っ!?そ・・・のような、大それたことは・・・なら、ぬ・・・」
ーーーーーーーーーーーーー
乙訓寺
「サササササ・・・!」
「サササササ・・・!」
「ギュギュギュキュキュ・・・!」
「おーい、朱若!こっちの方も掃除頼むで!」
「へーい!」
少年は箒を持ったと思えば今度は雑巾がけに明け暮れていた。
「全く、忙死ぬぜい。このまま働き詰めならよぉ。サササササ・・・!」
にしても京都の寺の僧達は容赦がない。
「よし、御本尊磨き終了!」
「おー、ありがとな!これ、お給金な。」
「は、はわわ・・・!やっぱこの瞬間が一番満ち足りるよなぁ・・・。」
渡された巾着袋には小銭がそれなりに入っていた。多くは無いがこれでもかなり色をつけてくれた方だろう。
「ほな、次んとこあるんちゃうか?」
「ハッ!?次は確か・・・醍醐寺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」
ドタドタと脱ぎ捨てた草鞋を履き門から駆け出る。
「醍醐寺さんによろしゅうな〜。忙しない子だなぁ〜。」
(それは俺が一番自覚あるわッ!)
だいたい、なぜ少年がここまで死にものぐるいで働いているのか。
(借金を背負ったからだよ。国家予算並の!)
「クソ・・・、本当は八ツ橋事業で貯めた金ですぐ返済したいが、三蔵のやつ出し惜しみしやがって・・・。」
三蔵はかねてより朱若から商売分野の責任者にしてはいるが、秘密主義の元動いている理念の為、怪しまれないようにいきなり返済することを渋ったのであった。
ーーー体裁上は御奉仕(バイト)に明け暮れるべきです、いきなり返すと怪しまれますからねーーー
無論、秘密主義は朱若の命じたところによるもの。
つまり、この少年。
自分で自分の首をしめたのである!
「ちくしょう!!!!!!いつまでもこんな事やってられるか!!!絶対速攻返済してやるからなぁぁぁぁぁぁぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
ーーーーーーーーーーーー
「ぐ・・・今日も死ぬかと思った・・・。」
醍醐寺からのバイトの帰り。いつも市場を通って鞍馬へ向かう。
「なぁ、聞いたかよ?得子様の話。」
「は〜それほんまかいな?」
(なんだ?大勢で噂話か?)
庶民は噂好きだ。
(確か、得子って後の美福門院だよな?)
だが、今日はかなり大人数で寄りあってコソコソ話していた。
(たまには盗み聞きてみるか。)
物陰から耳を澄ます。
「
「胡散臭いのう。」
(胡散臭ッ!)
この手の話は現実味に欠ける。
(これ以上は聞く意味もないな。)
「式子内親王様を伊勢斎宮にするらしいで!」
「ッ!」
少年の帰路に向かいかけた足は止まった。
「なんでも、崇徳院と鳥羽院の仲が悪いやろ?元々、得子様は崇徳院様の皇子である重仁親王を猶子にして皇太子にするつもりだったらしい。けどな、急に態度変えたんや!」
「どうなってん?」
(・・・。)
「雅仁親王様だよ。今様狂いの。その幼い皇子にしようと画策しとんねん。その一環が式子様の件やねんな。まぁ、寵愛敵だった待賢門院様によう似とるらしい式子様は潜在的に鬱陶しく感じるんやろな。」
(俺はあまりそういうのには詳しくない。けど、斎宮は確か基本は天皇の娘や兄弟から出ていたような・・・。つまり即位前にその動きをするってことは・・・もう、崇徳院の対立勢力は雅仁親王、後白河天皇になる奴でほぼ固まってるわけか・・・。)
「・・・。」
冷静に分析してみても腹の中に詰まりかけたようにパッとしない。
「やっぱ違うな。想像つかねぇわ。あんな奴が巫女様なんてな。」
言葉が素直じゃないなら行動で示せばいい。
少年にとってはそれが一番素直な意思表示である。
「あ〜、納得いかね〜。」
よく慣れ親しんだ少女の笑顔。
(果たして史実か否か。未熟な俺にわかったもんじゃねぇが・・・)
少年の目は怪しくギラギラと輝く。
「女の子を救った話が一つくらいあったほうが、後々カッコつけれるよな。」
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どうも、綴です。
今回の話は如何だったでしょうか?
なぜ、乙訓寺、醍醐寺と朱若のバイト先が続くかといいますと、鞍馬寺から距離が遠く、移動がきついため修行になるという法眼の愛らしい考えなのです(笑)
もし、気に入って頂けたら応援、星レビューしてくれると嬉しいです。
ここで少し小咄ですが、私の中で実はこの保元の乱編の結末はかなり前から決まってました。
この話は次の平治の乱、そしてその未来へと繋ぐための大事な話が尾を引くようにするつもりです。
誰が生き、誰が死ぬ。そんな単純な話ですが、それは後に必ず意味を持つ、そのように展開して行ければと思っています。
果たして史実かifか、どのように転がっていくか、今後の拙作を楽しんでいただけると幸いです。
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