第19話これが脳筋たちにしごかれ続けた境地、朱若の戦い方

「よし、準備はできた!全員で来い!」


「胸を借りるぜ若。みんないけェ!!!」


朱若に一斉に襲いかかる風魔党の子供達。


「元気でいいのう。」


「全くだな。小太郎殿。」


それを見ている頭の風間小太郎飛影と大庭景義である。


朱若は脇差を抜くことなく、斬撃の嵐を右に左にと容易く避けきる。


「当たらない!」


「どうして!」


風魔の子らが困惑する中、飛影も景義に訊ねる。


「まさか、あの荒加賀入道(義国)様と悪源太(義平)様が自(みずか)ら手ほどきをされていたとは道理で年相応でないわけだ。にしても、源氏には累代の太刀を与えると聞きますが、若はお持ちでないので?」


源氏という一族には名刀が数多く存在する。武勇誉れ高きものや棟梁となる息子にはよく太刀を伝える慣習があるのだ。


「その辺は詳しくは無いのだがわしもまだ仕えておらないところであったが、京にて義朝様よりどれが欲しいか聞かれたそうだ。」


小太郎は首を傾げる。


「では、なぜお持ちでないので?少なくともご棟梁は若に渡す気があったように思えますが、、、」


「断ったそうだ。まだ振れないと。」


「使わずとも喜んで受け取るのが普通なのに、自分じゃ使えないから断るとは!なかなかできぬ事ですな。」


「確かにのう!」


(いや、使いこなせない刀はただの飾りだって!あの大太刀の数々は絶対三歳だった俺には振ることすら無理だろ。宝の持ち腐れだし管理大変そうだから断ったんだよ。)


依然として斬撃を躱す朱若にそのツッコミをする余裕は無い。


「そろそろ、刀を使ってもいいかな?」


「まずい!みんな、若が刀を抜くぞ!気をつけろ!」


義国と義平の修行を経て朱若がたどり着いた戦い方。

それは、、、


「若!もらった!」


袈裟斬り(相手の右肩から左腰に向かう一閃)の要領で振りかぶる十鳶之助(とびのすけ)。


「甘いぞ!」


右肩から迫る閃きを居合逆袈裟(いあいぎゃくけさ)の要領で左腰から抜いて逸らしていなす。


「しまったァ!」


そのまま、峰で首を叩いて地面につかせる。


「とうだ!こんなもんよ!」

「「「「ぐあぁ〜!十鳶之助のあほぉ〜!」」」」


「おい、俺に一太刀か寸止めでもさせないと全員倒れるまで終わらんぞ!」


「「うおお!!!」」


「みんなにも、やる前に話したはずだ!俺は義国大叔父や義平兄者のような剛の剣を扱う人と戦ってきて散々打ちのめされた。まだ子どもの俺に力で勝つなんて不可能だ。だからこそ俺の剣は圧倒的な力で押し切る剛の者の剣じゃない!」


義国や義平という一騎当千の荒武者たちと手合わせして朱若が辿り着いた結論の剣。それは、、、


(相手の力、剣蹟、型の種類を一刻も早く見切って最大の力を最小の業で流す、、、柔の剣。だから、業と型を徹底的に磨き上げて弱点と強みを瞬時に活かしきる技巧派の極致を目指す方法、大物を食らうための下克上の剣を極めることに決めた・・・。)


後ろで髪を結んだ女の子の九無(くな)と大柄な太一(たいち)が斬り掛かる。


「九無、剣の長さと踏み込みをしっかり考えろ!太一は振りかぶり過ぎだ!もっと短く速く振るようにしろ!」


九無の朱若の脇腹を狙った一閃は脇差を下に叩きつけることで刀を落とさせ、太一は振り抜く前に足払いで転ばせる。


「ほう!若は体術の心得もあると!」


飛影の横にいる髭を生やした老人が唸った。


「そういえば、海喜(うみのぶ)翁(おきな)は子供達に体術を専門に教えたのだったな。」


海喜は飛影の山伏仲間で子供達を飛影と共同で保護した一人だ。


「いや、あれは体術というよりは若の生れもったものでござる。元々若は体が柔らかく、豪脚なのです。」


景義には仕え始めた時に酷く驚かれた。


(豪脚と体が柔かい理由が前世でサッカーしててストレッチとかやってた癖でそうなったんだけって言うことは言っても信じて貰えんから釈明する必要も無いな、、、。)


「そろそろ、終わりにするぞ!」


ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!


風魔の子供達の懐に飛び込んだと思うと流れるように脇差を振るうに比例して子供達がバタバタと倒れた。


「見事です!朱若様!」


(我ながら化け物じみた強さになったものだ、、、。これもそれも全部大叔父(義国)と義平兄者のせいだ、、、。)


それは朱若にとって悪夢であって欲しかった。






ーーー


「お〜い!もういっちょ行くぞぉ〜。朱若!」


「百本目だよ!?ハァ、、、ハァ、、。人変えろって、、、ふぎゃぁぁぁぁッ!!!!」


義平は無自覚に人を苦しめる才能があった。





ーーー


「おい、体幹だ!体の軸を使え!でないとわしに十回殺されるぞ!」


「ちょっと待てッ!大叔父、あんた見た目に寄らず避けずらいところ打ち込んでくるな!」


義国は人をいたぶる悪癖があった。


「黙れ!黙れ!踏み込む足の軸が弱い!力でうち負けるぞ!戦場で敵は待ってくれんぞ!もっと太刀筋を先読みしろ!遅いッ!」


ビシッ!!!


ガシッ!!!


朱若の木刀が義国の木刀をようやく捉えた。


「や、やった!」


「脆(もろ)いわッ!」


「ぐへぇッ!?」


木刀ごと上から無理矢理叩かれた。


(あんたも結局ゴリ押しじゃねぇか!)








ーーー


「いやぁー、数ヶ月なのに長かった。二度とごめんだな、、、ブツブツ、、、」


「ねえ、お頭!若様がなんか言ってるよ!」


「ほうっておいてやりなさい、、、。」


察した小太郎が無邪気に訊ねる九無を止める。






その後方から村の様子を見に行っていた日焼けで黒い肌と背丈が小さいのが特徴の照優次(てるゆじ)だ。


「みんなぁ!てぇへんだぁ!村に受領が税取りに来たぞぉ!」


村に受領がくる。当時の農民にとってこれほど恐怖なことはないだろう。

自分たちがやっと食い繋げる分でさえ不当に根こそぎ年貢を奪っていくのだ。


「うわあああ!」


「大変だ、大変だぁ!」


「大丈夫かな。おっ父、おっ母。」


子供達は口々に狼狽える。


(なんていいタイミングだ!待ってたぜぇ、この時を!)


一人この状況を笑う子ども。という化けの皮を被った腹黒悪人相の朱若。


「みんな!今がまさに受領にものを言わせる好機だ!なぜそんなに恐れているんだ?」


「だって、受領には武士が付いてて逆らえないから、、、。」


震えるのは中性的な顔をしている三蔵(さんぞう)だ。


「俺たちやおっ母やおっ父は長年あいつらに脅されて生きてきたんだ!見せしめにされた奴もいた。勝てるわけがない、、、」


「目の前にいるのはこの数日間お前たちの弱点を見つけて鍛え上げたその武士の頂点に立つ源氏の御曹司だぞ?」


「あっ!」


景義の言葉を聞いて優男の三蔵は思わず声を漏らした。


虐げられる者、それが今までの彼らだ。

だが、今は違う。


「景義の言う通りだ。お前たちは数日だけだが俺が鍛え上げ、俺の郎党にして同胞だ。つまりお前たちには源氏がついてる。」


ここで彼らを変える。そして彼は変わらなくてはならない。


全ては運命を変えるために。


「俺も助け舟をだそう。だから、存分に仕返してやれ!風魔党の初陣だ!」


「よおおおッし!やるぞ!」


「太一は張り切り過ぎだ。」


「はは、すんません。若様、、、」


(太一は一太刀で熊の意識を刈り取ったからな。まだ動きが遅いが下手したら間違って人を殺しかねんからよく言っとかないと、、、。やっぱ仕切るの柄じゃねぇ〜。面倒臭いから飛影に丸投げしていいかなぁ〜?)


残念なことにそんな余裕も無いまま、受領急襲計画が開始された。

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