第68話人事を決めよう、壊滅的人事命名会議

「はぁ〜、また質問攻めだった・・・。」


どさりと寝転ぶ。最近はよく季範翁がこちらの腹を探ろうと会う度に質問の応酬をしてくる。油断したら沈み込むような眠気が襲ってくる。


「いるか〜、こたろ〜。」


ーーースンッ!ーーー


「はい。」


「うぉッ!?相変わらず・・・」


「・・・」


沈黙のまま見つめ合う。


「なあ・・・、その耳元で囁くぐらいに顔近づけるのやめてもらえない?」


何度こうしても驚いてしまう。それもそのはずで小太郎は一般的にイメージされる忍びのように天井から降りてきたりいきなり襖が開いたり、障子がピシャリと開いたところにするのではなく、いきなり音も立てずに後ろに現れているのだ。しかも最近は振り向くと顔面ドアップという特典付き。


「なんか、楽しいので断固拒否します。」


「・・・。」


あまりの拒絶ぶりに何も言葉が出てこなかった。


「ま、まぁ、呼んだのはかねてから考えていた人事の話だ。」


「人事・・・?」


いきなりのニューワードに小太郎も真顔のまま顎に手をあてる仕草をしている。


「俺もそれなりにだが郎党たちが増えてきた。今まではざっくばらんとしていた各役割をまぁ名前をつけるだけになるかもしれないけど明確に示していた方が各々にとってもいいんじゃないかなと。」


「所謂、朝廷の官位のようなものと?」


「そんな大それたもんじゃないけど認識は大体あってる。とりあえずここにいる郎党たち全員集合〜って言ってきて。」


「承知しました。」


というわけで労働が集まり朱若による人事整理が始まったわけだが、正直今仕事を任せている郎党に対しての役職の名前と簡単な仕事の定義を示して書き記したら終わりなのでそこまで難しくない。つまりは事務仕事が主というわけだ。


「まずは・・・、信太小次郎!俺は小次郎に戦術などの頭脳的一面を任せようと思っているから、『軍師』ってことで安直にどうだ?」


「軍師…、いいですね・・・。」


何かしらネーミングセンスやらを馬鹿にされると思ったが思いのほかスタンダードの方が刺さったらしい。


(なるほど、意外と小次郎って俗っぽいやつなのか・・・。)


「次は・・・」


「はいはーい!私は私は!?」


厄介なのが割り込んできた。


「季邦・・・、ちゃんとお前のも考えてやるから。」


とりあえずまだ浮かんでないので流したかったのだが、


「え〜、・・・!私、自分できめていいですか?」


「・・・。」


とりあえず聞くだけならタダである。


「言ってみてくれ・・・。」


「いいんですね・・・?」


神妙に返してきた。


(こ、こいつ思ったより真剣・・・?)


「お、おう。」


「言いますよ・・・?」


「おう・・・。」


季邦は大きく息を吸ってその間沈黙が流れる。








「・・・。」







「・・・。」







「・・・。」







「・・・。」







「はあああぁぁ・・・。」


「間が長いわぁッ!さっさと言えよ!」


「分かりましたよ〜。『阿修羅』で・・・」


「『却』・『下』・だ!」


予想通りセンスは壊滅的だったので言い終わる前に言い渡してやった。


「え〜!まだ、最後まで言ってませんよぉ〜。」


「『阿修羅』って最後まで言ってただろう・・・。」


「『です。』って言ってない・・・。」


「それはあってもなくてもいいだろうッ!?」


前途多難すぎて朱若は思わず天を仰いで頭を抑えると、煮え切らない季邦が詰め寄る。


「なら、何か朱若殿はあるんですか!?」


「ん〜、そんないきなり言われてもな〜。『阿呆猪』とか?」


「思いっきり馬鹿にしてるじゃないですかッ!」


「上手いッ!同じ獣だけに!」


「ふざけないでくださいッ!」


「あっ!」


「どうした、小次郎。」


「『ウリ坊』とかどうですか!」


「子か親かの違いじゃないですかッ!」


「異議なし。」


「異議なし。」


「同じく〜。」


「というわけでよろしくな。『ウリ坊』の季邦!」


「いやだああぁぁぁぁッ!!!!」


周りも周りで囃し立てるように笑いを堪えている。噴き出しているのもいた。

何はともあれ源季邦はなんとも戦いぶりからは想像もできないファンシーな人事名『ウリ坊』になった。


「『軍師』の次は『ウリ坊』か。ぷぅーくくくくくッ・・・!」


「あ!今笑いましたね!笑った人絶対に忘れませんからね!?」


涙目を貯めて両手拳をギュッと握りしめて悔しがる。


「よぉ〜し。次は大庭景義!」


「『男色の一歩手前』。」


「す、季邦殿!?」


「・・・。」


一度変な風評被害が流れたが気にしない。


「『蔵人』でいいか?」


蔵人とは秘書のような意味を持つ役職だ。


「はい!」


気に入ってくれたのであっさり決めて次へ行く。


「次に風魔小太郎!」


「『覗き魔』。」


「・・・。」


(仕事柄否定できないかも・・・。)


少しだけ小太郎に罪悪感を感じた。


「お主は忍び達の纏め役じゃろう?、『忍頭』でどうじゃ?」


義隆が助け舟をだした。


「いいね。どうだ?小太郎。」


「拝命致したく・・・。」


「よし、決定!次は・・・源義隆!」


「『拳骨白髪親父』。」


「よしッ、採用!」


「ニヤッ・・・。」


バキィィィィィッ!!!

バキィィィィィッ!!!

バキィィィィィッ!!!


「いたぁ〜い。」


「ぐぎゃあ〜ッ!?」


「『却下』じゃろうがい・・・。」


握りしめた拳から湯気が湧いている。朱若と季邦がのたうち回る後ろに珍しくもう一人景義が頭を抱えてプルプルと震えていた。


「なぜ私まで・・・ッ!?」


「顔が笑っていた・・・。」


義隆は『相談役』になった。


その後雪ノ下にて農政に励んで不在の畠山氏王丸は『農政役』、土肥実平は『開拓役』と決まった。


「きょ、今日は解散〜。」


疲れて部屋の畳に仰向けで倒れ込む。


(一つだけ言えることがあるなら・・・。)




「二度と人事命名の評定はやらねぇ・・・。」








〜人事結果〜


信太小次郎 『軍師』

大庭太郎景義 『蔵人』

風魔小太郎飛影『忍頭』

源森冠者義隆 『相談役』

畠山氏王丸 『農政役』

土肥次郎実平 『開拓役』

源三郎季邦 『ウリ坊』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る