第15話鎌倉へ!
「私は義平兄者とともに鎌倉に下りとうございます。」
「・・・、今なんと?」
由良が呆気にとられる
「だから、私は義平兄者とともに鎌倉に行きたいと、、、」
「ダメェェェッッッ!!!!!」
「はっ、母上!?」
あられもない顔で抱きついてきた。
「ダメよ、絶対に嫌だわ!あなたは私のそばに一生おくの〜!!!」
まるで駄々っ子だ。こんな母を見るのはいつぶりか。
(そんな顔でお願いされても、、、ぐっ、揺らいでしまうわ。)
義平はその反対で目に光が宿っている。
「よしよし!兄にそれほどついて行きたいのか〜。」
「まあ、それはついでというか、、、。」
「つ、ついでッ!?」
脳天を撃ち抜かれたように倒れる兄。
「べ、別にあなたまで武士の子として働く必要もないじゃない!なんなら、貴族でもこの熱田神宮で神官でもやってみてもいいのよ!?」
なんか必死そうな由良だが、これでは未来のためにはならない。
「母上、たとえ私が貴族や神官になっても源氏に何かあったら私も結局危なくなります。源氏は義朝(ちちうえ)が一人でも多くの身内の協力者を欲しています。どの道危ないのであれば私はそれを自分自身で乗り越えたい。」
「う、う、うわああああん!」
泣き出してしまった。
(う〜、困った、、、。まさか泣くまでとは。かと言ってどうしろって、、、)
「、、、きます、、、」
「え?」
由良が僅かに呟いた。
「私も、鎌倉に行きます、、、。」
「「「「はあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」」」」
「ちょ、でも母上は、、、」
予想外の反応に慌てて止めようとするも無駄だった。
「いーえ!朱若が行くなら私も行きます!」
(何故だッ!何故こうなったッ!?)
「義平兄者も何とか言ってくだされ!」
義平は何処吹く風だ。
「わしは朱若さえいれば、なんでも良い。義母上の気持ちは痛いほどわかるからな。」
「さすがは義平殿ですね!それに義平殿は鎌倉は2回目ですし問題ないでしょう。」
「え?そうなのですか?」
完全なる初耳である。
「義平殿は元々元服する前から鎌倉を任されていました。平安京に戻っているのは元服を済ませるためで終わればすぐに返す予定なのでしたが、あなたを思いのほか気に入られて無理して居座っていたのですよ?」
(なんそれ!?本当なら職務放棄じゃないの、それ。我ながら恐ろしい兄を生み出していたのが怖い。)
義平が何故か胸を張っているので冷たい視線をおくると急に縮こまった。
「まあ、心配無用ですよ。それに義朝様の落とし種を探しやすいのもあるかしら。」
(目が笑ってない、目が笑ってないぞ!怖いよ!?)
由良は俺に改めて向き直る。
「坂東での生活はともかく勢力争いなどがあって息苦しいですよ?それでも行くのですか?」
「はい!」
「あてはどうするのです。お考えに?」
「基本は兄者の屋敷に居候でしょう。」
「そうか、そうか!」
義平は満足そうである。
「しかし、景義に掛け合って既に鎌倉党のもとに支援を頼むように掛け合っております。目処が着き次第鎌倉党の世話になるつもりです。」
「なあにィ!?」
義平は残念そうである。
「準備も抜かりなくて素晴らしいと思います!なら私もそうしようかしら、、、」
「ず、ずるいですぞ!義母上!」
「あら?母子が同じところに暮らすのはおかしくなくてよ?それに、、、あなたには祥寿姫がいるではありませんか?」
「ぬう、、、」
なんだかんだで想い人の妻の祥寿姫を出されては反論できない義平であった。
「若様、ただいま戻りましてございます。」
景義が静かに俺の傍にかしこまる。
「して、首尾はどう?」
「はっ、我が父鎌倉党首の大庭景宗、梶原景清(かじわらのかげきよ)、長尾定景(ながおさだかげ)以下、朱若の傘下に組み込むことを快諾なさられました。」
「決まりだな!兄者、最初数日間だけお世話になります。」
由良も驚いている。
「こんなにも早く、、、。どのようにして説得したのですか?」
「それは鎌倉に行ってのお楽しみですよ!」
笑って隠したが実は微妙なラインであったので安堵していた。
(ふう、鎌倉党みたいな実力派の武士団には目に見えた利益をもたらすのが一番効果的だと思ったが当たりだったようだな、、、。)
数日前。
「よし、これなら完璧だな!」
目の前には土のような茶色い山。
「ちょっと、臭いのだが、いか様なものであるか?」
「兄者、これはだね。これは鎌倉党を説得するのに欠かせないものだよ。」
「このような土塊が?」
「まあ、これが効いてくるのはすぐでは無いが、、、。」
「おーい、四男坊様!ご注文の物を最後の奴卸に来ましたぜ!」
職人の見てくれをした中年の男。
「これは、、、鍬?こんなにたくさん。数百はあるな。」
「正解だよ。しかしこれは鍬だが、違うところがある。どこだと思う?兄者。」
しばらく鍬を見つめた頼朝は「はっ」とする。
「この鉄の部分に独特の隙間があるな。」
「そうだ。これは備中鍬と言ってな。あえて鉄の土に深く刺す部分を細くして僅かな力でより深く耕せるようにした代物だ。農業効率は著しく上がる。開墾にも持ってこいだ!」
「しかし、何故に備中(びっちゅう)(今の岡山県西部)なのか?」
「えーッとだな?都で備中の者から聞いたからだ。」
「なるほど備中にはそのように進んだものが、、、」
勿論、ブラフである。
(色々めんどくさいしな。備中鍬って開発されたの江戸時代だし。)
「私はこの土塊のほうが気になりますぞ!」
「「わあっ!大叔父上ではないですか!」」
「お主ら仲良いのう〜。」
このことを義隆に話してみた。
「これは、、、朱若。この情報はなるべく秘匿にせよ。これがあると農業の常識が変わるぞ。」
(でしょうね、、、)
「この土塊ですが、これは落ち葉や、使わなくなった木材、残った飯や人間の糞などを混ぜて数ヶ月寝かせたものです。」
「人間の糞じゃと!?そんなものが畑に生かせるのか?」
流石の義隆もこの表情だ。
「はい、このように悪臭や枯れたものなどには微生物という我々の目ではとらえきれぬ生き物がございます。これが我々の畑や田んぼに撒かれることで微生物たちはその畑の老廃物を食って糞をします。と言っても微生物の糞は土にとって育てる作物を美味しくする栄養のようなものです。一年は要しますが収穫量はかなり上がるでしょう。」
(本当はイワシとかの小魚類使って金肥(きんぴ)を作って見たかったが、簡単じゃないし手間もかかるからな。その分収穫量が増えるがおいおいって感じだな。)
「これを鎌倉党の百姓達に試させるのだな?」
「源氏に味方するならその知識を授けると添えてでございます。」
「ハッハッハ!昔から思っていたがお主も大概食えぬ男だのう!」
「全て万事上手く行くといいのですが、、、」
義隆は朱若の肩を叩く。
「安心せい。武士は戦がない時は畑を耕すゆえその重要性には容易く気づくだろう。引く手あまたになるぞ!」
そして現在。
「ということでございます。」
新田義重と足利義康が側に寄ってきた。
「朱若殿!それがしにもご教授頂けぬだろうか!勿論、朱若殿に終生協力しよう。」
「朱若、ならわしも喜んで協力しよう!」
義康は単純な善意だが、義重は完全に興味を持っていた。
(ほう、まさか朱若の才があれほどとはのう。義朝に朱若の存在そのものを秘匿とするよう進言してみるかのう、、、)
義隆の思惑をよそに鎌倉下向の目処はたった。
「そうか、朱若は坂東に行ってしまうのだな、、、。寂しくなるな。」
頼朝は寂しそうだ。何しろ実母の由良も鎌倉に行くはずだ。
「兄者、我々の力で私は坂東を兄者達は京から源氏を盛り立てていきましょうぞ。兄者達が危ない時は必ず駆けつけます。」
朱若の言葉を聞き頼朝は決心をしたようだ。
「わしも励むぞ!そなたの兄に相応しいように沢山知識をつける。」
「兄者なら頼もしいぞ。」
改めて二人は握手をして誓い合った。
「ご注進!源帯刀先生義賢(みなもとのたてわきせんじゃよしかた)殿、秩父重隆(ちちぶのしげたか)の屋敷に入りましてございます。」
「なんと!秩父党が敵にまわったか!」
「いいえ、重隆の弟の秩父重弘(ちちぶのしげひろ)は従っておりません。相模国(さがみのくに)(今の神奈川県)の三浦義明(みうらよしあき)も同様にございます。」
義隆は深く頷く。
「なるほど、秩父党も一枚岩では無い上に周辺豪族も従うものはそれほど多くないか、、、。」
「大叔父!わしの母は三浦出身だ!すぐに鎌倉に入って三浦と連携するぞ!」
義平の亡くなった母は三浦義明の娘だ。
関係も義朝以来良好とのことである。
秩父党は北関東に勢いを持つ一族で元を辿れば桓武平氏に行き着く名門である。
熱田神宮が慌ただしくなる。
翌日
鎌倉に立つ義平始め朱若達は行列をなしていた。
頼朝は京に帰り、蒼若こと希義と蒲玄若こと範頼は熱田神宮でしばらく養育するようだ。
「兄者、しばらくしたらまた会おう。」
「ああ!それまで達者でな、朱若。」
来年には史実では保元の乱の前哨戦とも言える大蔵合戦が、坂東(関東)で勃発する。
(うかうかしてられるか。源朱若の人生はこっから始まるんだ!)
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こんにちは、綴です。
これから長い坂東編に入ります。
若干話の流れが遅くなって退屈に感じるかもしれませんが、全て後々に繋がると思って長い目で見ていただけると幸いです。
更新頑張っていくのでこれからも拙作をよろしくお願い致します。
ご意見や誤字脱字(別に作者はドMではないですが)ダメだしなどコメントしていただけると励みなるので気軽にどうぞ。
もしお気に召していただいたなら星をつけてくれると嬉しいです。
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