第67話数百年の遺恨
・・・・・・・・・・・・☆
『・・・・・・。』
照りつける陽射しから逃れるように風化した石灰岩の洞穴に蠢く影。
『・・・クソ・・・。』
『アイツさえ・・・、アイツさえいなければこんなことには・・・。』
語られることの無いある種死んだ歴史であった。
四百年前・・・・・・・
「く、クソがァァァァァァッ!!!!!」
鮮血に体を帯びた衣を振りかざして怒りを露にした先にいたのは恨みきれない自身をどん底に叩き落とした者の姿。この世で最も聖なる場所であるこの大広間も今は紅い炎に包まれて不謹慎にも美しく照り映えている。
「長かった・・・。俺がここに来て成し遂げる最後の改新、それがお前の討伐だ。もう安堵だの、怒りだの、感激だの、たくさんの感情がぐちゃぐちゃになって色んな意味で戦慄(わなな)きがとまらねぇよ。」
「許さァねぇ!いつもいつも邪魔しやがってぇぇ!」
向けられた憎悪にその者は力の入った眉間が揺らぐことは無い。
「終わりに・・・しようぜ。誓約・・・顕現ッ!」
「・・・!?」
ーーーーズイイイィィィィィィィィィィッ!!!ーーーー
聖(ひじり)が後光を纏うような輝きが切れ味なんてあるはずがなかったはずの剣一点に収束され、それはやがて森羅万象を冥き眠りに誘うような宝石を纏った"黒い何か"に変質しこの世界を覆い隠す。
(何だ、このどこか見慣れたようで見た事もない眩しくて暗すぎる世界はッ!?)
抗えぬ圧倒的未知力を前に何も出来ずに煌めく暗黒に沈んでゆく。
「クソッタレがあァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
ーーーーーーーーーーー
『クソッ!あの時は本当に終わったと思った。しかし・・・』
震えを隠せないように細かく影は揺れる。
『私は生きているッ!そう、あの憎き男がいない後の世に!アイツをこの手で血に染められないのは無念だが、そんな者が守ろうとしたものをぶち壊して私がこの世を統べることを知ったら奴はどんな顔をするであろうか!ククククククク・・・フハハハハハハハハハハハ!!!』
見えもしないのに誰もが愉悦に浸っていると分かるような不気味な声。純新無垢な世に再び容赦なき未知なる悪意が生まれる。
『ぬ・・・、あれは。』
ボロボロの麻の布きれをきて泥だらけの顔を涙でしきりに濡らしていた。
「うぅぅ・・・、ス〜、アンマァ〜。」
いかにも冴えない孤児だった。
『そうか・・・、フフフフ。ちょうど良い。』
あたかも玩具でも見つけたような自覚ある悪意を帯びた怪声。
『あの"神越"がいない今、この世の全てを丸ごと絶望に染めて食らってやる。』
悪意の残滓は未だその遺恨を忘れずさまよい続ける。
その本質が剥き出しになる時は・・・近い。
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