第48話下総立つ
???、某屋敷
「何?親政が敗れた?」
「はい、しかしどうにも佐竹が動いた理由も分かるのでございますが、誰が動かしたか。信太師国は討ち取られておりますが、千葉師胤が援軍として常陸に侵入して軍の一部をほぼ無傷で壊滅させております。」
「どういうことだ。千葉が信太を助ける義理もない。それに佐竹ともろくに動かそうとも考えつかんだろう。千葉師胤は戦における活躍を好む武士と聞く。」
「では動かしたのは・・・」
「現状考えられるとするならば千葉介常胤だろう。しかし、そこまで奴が動くほどの恩を信太はしたとは言えん。佐竹とも縁は少ない。」
「黒幕が居るのかもしれません。」
「うむ。その者はさらに相当な切れ者だ。警戒せねばなるまい。」
(一体誰なのだ。義朝と六条判官が争うのにかこつけて密かに我らが故郷たる坂東を侵食しようとしたのだが、、、。ふふふ・・・。我が一族の栄達を妨げるのなら容赦はせぬが・・・面白い。)
下総国、千葉屋敷
「行かれるのですか。」
「ああ、今まで世話になった。千葉の爺。」
目が震えている。いつの時代も別れとはしんみりするものだ。
「道中お気よつけくだされ。上総国は荒れるやもしれませぬ。」
「大丈夫だ。上総一族も余程のことでない限り大それたことはしないだろう。」
千葉常胤は宗家総出で見送りをしてくれた。千葉常胤の妻は亡くなっていたが変わりに胤正とその奥方が見に来ている。
(確か、大蔵合戦の始まるより前に生まれたか。胤正の子は。)
気まぐれな運命を笑った。常胤でもなく胤正でもなく、まさかこの奥方の腹にいるかも分からない子が千葉の長きに渡る因縁を終わらせることになるとは。
(あれ?なんか懐の剣、輝きが増してる、、。)
小次郎は懐の違和感を覚える。
「小次郎、あそこで貰った剣持ってるか?」
「ああ、まさかどなたかに譲られるので?」
やはり小次郎は物分りがいい。まるで常に合いの手を添えられているかのようだ。
「まあ、平氏の宝を源氏の俺が持つのは何かと決まりが悪いからな。」
「そうですか。選ばれた剣の主が言うのならそれがいいのでしょう。」
「んな、大袈裟な・・・。」
(確かに、我々よりも千葉の方が縁も深いでしょうし。朱若様は偶然にももうされていますが、もしかしたら伝えることが我々の指名だったのでしょうか?)
懐から出した剣を朱若に手渡す。
「妙(たえ)殿。これを」
胤正の奥方である妙が受け取る。
「まあ、ご立派な剣を女の私に?」
皮肉げに笑う様子は悪戯っぽくてもどこか憎めない。千葉の屋敷にいる時に随分と世話を焼いてくれた。
「今まで世話をしてくれたからね。それに産まれる子の安産祈願とでも言おうか。その子にその剣を渡してくれ。」
「まぁまぁ!まさか子が産まれるので!?剣を与えよとはまさかおのこなのですか!?」
「そうだな。まだ言いきれないが・・・が、頑張れば再来年の初めには・・・生まれるん、じゃない?」
やはり恥ずかしくて当然である。別に子が産まれるという予言は社交辞令に捉えられても、喜ばれても朱若を転生者と怪しまれる訳でもないから問題無いが、夫婦の営みに関して分かることはほとんど無いのでどのような態度で言えばいいかはもはや恥ずかしいの一択に尽きる。
「ふふ、こんなに小さいのに大人びていらっしゃいますね。朱若様は。」
(これは、、、由良母さんとは違ったタイプで困らせてきそうな人だな。)
「私の父が上総にいます。手紙も渡すので困ったら頼ってくださいね?」
初耳だが心強い情報を得ることが出来た。
「胤正に上総の屋敷まで送られますゆえ案内はご安心なさってくだされ。」
常胤が和んだ場を壊さぬように付け加える。
「ありがとう。最後に厚かましいかもしれないが願いを聞いてくれないか?」
「はい、なんなりと。」
膝をついて畏まった。ひょいと馬から飛び降りる。
「もし、源氏に何かあったら兄を頼む。」
「!?」
耳打ちの姿勢で驚きで常胤の顔が顰まりシワだらけになる。
「深くはまだ言えないし、俺の口から聞けることないだろう。だけど・・・」
じっと一点を見つめる。ここで目を逸らしてはいけない。理解できなくても伝えなければならない。
しばらく沈黙するが何かを得たのかと強引に察した形で常胤が頷く。
「分かりました、意図はいずれ分かるのですね。朱若様を信じまする。千葉は源氏の火急を承りましょう!」
まだ雪が降り始める冬空に朱若は下総を後にした。
渡された剣を見て妙は呟きをこぼす。
「七つの星が刻まれた剣?一体これはどういうことなんでしょう?」
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こんにちは、綴です。
47話の出来に少し納得が行かなかったので多少の加筆修正を施しました。
あと、レビューを書いてくれた御方に感謝してもしきれません。
覚束無い部分もありますが、今後も精進して参ります。
誤字脱字や気になることがあれば気軽にコメントしてください!
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