第105話伸びる触手、舞台裏の暗戦

「ふふふふ・・・ふはははは!!!

いいぞ!調べたところ近々一万は動員できるとな?これで義平の若造を踏み潰せる!」


複数の家臣を侍らせ包み隠さず悪意をむき出しにする。


秩父重隆。

秩父党を牛耳る野心家。

その行いは粗暴かつ傲慢。


「くくくく・・・佐竹にも、千田の親政にも領地は切り取り次第と伝えろ。これで私は坂東の覇者となるッ!さすればあの傀儡くぐつにもそれとなく退場願おうか・・・この世から・・・な?」


その触手は確実に坂東に伸びようとしている。












ーーーーーーーーーーーーー




「ッ!」


キーンッ!キンッ!キィィィンッ!


金属どうしがぶつかり合う鋭い音。


「・・・。」


「やっぱり怪しいやつであったな。」


(どこからバレた・・・。疑いたくは無いが、我らの中に内通者が・・・?)


小太郎は依然想定外にも冷静に頭を回す。


「見るにあなたは斎藤判官殿だな?」


「いかにも。安心せよ。そなたらに内通者はおらん。その忠義と言ったら見上げたものよ。少々聞きどころには申し訳ないことをしたとは思っている。」


「脅したのか?」


強引と聞いて少し主たる朱若にとって最も嫌うことをしたのかと空気が僅かに怒色が混じる。


「いや、殺生はしておらん。あくまで穏便に口車に乗せただけだ。決して彼の者の反目では無いことは保証する。」


「やけにその者を庇うのだな。」


普通、でっち上げて離間の計(内部争いをデマを流して起こす謀略)を狙うものの、そこはキッパリと否定しているようなものだ。


「元々、人が死ぬのは好きでは無いのでな。」


「我が主と同じ意思にあるとはな。こっちに来ぬか?」


小太郎は思わず斎藤を勧誘する。


「いやいや、私には通さねばならぬ義理が残っておられるお方がおりますゆえ・・・」


「なるほど・・・それは残念。それで、拙者はどこまでの行動を許さぬと?」


「暗殺、そして情報収集でござる。」


至って単純な提示だった。

小太郎はしばらく考えて決心する。


「・・・致し方ない。ここは引くとしよう。押し通ると返って穏便を吉とする我が主に申し訳が立たぬからな。」


腰に手を回して短刀をしまう。


「なるほど、見るに貴様らの矜恃を害する以上に忠誠心が勝ると見える。そうさせるほどの良き主というわけか。」


斎藤にはあくまで見下した様子は無い。

本心に近い言葉だろう。

しかし、小太郎にとっては大した反応は示せない。


「その褒め言葉には感謝するが、主の命次第では次会うときは命を貰うつもりで来ると思え。さらばだ。清廉潔白な志士よ。」


跡形の気配も残さずに影が霧散したのを確認し斎藤はため息を吐いた。


「死ぬかと思ったわい。だが、これで義賢様への義理を果たせる・・・。」


(義賢様やその奥方、駒王様は絶対に死なせる訳にはゆかぬ・・・。重隆の隙を見て中原殿の元へ逃がせればよいが・・・どこまでの可能性を信じるべきか・・・。)







ーーーーーーーーーー


「ただいま戻りました。」


例のごとく小太郎が目の前に出現する。


「ん?珍しくボロボロじゃないか。お前らしくない。」


「申し訳ありませぬ。良き報せを得る前に勘づかれました。」


小太郎が床に頭をつけて謝罪した。


「待て待て!そこまで謝るなよ。むしろ危険な場所からいいネタを持ち帰ってくること自体が普通じゃないんだから、生きて帰ってきただけで十分豊作だ。」


「勿体ないお言葉・・・。」


忍びは相手に知られ捕らえられたり任務を失敗すると自身の命と引替えに責任をとると聞いたことがある。それは相手に情報が漏れないためでもあり彼ら自身の矜恃とけじめのためでもある。


だが、人間失敗はある。

それぐらいで死んでもらっては有望なやつはいくらいても足りないのだ。

最も、命は軽くない。彼らとはそもそも仲の良い友でもあるのだ。


(任務に失敗しても生きて帰ってきたら褒美をとらせて労うと今度から言い聞かせておこう・・・。)


「実は、情報を集めている時にその相手に見覚えがありました。名を斎藤判官実盛・・・。」


「ま・・・まじか・・・。」


斎藤実盛で知られる平安末期の義将。

誠実な人柄と確かな武勇知略で常に多様な陣営から尊敬を集め、故にその間で葛藤し続ける男。

ここでその史実を語るにはあまりにも無粋すぎる。


「何分殺生は好まぬ様子で引くならば、手出しも報告も致さんと。」


「・・・。やつはうちには・・・」


「誘いましたが、義理があると・・・」


「まぁ、やつらしいな。」


「は・・・ッ!?」


突然、顔を青くする重能。


「どうした?うじ・・・重能?」


未だ氏王丸呼びから完全には抜けれていないのはともかくとして驚くべきは重能が次の瞬間床に頭を叩きつけて恐縮したことだ。


「申し訳ありませぬッ!この重能!一生の不覚にござるッ!この報いは死を以て・・・」


「いやいやいやいやッ!?待て待て待てッ!?

死ぬのはやめろッ!?話が全く見えてこないがどういうことだ!?」


いきなり腹を開いて刀で切腹を図る重能。

突拍子が無さすぎて思わず固まったがすぐに止めさせた。


「なるほど・・・。だいたい分かりました。」


「何がッ!?」


説明無しに合点がいった小太郎に事態に追いつけない朱若は思わずツッコミを入れた。


「実は・・・斎藤判官が言っていたのです。口車に乗せた者がいると。私の存在や行動する流儀を知った上で侵入を察したのでしょう。その口車に乗せられたものと言うのが・・・」


「重能というわけ・・・か。」


理解した朱若のため息を重能がまたほとばしる。


「うう・・・ここはやはり私の腹で・・・」


「別に咎めたりはしないからッ!?だから死ぬのはヤメテッ!?」


そしてことの次第を説明された。重能と小太郎から斎藤関連の話を余すことなく聞いた。


「なるほどな。斎藤は重能の父の頃からの仲で両陣営に親しいものがいるからなるべく血を流したくないってことか。じゃあ、小太郎のことを阻止しようとしたのは・・・」


これから推察されることはと最早ひとつ。


「はい、斎藤の言った通り暗殺と情報漏洩の阻止でしょう。」


確かに暗殺は合点がいく。


(しかし、情報漏洩まで恐れるのはなんだ?)


この時代はそこまで内部に侵入して行うほど情報に固執するような戦国時代という訳でもないはずだ。

万が一にということも考えられるが、明確にそれを伝えたというのは当たり前のようで引っかかる。


「・・・ひょっとするとですが・・・」


何か引っかかる素振りを小太郎が見せる。


「去り際に斎藤が義賢やその奥方、駒王という者の命を案じているように漏らしておりました。」


(駒王・・・。確かこの時二歳ぐらいだったか。やつは後の・・・)


源義仲・・・後の旭将軍 木曽義仲。


(俺は知っている。向き合う必要がある。この駒王に訪れる残酷な史実を・・・。俺が変えなくちゃならない史実を・・・。)

































後の旭将軍 木曽義仲こと駒王は、

大蔵合戦にて・・・





































自身の父を僅か二歳にして喪うことになるのだから。
































ーーーーーーーーーーーーー


どうも、綴です。


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