第43話閑話 源平の御曹司と飯屋、髭切

朱若が関東下向の数ヶ月前、






「今日も、今日とて暇だなぁ〜。」


「暇って事は平和ってことでもあるから別にいいんじゃないか?」


「重盛は真面目でつまらん!」


「はははは!真面目が一番さ!」


ここは鶯が鳴く平安の都。

にしても、なんの因果であろうか。


「にしても、、君の父は平氏の私とこうして言葉を交わしててもいいのかい?」


「それはお前んとこの親父殿もそうだろ。俺としては知られちゃまずいが、そんなこと細かい事バレなけりゃいいし。」


「そうか!それもそうだな。」


嬉しそうに話す青年は平重盛。

対して素っ気ない態度は源義平。


とても異色の組み合わせである。


「お前とはなんだかんだで腐れ縁だからな。ついてくるなと言ってもついてくることぐらい慣れた。」


「これでも私は君より二つほど歳上だよ?まぁ、そのぐらいむしろ素っ気ないほうが遠慮なくて話せていい。」


実はこの二人、父親非公認の幼馴染なのである。


ぐううううううぅぅぅぅ〜


「腹減ったな。」


「そうだな、おい、重盛。お前(昼飯代)持ってくれよ。」


「断る。前だって私が払ったじゃないか。返すって言っときながら!」


「あ〜、すまん。忘れた。」


「まったく、、、」


重盛は巾着袋から幾許かの宋銭を紐で括りつけたものを取り出す。


「やっぱ、儲かってんのか?播磨での親父殿の稼ぎは。」


のそっと宋銭を見やる義平。


「そうだな、海賊達をのして得られた平氏の財源だからな。忠盛お爺様の頃からの家業だよ。」


(朱若辺りも金稼ぎをしてるとかこっそり言ってたな?なんか飲食ができる店とか言ってたけど、、、まぁいいか。)


「最近できて行ったあの酒場でいいな?」


「おう。」


治安の宜しくない、右京の手前に六条辺りだろうか。

酒と飯を出してくれる店ができた。中は良くも悪くも普通な感じで、上品過ぎなく、汚い訳でもない。


「やっぱり、これぐらいの方が緊張しないなぁ〜。」


「粕酒でも貰おうか。」


運ばれてくる酒と干し魚に義平は喉を鳴らす。


「いただきまぁ、、、」


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁッ!」


「な、なんだぁ!?」


「外からのようですッ!」


突如食への挨拶を掻き消された義平は外での悲鳴に異変を感じる。


「重盛、外行くぞ。」


「勿論。」





「食い逃げよぉおおおおッ!」


外には刀を携えて口に食べ物を咥えたまま走る無頼漢の男とそれに手を伸ばしている女。


「おい、どうした?」


「助けてください!お武家様!あの男が私の店で飯を食い勘定する時に刀で脅して逃げたのです!」


(俺達が食ってる店か。向かいの別の席で食べていたから俺達が食ってるところでは騒ぎは起きなかったんだな。)


「分かった、俺が金を取り返してきてやる。その代わり一食、食わせとくれや。」


「は、はい!是非!」


「聞いたか?重盛!飯、勘定いらないとよ!」


「はぁ、捕まえたらの話だからな?」


二人の侍は逃げた無頼漢の後を追う。




河原まで来たところで男に追いついてきた。男は興奮しながら喜びに浸りつつ逃亡を辞めない。


「ひ、ひひぃ!やったぜ、まさか六条判官の刀とついでに飯代も浮いたぜぇ。ギャハハハハ!」


「へぇ?俺にも奢ってくれよ、飯。」


「は?ぎゃぁぁぁッ!?」


背中から一閃。血が滴り倒れ込む。


「まさか、その刀も盗みの物であるとは!しかも、六条判官って、、、」


「んが、俺の祖父かよ。」


(父上から様子が伺えるけど祖父の為義とは折り合いが悪い。さて。どうするか、)


「くそぉ、いでぇ、、、」


義平が脳内で推測を巡らす中で痛みで呻く無頼漢の盗物を押収していると、何か刀をじっと見る。


「これ、拵えに笹竜胆が紋に、、、!?これ友切(ともきり)か蜘蛛丸(くもまる)じゃないか?」


「なんか、そんな凄い刀あったよーな?」


「源氏伝来の名刀なんだし、君が祖父殿に返しな。私が行けば角が立つ。」


「んあ。」


(なんか大変そうだし、俺が持っとこ。切れそうだし。)


「そんなことより、無銭飯に行くぞ、重盛!」


「花より団子って君みたいな武士にある言葉だよね、、、」







ーーーーーーーー








源氏館に帰った義平を見た義朝は腰の物を見て膠着する。


「な、なんだ。義平、それは、、、。」


「んあ?父上か。これはなんか無頼漢から取り上げた。」


「拵えに笹竜胆、、、」


刀を見据えて義朝はブツブツとしているかと思った次の瞬間、


「でかしたッ!義平!」


「は?」


飛び跳ねて喜ぶ滑稽な父がそこにはいた。


「間違いなく友切だ!実は昨日夢で八幡大菩薩から源氏伝来の名刀が我が元に舞い戻り、本来の名にすると刀が霊力を取り戻すという神託があった。だからこの『友切』はこれから『髭切』としてお主が持っておけ。本当は熱田神宮に奉納すべきだが、一度奉納して借りるという形で使うと良い。」


「わかった。けどいいのか?父上。俺は源氏は継がんぞ?」


「構わん。俺は自分の子どもに一人一つ名刀を持たせたいと思っている。源氏には縁ある名刀が多い。興隆の願掛けとも言える。それが、直接であれ間接であれな。」


「はぁ〜、なんか色々難しいですな。」


義平には以外とそういう外聞や願掛けは響かない。


「お主は少しくらいそういうことを考えろ。嫁でも貰ったら変わるかのう?」




(まぁ、こんな大層なやつ持ってても俺には石切があるしなぁ〜。機会を見て適当に鬼武者に譲っとくか。いい貢ぎものになるぞ〜!)



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