第47話供養、報告
「ここか?小次郎。」
「はい。」
「この寺か。お前が最後にやりたいことって。」
目の前には小さな寺院が佇んでいる。
「父がここに葬られるので、ちょっと御先祖や鎮守府将軍に報告をと。亡くなった信太の者たちも同じく・・・」
ここは平将門と叔父である平良文(たいらのよしふみ)にゆかりある寺らしい。常胤も知っていると二つ返事師胤を付けてで連れてきてくれた。
「そうか。良かった・・・。」
(あいつ、死ぬ寸前なのに笑ってたな・・・。)
まさに絵に描いたような百姓の娘だった。
目の前で冷たくなる。そんな時何も出来ずに笑い語る彼女を見るだけで良かったのか。
(分からない。いや、本当にそうなのか・・・?)
死してなぜ笑えるのか。悔いがないのか、その年端もゆかない幼さで。
かつて初陣で屍を見ても何も思わない自分が出来上がっているのかと思っていた。
だが、絶対にそれはありえない。
なら、あの少女の事切れる寸前に確かに刻みつけられた感情はなんなのか。
計り知れぬそこから込み上げる悔しさは・・・。
それが今・・・わかった。
(ああ、そうか・・・、俺はあえて無意識に忘却していたんだな。あの夢を見た日から、姉に救いを求めた時から。源氏の為だとか言って俺だからこそ持ち続けることができる、『朱若』としてでは無い心の断片を・・・)
結局どんなに平静を装っていたとしても自身が殺めたのは一矢で一人、それが現実なのだ。
「俺は・・・、しっかり持ってたんだな。今では非常識な生存願望ってやつを他人にも求めることが・・・。」
屍を見た時の虚無は源氏の血じゃない。
前世の『誰か』が心が受け止めきれなかった。
(そういう事だったのか・・・!あの時虚無だったのは単に死に対して耐性がついたわけじゃない。あの屍が『誰か』の倫理観が追いつかないほどの情報量で俺の頭が麻痺してただけなんだ・・・。)
朱若は武士としてじゃない。人として救う。
死に様なんてクソ喰らえだ。
(この感情を忘れてはいけない。俺が『朱若』として俺だけができる救いを、これ以上誰にも、生きることを諦めさせねぇ!)
「・・・。」
その道は朱若が諦めぬ限り終わりは無い。
ーーーーーーーーーー
手をあわせて墓地を見渡してみるがふと近くの林が不自然に光っているように見える。
「ん?おい、なんだあれ?」
「さぁ・・・?平氏縁の寺ですし、平氏の宝という方が可能性はありますね。」
近づいてみるとそこには木々がが生い茂るある根っこに剣が突き刺さっていた。
「・・・。どうする?」
「朱若様が見つけたのですし、あなたが引き抜いてみては?」
「何が起こっても知らないぞ!」
簡単に抜けた。
「何か起こるとしたら引き抜いた朱若様ですよ。」
「しっ、しまったァ!?お前、わざとだな!?俺が引き抜いた後に言ったの!?」
そっちのけで剣を見つめる小次郎が何やら呟いている。
「七つの星が刻まれた剣・・・。」
「ん?」
「ああ、なんでもありません。行きましょうか。」
「そうだな。」
去り際に朱若も気づかぬように振り向き小次郎は告げた。
「我らに妙見菩薩の御加護・・・か。」
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