第113話電光石火の奇襲劇、誕生『鎌倉悪源太』

「見えたッ!」


最前線を駆ける義平はついに大蔵館に到達した。後ろを向くと、着いてきている家来は僅かに十騎。


「・・・。少ないが、あまり問題ではないな。」


「え?」


義澄の拍子抜けた声のしたあと義平の口から驚愕の一言が飛び出す。






「是非も無い。ただ駆けろ・・・。」





義平にとってこの戦は何なのか。


坂東の覇権争い?


源氏の棟梁の確立?


自分の武名を上げるため?






「違う・・・。」




元々、最初から眼中に無い。


この戦は弔い合戦だ。


死んではいないから弔い合戦とはおかしいかもしれない。




だが・・・






「てめぇらぁ!!!!!!これから俺は重隆の首を獲る!お前らも雑魚には構わず名のある奴を徹底的に狙え!この戦で名を挙げたい、生き残りたいと思う奴がいるなら・・・まずはただ駆けろ!」


凶刃に倒れた愛しい弟が頭に過ぎる。


(朱若・・・)



もう一度兜の緒を締めた。











「この戦、兄貴に任せろ!!!」





義平は馬の腹を蹴り愛馬は力一杯に闇夜を駆ける。その先の敵の灯火目掛けて。








「うおおおおおおおおおおおおお・・・らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」





「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ぶぅぅぅぅぅぅッ!?!?」


「げぇぇぇぇぇぇッ!?!?」





辺りの兵が一瞬にして吹き飛ぶ。


「な・・・なんだ!?」


「何がどうなって・・・ぎゃッ!?」


いきなりの出来事に反応が遅れた兵士達は次々と斬られていく。



「逝けよ・・・。苦しまずにこの世を去れることに感謝しながらな?」


馬上から槍を振るいまた首が落ちた。


義平の勢いは止まることを知らず立ち塞がるものは首や腕、脚のいずれが瞬くまに吹っ飛んでゆく。


が・・・突然義平は馬を止めた。


いや、止めされられた。


「ここから先には行かせん!」


「囲めばお主とてお終いよ!」


「貴様の首・・・ここで貰い受ける!」


六人に囲まれた。


「・・・だけか。」


ボソリと呟いた義平に武士達は勝ち馬に乗った口で罵る。


「?なんだ!何か言ったか?」


「怖気付いて言葉も話せぬか!はっはっは!」


「この腰抜けを冥土に送ってくれるわ!」


武士は太刀や薙刀、弓などそれぞれの武器を構えて臨戦態勢をとる。


義平は絶対絶命・・・のはずだった。


しかしだ。


武士達はおかしいと思わなかったのだろうか。


この場に奇襲をかけるような男の自信は一体どこから来ているのかを少しでも測りかねたのか?


最初から結論は決まっていた。


そう、お互いに。


武士達は無論、数の上で仕留められる。


なら義平の出していた結論とは何か。




「俺を殺すのにッ!たった六人だけか!面白いなお前ら!」




その言葉に囲む武士は固まった。


そして、怒った。


「我々を舐めるのも大概にしやがれ!」


「首を落とせば土地を沢山平らげられるぞ!」


「数で有利なんだ!やれぇ!!!」


六人それぞれ六方向から様々な武器が義平に牙を剥く。


「すまんな。ちょっと周りを走って戻ってこい。」


愛馬の背に右脚を乗せて首を軽く撫でてやった。そして・・・


「ふっ・・・!」


左脚で馬の腹を蹴り馬が前方に猛烈な勢いで走り出す。


「なぁ・・・ッ!?」


「こ、これは・・・!?」


馬上に義平の姿は無かった。


その時の武士達の視線はバク宙して暗き天を舞う荘厳な鎧武者に敵ながら見とれていた。


馬の背に乗せて曲げていた右脚を伸ばす要領で蹴りあげそのまま虚空を地を背に舞う。


頭上から見える武士は自身の行動に固まっており義平は笑みを浮かべた。


「その一瞬が・・・命取りだ。」


そのまま頭から地面に落下する形で義平は横にきりもみ回転、槍は後方右の弓使いの心臓を豆腐のように風穴を空ける。


「こは・・・ッ!?」


「一人。」


そのまま、地面に突き刺さった槍を軸に浮いた身体を腕の力で起こした遠心力で左に急旋回。

空中落下とその勢いのままの遠心力を受けた強烈な右脚蹴りが相手の左頬に鎧を破壊して突き刺さった。


「ぶ・・・ッ!?」


「これで二人・・・。」


続けざまにその力のまま、腰の脇差で居合一閃。


「ぐあ・・・?」


「三人目。」


「く・・・くそおぉぉぉぉ!!!」


いきなり半分やられた武士達の頭はようやく処理に追いついたのか義平になりふり構わず突っ込む。


すると義平は槍から手を離した。


加速して止まらない義平はそのまま空中を滑空して襲いかかる一人を脇差しをその武士にまっすぐ突きつける形で刺突、有り余る力で後方で未だ固まっていた武士をもまとめて貫く。


「四・・・五人。」


「あ、ああっ・・・!?鬼だ・・・。こいつは鬼だった!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


最後の一人は怯えて戦意を失いへたり込む。


二人を貫いた脇差しを最初に貫いた武士の屍に両足をつけて蹴り込むことで屍から刀を引き抜いて再び怯える男の元に天から舞い降りる。


そして・・・


「これで最後、六人目。じゃあな。」


そのまま落下姿勢から顔面に渾身の拳を叩き込み、男は息絶えた。


「強い・・・強過ぎる・・・!」


「こ、こんな奴に勝てるわけない・・・ッ!」


「あ、ああ、悪・・・悪源太じゃ・・・。鎌倉悪源太じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


その時、武士達は血の舞う戦場で一人の名将の誕生を見た。




「鎌倉悪源太・・・か。」


当の本人は拳に付いた血を手首を振って落としていた。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「重隆様ぁぁぁぁぁ!!!!!義平めの、き、急襲にございまするぅ〜!!!」


「な、なんだとッ!?」


重隆は驚愕を露わにする。


「有り得ぬ!何故だ!やつは何故こんな大事な戦に急襲を選べたのだ!イカレている!こんなやり方戦では無いッ!そなたッ!逃げる準備を致せッ!」


「は、はいっ!ただいま・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


走って準備に向かった武士は悲鳴をあげた重隆の元に首が転がってくる。


「おいおい、逃げる準備かよ。釣れねぇな。俺ともうちょい遊ぼーぜ?」


飄々とした声に血濡れの戦装束。


「ぐっ、貴様・・・何者ぞ!」


「源義平。」


「な、お前がッ・・・!?そんなまさかッ!?」


あまりの驚きに重隆は後ずさる。






















「な?早く俺に殺されてくれよ?お前がこの世から消える理由はさぁ・・・俺の逆鱗に触れたたこと、それだけだ。」

























ーーーーーーーーーーーーーーーー


どうも、綴です。


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