第13話「悪」たる所以の真理

衝撃の対面からその後はすぐに二人は部屋にて向かい合っていた。


義平は源氏の棟梁の長男として戦場に生き、戦場で生涯を終える。それが彼の理想の生き様であり、そうなるとずっと思っていた。


「義平様、義平様!義平様はどのような食べ物がおすきなのですか?」


(なんなのだ、、、この女は。)


そんな距離感も知らずに育ってきた。だか、今までは女性になんて微塵も興味が湧かなかった。全て"一蹴"だった。


だが、目の前の女にはそれができない。いや、したくない。


気にせずにズカズカと自分の中に踏み込んで来ようものなら切って捨てようかとも思っていたのは過言では無い。


あの時助けた顔を見た後にふと思っただけだった。


(このぐらいがわしの妻であったらいいのだが、、、)


どうにも、素っ気なくできない。

頼りなくて儚くて、それでいてずぼらな女。


「鳥とか獣の肉だ、、、。」


「まあ!それなら今度作って差し上げます!が、頑張らなくちゃ〜!」


それ以上に祥寿姫は愚直で正直で一生懸命だった。


今まで弟達以外にこのような感情はなかった。


何より気になる。


「お主はなんで顔も性格も知れないこんな戦しか脳のない男の嫁になりたいと思えるのだ?」


先程まで必死に義平に質問ばかりしていた祥寿姫は義平を見つめて黙り込んだ。


顔は、、、やはり赤い。

それでも意を決して深呼吸している。


「最初は私も不安でした。何しろ周りの方々が恐ろしい人だとばかりに言うものだから、、、。でもあなたがたまたま助けてくれた時私は思ったんです。義平様がこんな御人だったらと。そして本人でいらっしゃった時にはもう、、、だッ、ダメです!もう恥ずかしくてこれ以上は、、、」


耐えきれなくなって顔を隠して俯いてしまった。


「弟達ばかりを可愛がる変わり者の男だぞ。お主を愛せぬかもしれんぞ。それでもいいって言えるのか。」


すると、手をギュッと握ってきた。目を逸らしてしまってはいるが赤面したままである。

手も震えている。


「わ、私は兄弟を愛せることは変だとは思いません、、、。むしろ誇るべきことだと思います。ただでさえ、兄弟で権力や力を奪おうと争っているのです。それを見てたらそんな事はなかなかできないです。それで愛して貰えないならせめてどのような形でもいいのでお傍に置いては下さりませんか、、、?」


この後義平は自分らしくないと自己嫌悪するだろう。

だか、後悔はしない。


「えっ、、、!?」


祥寿姫は義平の腕の中にあった。


「いつもわしに近づくおなごはくだらんことばかり考えていていつしか勝手に失望して諦めていた。でも初めてだ。是が非でも守りたいと思えた女は、、、。夫婦になるか、、、。こんな私でもいいなら、、、」


「、、、。、、はい、、、喜んで。私はどんな事があってもあなたの手を絶対に手放しません。貴方の傍にいることが私の幸せになったから、、、」


(母(・)や義母上は父上と会った時このような気持ちだったのだろうか、、、。

にしても、、、「兄弟は仲良く」、か。偶然だが、朱若と同じことを言うのだな。、、、いかんいかん!また悪い癖が出ていると怒られてしまう。これでは頼りならないと思われてしまうな、、、。しっかりせねば。)


悪源太の「悪(あく)」。それは単なる悪党という意味ではない。強き者にのみ許される呼称であった。


古今には幾人か「悪」の通称を持つ者は確かに存在した。


しかし、彼の背負う「悪」たる所以(ゆえん)。


それは愛する者を守ろうとする固い決意の不器用過ぎるがゆえの裏返しかもしれないことを後世知るものはいないだろう、、、。

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