第134話 再開の予感、名工宗近

「全く、大の大人が泣くなよ・・・まぁ、そのあれだ。お前を英雄とやらにしてやる!目にもの見せてやろうぜ。俺たちのやり方でな!」




「わかった・・・お前の復讐とやらに相乗りさせてくれ・・・。」





「・・・ッ!」


ドン・・・ッ!


「おいッ!?」


朱若は身体を腕で抱えるように倒れ込む。


(痛ぇ・・・ッ!やっぱりまだまだ耐えられねぇか。京八流の負担には・・・。)


あちこちが痛い。


筋肉や健の一つ一つを全力で殴られ続けるような感覚だ。


「大丈夫だ・・・ッ、こっちの問題だ。見られるとまずいからお前は行け。俺は鞍馬寺にいる。折を見て境内の裏まで来い。」


「わかった、死ぬんじゃないぞ、大将。」


そういうと奥へ出ていった。


「大将・・・か、悪くない。」


(にしても・・・)


凄まじかった、これが京八流を人に対して使った率直な感想だった。


(あの時、目の前の景色がスローモーションのように見えて・・・けど自分はその中を全力で走ったような感覚で・・・とにかく、これを極めると相当・・・だな。)



ビキビキ・・・ッ!


「げッ!?ぐぎぎぎぎッ!?」


(明日の起き抜けが最悪なのは確定したな・・・。)



グオオオオオオオオオオオ・・・ッ!!!


「なッ!?何だこの地響きは・・・ッ!?」


辺りがカタカタと震えている。

不可思議な音が段々とこちらに向かってくるような不吉な警鐘。


(く、来る・・・ッ!何かやべぇやつが・・・ッ!)


・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!


「ーーーーーーーーーーーッ!?」


ズゴゴゴゴゴゴゴ・・・ッ!


ズドドドドォォドドドトッ!!!!!!!!!!!!!!!



「こ、小屋がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?!?!?!?」



バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキッ!!!!!!!!!



ズシャッ!ドシャッ!


ズドドッ!!


ドンッ!ビシャッ!


バサバサバラバサバラバラバラ・・・ッ!


ガララララッ!!!!



・・・




ッ!!!ーーーーーーー



ーーーーーグオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーッ・・・・!!!!






ビシィッ・・・!!!!!!!!!!!





「ッ!?」


(なっ・・・矢ッ!?北のから・・・・・・・ッ!?あいつッ!まさかッ!?)



崩れ落ちる中、朱若の目は捉えた。



筋骨隆々の異丈夫が番える左手を。




(まさかッ!?ヤツがこれをッ・・・!)




ズドドドド・・・・ッドシャッ!!!!!!!


ガラガラガラガラガラガラッ・・・!!!


「くそッ!倒木で視界がッ!」




ズドーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!



袴垂の古屋敷は豪炎を巻き上げ嵐に飲まれたかのように豪快に崩れ落ちた。



ーーーーーーーーーーー


焼け落ちる寸前のお堂から扉を開いて外に出ると機をうかがっていたのか乙若や姉が待っていて駆けつけてきた。


「おいッ!?大丈夫なのかッ!」


「グッ・・・まぁ、五体満足さ。」


(あいつは・・・いねぇ。何者なんだ・・・ッ!)


「朱若、心配したのよ?」


「あ・・・ハイハイ、ねぇさんや。」


いじける姉をあやしていると乙若は再び頭を下げた。


「とりあえず言わせてくれ。ありがとう。本当に助かった。協力がなければこうしてまた兄弟達と会えなかったかもしれない。」


「「「ありがとうございます!」」」


三人の下の弟たちも後に続いた。


「こっちだって案外楽しかったよ。」


「た、楽しいって・・・君ってやつは豪鬼だな。」


驚き呆れるような顔。

しかし、どこか晴れ晴れしている。


「てか、全くよぉ、次から次へと厄介事尽くし・・・くそぉ、ついてねぇ・・・。」


「まるで、最近まで忙しくしてたようだけど?」


乙若が知らないのも無理は無い。


「いや、最近まで坂東にいたんだが、色々あってだな・・・。大体父親の腐れ縁みたいなやつに振り回されたようなもんだが。」



「そういえば、君の父親って誰なんだい?」


「あ?源義朝だけど・・・」


「ッ!?」


いきなり酷く狼狽したように見えた。


「んお?なんだどうした?」


「あはは・・・いやなんでもないよ。あ、それだ僕達はこの辺だ。じゃあ、また!」


「え?あ、あぁ、また・・・。」


(どうしたんだ?いきなり取り繕うように。またらうちの父親がなんかやらかしていたりして・・・。)


その背中が見えなくなっても疑問はぬぐえなかった。


今日はどうにも踏み込むと逃げていく日らしい。




ーーーーーーーーー


(源義朝・・・か。)


「兄上?どうしたの?」


「あ、いやぁ、なんでもない。行こうか。」


咄嗟に誤魔化した。






(なるほどね、まさかの息子だとは・・・。またとは言わず、いずれ近いうちにまた相見えるだろう・・・)








聡い少年は不敵にも、そしてそれを喜ぶように笑う。






(必ず・・・ね・・・。)















ーーーーーーーーーーーーーーーー


「姉さん、離れろって・・・!?」


「い〜や!嫌だッ!」


ホールドの如く、いや、虫が樹液を吸うために木に飛びつくようにがっしりと拘束されていた。


「行っちゃったね、あの兄弟。」


「なんだったんだろう・・・最後の感じ。」


最後の反応の変化は疑問を残したままである。


「ん〜?別にぃ?気にしなくていいんじゃない?」


うちの姉君は投げやりである。


「ぶ〜、朱若は私の事なんて・・・心配されてるって考えてないもんね〜!」


(いじけていらっしゃる・・・。)


「はいはい、面倒臭い。よしよしどうどう・・・。」


「むむ・・・ばーか!」


こじらせてしまった。



「あ〜あー、わかったから!!!ほら・・・。」


朱若は手を差し出す。


「ん〜?」


「い、いやほら・・・迷惑かけたんだし・・・その、迷子にならないように姉さんが手を・・・逃げないように・・・」


「・・・!」


「く、鞍馬寺への途中までだ・・・。まだしゅ・・・修行中だから。あと、しばらくしたら帰るから・・・。」


姉は目を見開いている。


「お・・・おい!は、早くしろッ!!!」


「ムフ〜!!!!!!」


「グッ・・・!なんだよ・・・!」


限界な少年はもう装えない。


「照れちゃって照れちゃって!もう〜〜〜〜ッ!朱若は可愛いなぁ!」


「う、うるさいッ!!!!!!ぐぬぬ・・・誰得でこんな姉弟ムーブをぉぉぉぉぉッ!!!」








ーーーーーーーーーーーー



「じゃあね!また来る!」


「私はもう勘弁です・・・。」


死にかけた顔の景義が市場をさ迷っていたのを見つけたので預けることができた。


「ていうか、小太郎もいるのか。お前ならこんなヘマしないだろうよ。」


「いや、まぁ・・・ちょっと途中から面白くて・・・」


「おい!?」


最近小太郎は遊び心が過ぎる。


(果たして主従とは・・・。)


耳元で小太郎は囁く。


「それに本当に危なかったら介入しましたよ。あと、あの御業、見事でございました。」


(くそ、わかってやがるじゃねぇか。)


全く、とんでもない部下を持ったものである。


「そろそろ行くよ。頼んだぜ?」


「「御意!」」



「じゃぁ俺は・・・」




ガシッ!



「ん!?」


「朱若様!」


「く、九無!?」


本日二回目、がっしり拘束された。


「九無は寂しゅうございます・・・。何時になったらわ、わわッ!私の物にッ・・・!!?」


「ムフ〜!やっぱり朱若!私の勘ぐりに狂いはなかったわ!」


「あらら・・・。」


「うぬぬ、またまた面倒臭いことに・・・。」





「・・・ぬがぁぁぁぁぁッ!!!姉さんッ!変なこと吹き込んだなッ!?勘弁しろってのぉぉッ!!!!!」











ーーーーーーーーーーーーーー


「む、戻ったか・・・。ぬ・・・?その疲れた顔には触れるべきか?」


「結構です。」


硬派で鳴らした鬼一法眼すらこうも言わせるとはよっぽど酷い顔であるのだろう。


(鏡があったら俺が一番見てぇよ・・・。)


「まぁ、茶番はいい。明日は三条通りに行く。早めに準備しておけ。」


「え?あ、はい。」


ずっと修行続きであった故にかなり珍しい。

こうして外出の用向けに同行させてくれることは。


「師はなんか予定があるんですか?」


「知り合いに会う。刀工だ。」


「は、はぁ・・・?」


朱若を見て情けないように感じたのか呆れて鬼一法眼は鼻を鳴らす。


「厳密にはお前の用向きだぞ?」


「へ!?」






ーーーーーーーーーーーーーー




「な、なんだここはぁ・・・!?」


見渡す限り優雅な寝殿造の屋敷があちこちに立ち並ぶ。


「ここは有数の高位貴族が居住を構える通りだ。」


「刀工って聞いたからてっきり武骨な鍛治街だと・・・。」


「あれは摂関家の東三条殿だ。あれは朱雀院だな。」


「ひぇ〜〜〜ッ!?!?!?!?」


果たして後ろ手を組み前を歩く師には驚きなる感情は無いのだろうか。


(時代錯誤があってもそりゃこの時代の庶民でも驚くってさ・・・)


カーン!カーン!カーン!


「ん?」


途端、金属音が長鳴りする音が聞こえる。


「ふむ、やってるようだな。着いたぞ」


「え?あ、ここが?」


貴族たちの雅な屋敷が立ち並ぶ中において粗末にも見える木の小屋であった。



「来たぞ。」


そこにはか細くも逞しい、直垂を身にまとい熱鋼と向き合う男。


「話しかけるな。そろそろだ・・・。奥で待ってろ。」


「だそうだ、ついて来い。」


(勝手に他人の家あがっていいのかよ・・・。)



「ここらで休ませてもらうか。」


おもむろに敷かれた座布団に腰を下ろした。


「あの〜そんなにくつろいじゃっていいんですか?他人の家みたいだし・・・」


「構わんさ、ここは私の旧来の友人宅だ。それに姐さんにも世話になってるな。」


(あいつの人脈はどうなってんだ・・・ッ!)


「姐さんを引き合いに出してお前が我が物顔するんじゃない、鬼一。」


いきなり煤まみれの直垂の男が顔を手拭いで拭きながら現れた。


「あ、えと。お邪魔してます・・・。」


「うむ、そなたが姐さんが言ってた少年か。」


武士のような質実剛健とした気風を残す口調でどこか硬さを感じる。


「あ〜すまぬ。別に萎縮させようって訳ではなくてだな・・・私は人柄をも見て鍛えたいと思ってるだけだ。自然体でいればいい。」


(悪い人では無いみたいだ・・・。)


「朱若と言います。あ、あの鍛えるって・・・?」


「む?」


「え、いや・・・」


驚きで返された。


「なんも知らせていないのか、そなたの師は。」


「すみません・・・。」


怪訝な顔をして片目でこちらを伺う師を見た。


「フン・・・。」


(え・・・理不尽・・・。)


「まぁ、いいだろう。この際だ。そなたは自分の為のものはあるか?」


「もの?」


「ここは鍛冶場だ。察しはつくだろう?」


「あ!腰のもの・・・みたいな?」


大きく首を振って頷く。


「えっと・・・親父・・・いや、父から貰った短いやつと、戦場でその度に渡される手頃な脇差を・・・」


「ふむ、そうか。」


瞬時にがってんしてみせる。

このわずかの間に何を理解したというのだろう。


「なんでしょうか?」


「毎回違ったもので慣れていないからそろそろ、自身の身の丈とは合わず扱いに苦しんでるのではないか?」


「!」


(まじ・・・?俺の懸念とドンピシャなんだけど・・・。)


「あ〜いや、あの私如きが大変恐縮なのですがまさしく、その通りなのが恐ろしいのですが・・・。」



「ふふ、別に構わないさ。正直多少の自覚はあるつもりさ。」


腰に手を当て胸を突き上げ得意げである。






「まぁ一旦それは職病業として話に戻るとだな・・・」






「要は君自身の得物を作ってみないかというわけだ。大きさ、用途、簡単な仕掛けとか、色々要望も言ってくれて構わない。極力実現することを約束する。」


「え!?」


まさに青天の霹靂。

そんなオーダーメイドができるのなら素晴らしいことは無い。


(いや、あまりにいい話すぎて不安なんですけど・・・)


思わず師に確認を取るように目配せしたが、鼻を鳴らすだけだった。


然り、是とでも捉えられるだろう。


「あ、ありがとうございます!お願いしてもいいですか?」


「勿論だ。おお、そうだ。名乗るのを忘れていたな。私は『宗近』だ。三条ではそれなりに有名だから三条の宗近とでも呼ばれているな。」


「あ、よ、よろしくお願いします。宗近殿・・・」


(・・・・・・・・・)







(・・・ん?どこかで聞いたことあるような・・・。)


取っ掛りあるワードに少し考え込む。


(宗近・・・三条の宗近・・・?三条宗近・・・・・・・!?え!?もしや・・・平安時代頃の再現不可能な業物の古刀の天下五剣の中に『三日月宗近』ってあったよなぁ確か・・・。ま、まままさかぁ〜ち、違うよなぁ・・・?)




「あ、あのう〜?」


「む?」


「もしかしたら、違ってるかもしれないかもしれないけれどだといいのですが・・・」


冷や汗のままに言語に顕在化している。

朱若の知能指数は現在右肩下がりである。






「三日月宗近を鍛えられたと言うのは・・・?」














「俺はそいつから数えて五代目の宗近だ。」






「・・・はい。」


「?」






(やってるわ、これは・・・。)




規格外にも程がある。




(刀初心者にいきなり最初の専属が伝説の名工伝来のオーダーメイドとか気が重すぎるって・・・)




こういう時、決まって師は余計なことを言う



「壊したら国が動くぐらいにはイカれた代物だぞ。反逆者にならぬような。」







(ひぇ〜〜〜!?今そんなこと言わなくていいでしょうよッ!!!!!!)























ーーーーーーーーーーーーーー


どうも、綴です。


今回は如何だったでしょうか?


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