第57話理の外、伝え言
ーーーーーーーーーーー☆
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!
「・・・」
鎮西八郎為朝は動かない。
その目の前には荒れた大地を跡形もなく飲み込む大波。いや、現代で言えば津波に並ぶ規模だ。
(果たして、俺の弓で破れるか・・・、いや無理だな。)
自問自答ではいつも即答だった。
常に敵を見極めるときは決まって自身より「弱い」。
ーーーーーーーーーーーー
六年前、、、、、
ドンッドンッドンッドンッドンッ・・・・・!
「くうぉらぁァァァッ!!!ためともぉぉッ!」
「なんだ、親父かよ。」
突然の怒鳴り声に為朝もさすがにその方を見やる。
仁王立ちしているのは父、源六条判官為義であった。
「なんだではないッ!また市にくり出して喧嘩したそうだな。」
「おおっ!あ奴らは子どもを寄って集って虐めておったからのしておいたぞ!」
為義の発言を聞いてそんなことかと為朝は誇ってみる。しかし父の為義は為朝の思っていた反応とは全く反対であった。
「阿呆がァァァッ!!!!」
バギィィィィィィッ!!!
「おおおおおおッッッッッッ!?!?!?」
渾身のかかと落としが脳天を容赦無く襲い、為朝は辺りを転げ回り悶絶する。
「何すんだァ!クソ親父ィ!」
「貴様がのした小僧共は鳥羽院縁の寺の者たちだ!院庁を通じて貴様にその寺から猛烈な抗議があったのだ。」
「あ奴らが悪い事をしておったのだ。俺が報いをくれてやっても文句はないだろう。」
「はぁ・・・・。」
諦めたように為義は長い息を吐いて決意したように目を開く。
「為朝、お主はこのような事を如何程やったか覚えておるか?」
無論喧嘩のことであろうと察した為朝は間髪を入れずに真っ直ぐ渾身のしたり顔であった。
「もう百戦百勝だぜッ!」
「お主は勘当じゃ・・・。」
静かにプルプルと震えている。
そして・・・爆発した。
「鎮西に追放じゃあァァァァァァァァッ!!!!」
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二年後、、、、、
「あ〜、鎮西はこんなものか?暇じゃっどん。」
父親に頭を冷やせと勘当されて追放されてきてみれば、気づけばその地の有力豪族の娘と婚約し、吹っかけられた喧嘩を買って返り討ちにするを繰り返しあれよあれよという間に鎮西で為朝に逆らう人物はいなくなった。鎮西訛りも板についた。
「お前が鎮西八郎か!私は豊後の住人の某○○○なり〜。いざ尋常に勝負!」
「ふんッ!」
グゴオオオオオオオオオッ!!!
「な・・・、あ?」
たった一矢で身体の右半分を消し飛ばしていた。
(矢を放ったことも知らずに逝ったか、つまらん。)
自身の矢で貫けない相手がいなかった。そして今後も居ないだろうと思っていた。
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まるで長い間さまよっていた空虚な世界に一筋の未知という興奮に全てを照らされているかのようだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ッ!
(俺の矢では・・・、いや、当てられる前提ということを忘れていたな。こんなにも『的』が大きいではないか!)
「あれは・・・、ふふふ。まさかここまでとはね。」
為朝の周りに僅かに輝きを帯びているのを仙女は見逃さなかった。
為朝は弓を強く握り直す。そして烏帽子を深くかぶり直す。
(あとは・・・覚悟を決めるだけだッ!)
波に向かって全速力で走り出す。
勢いよく風をきって駆け抜ける。その風はいつもよりも心地よい。
(・・・ッ!)
左手で矢を三本まとめて抜き取る。
ザザザザザザザザ・・・・
勢いのままに滑るように足を踏ん張る。
そして三本の矢を纏めて矢に番え引き絞る。
ずじぎぎぎぎぐぐごごごがががが・・・
十七人張りの強弓が弓あるまじき生々しい音が鳴る。
(まだ・・・、まだ遠い。)
波はそんな為朝の心中を押し流すように迫る。
「・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・ッ!」
バシュュュウウウウウウウッ!
波を目の前に超至近距離から剛矢は放たれた。
ズババババババババパーーーーーーッ!!!!
「やるじゃない。」
仙女は見た。まことに不可思議かな不可思議かな。
「奇人の身ならずして大流を弓で風穴開けるとはね。鎮西八郎、あなたの弓矢には既に宿っているのね・・・。」
(よし!今のうちにッ!)
開いた風穴から為朝はそのまま波を駆け抜ける。
三本の剛矢は波を貫いた勢いで必殺の矢としてそのまま仙女に迫る。
「このまま仕留めさせてもらうぞ!」
なおも為朝は矢を番えている。届かぬ未知に手は届きかけていた。
「ふふふ、思った以上ね。鎮西八郎。」
仙女は笑う。全てをねじ伏せる、そんな理不尽でもふりかざそうとするように。
「終わりだッ!」
為朝の矢は仙女に届いた。
「我が父なる太陰、照らすは対極なる冥き世界。かの誓約(うけひ)を以て行使せん。」
はずだった。
ズズズズズズズズズズズズズズ・・・・・
バギィッ!、ボギィッ!
「なぁッ!?」
「ごめんなさいね?こんなクソッタレな祝詞、ほんとは唱えたくもないんだけど、仕方なく拘束させてもらうわ。」
突然矢が折れ、仙女の足元に落下する。
「平伏(ひれふ)しなさいッ!!!!!」
ズドドドドドドドドドドドドッッッッッ!!!!
「ぐうッ!?」
為朝は地面に叩きつけられる。
(身体が・・・重い!?)
「う、動かない!」
自分の身体に大岩でも乗せられているかのように僅かにも動じない。
(いや、違うッ・・・!えぐれた地面に埋まっていた大岩が衝撃で跳ね上がって俺にのしかかっているッ!?)
「どう?初めての敗北・・・らしいわね?」
目の前には含みある笑みを浮かべて片膝をつく形で仙女がいた。
「くそッ!俺の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。」
仙女は為朝の反応にキョトンと脱力したような驚いた顔をしていたがすぐに我慢できなくなったのか笑い始めた。
「あはははははっ!もしかして私があなたを殺すと思っていたの?そんな真剣な顔しちゃって。私はあなたにお願いをしに来ただけよ?」
「じゃあなんでこんなに徹底的にのされなくちゃならないんだよッ!」
お願いと聞いてピンとくるものがない為朝は思わず混乱して噛み付く。
「言ったじゃない。お願いするに値するか試すって。そしてあなたは私のお眼鏡にかなった。よく誇りなさい?」
「はぁ、俺には細かいことはよく分からん。勝手に言え。」
聞き分けた為朝に仙女は笑いかける。
「よろしい!なら心して聞きなさい。あなたには恐らく近いうちに都で起こるであろう大乱である人物の前に壁として立ち塞がって欲しいの。」
「壁として立ち塞がる?お前の意図は分からんが、そいつは誰だ?」
「ふふふ・・・、その子の名はね・・・」
耳打ちすると為朝は拍子が抜けたように仙女を見る。
「・・・わしより強いか?その者は。」
「さぁ?これから次第じゃない?じゃあお願いね〜。」
「ああ!?おいッ!ちょっと待てッ!」
仙女は呼び止めるのを聞かずにどこかに消えてしまった。
残された為朝は一人でに快晴の空を黄昏れる。
「この岩、どうすればいいんだ?」
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