第12話鎌倉党、大庭景義、こんな祝言(けっこんしき)は間違っている

縁者たちが一同に集う場はとても和やかな雰囲気とともに未だ二人して別々の部屋にて見合いの指示を待つ。


縁者たちが集う間では既に皆が義平と祥寿姫はお互いどんな人間と夫婦(めおと)になるか気づいているつもりでいた。


しかし、肝心な二人はお互いに名前しか知らされずどのような人間なのか分からず緊張が走った控えの間である。


実際会っていることも気づかずに通じ合うはずの想いは有り得ない偶然と鈍感のもと平行線上なのだ。



(兄者、大丈夫かな?色んな意味で、、、)


義平は直垂姿で腕を組み人を殺せる覇気を放っている。


(こうまでなったら、相手の女を辱めてこの婚儀をぶち壊してやるッ!!!)


一方の祥寿姫である。


(はわわわ!大丈夫でしょうか、、、義平様はお強くて恐ろしい方と聞きますし、、、粗相のないように振る舞わなくちゃ〜〜〜!)


縁者たちが集う間では頃合を見計らった由良が祥寿姫の父の義重ともに場を促す。


「そろそろお目見えといきましょう。」


「そうですな。両者の身支度は整っております。」


一同には期待の声が飛び交う。


「しかし、祥寿姫様とはどのようなお方なのか。」


「義平の晴れ舞台楽しみじゃのう。」


そんな中朱若は、、、


「、、、であるから、その中で時康親王の様子を見て基経卿は決心なさったのだ!」


「なるほど!なるほど!そんなことが!朱若殿は京の知識が泉のように溢れておるのう。なんとも博識じゃ!」


源陸奥判官(足利)義康とかなり仲良くなっていた。


「朱若に義康か。お主らいつの間に仲を深めたのだ?」


大叔父にして朱若の守役の義隆は不思議そうにしていた。


「あいや、義康殿が歴史について理解があり都話にも精通していて互いに話に花が咲いてしまったのだ。」


「おお!そういえばこの者が我らを引き合わせてくれたのだ!」


義康が同い年ぐらいの直垂姿の男を連れてきた。


「大庭景宗(おおばかげむね)が嫡男、大庭景義(おおばかげよし)にござる。陸奥六郎(むつろくろう)(ここでは義隆のこと)殿。以後お見知り置きを。」


「ほう、お主があの鎌倉党の長の子倅か!」


鎌倉党を率いる大庭氏は義朝が関東での勢力を磐石にする際に最初に対立した強大な武士団である。


対立を経て義朝に従うようになった鎌倉党党首の大庭景宗の嫡男の景義は義朝や義康と歳が近く義朝に早くから忠誠を誓った武士だった。


(対立って言っても鎌倉党が国司(朝廷が派遣した県知事みたいな人)と対立した弱みに漬け込んで介入し、鎌倉党の領地を荒らしまくって坂東(関東)での一大勢力を築くきっかけになったなんて気まずくて言えんがな。ほんとあの義朝(ちちおや)ろくなことしてねぇな!?)


朱若の父への株は絶賛大暴落している中、景義はいきなり朱若の前にひざまずく。


「この景義!朱若様の聡明さに感銘を受けました。義朝様に忠義を誓い源氏に従っておりますが、朱若殿が成長した際にはおそばにつかえさせてはくれませんか?」


「ええ!?」


「ほう〜?」


「これは!これは!」


景義の発言に朱若は驚いたがほかは笑って眺めている。


「いや、景義は父上に仕えておるのにまずいのではないか?」


義隆は悪い考えをする豪老な笑みをうかべている。


「どのみち源氏だから良いだろう?朱若は柔軟な考えが売りじゃろうて!ワハハハハ!」


「大叔父!そんな呑気に見捨ててんじゃねぇ!」


思わずつっこんでしまうほど朱若の焦りは並大抵ではない。


「至って真剣じゃよ。その歳でよくお主は気配りができるからな。そんな主人は仕えるものからしたら憂いも少ないのよ。」


それを聞き景義を眺めてみる。


そこには柴犬のように従順な目を輝かせる父親と同い年ぐらいの武士がいるではないか。


(だ、ダメだ。この顔は何言っても揺るがないタイプだ、、、。社畜の時痛いほどこういう取引先を相手にしてたからな!)


「わかった、、、。景義は俺の寄子(よりこ)とする。」


「なんじゃ。この際お主直々の郎党(ろうとう)にすれば良いでは無いか。」


義隆は思い切りの悪さに不満気味だ。


「大叔父、ここで景義を郎党にしたらおれが父上の郎党を奪ったみたいになるではないか。ここは寄子として父上から俺を補佐する戦力として借り受ける形が良い。」


「まあ、良いわ。これでお主が面倒事に巻き込まれてゆくのを直で楽しめるわい!」


「言いやがったな!?この悪知恵爺!」


朱若の歳不相応なツッコミが炸裂するが、周りは親族の軽い掛け合いにしか見えてないらしい。


(逆に少しは疑わないとちょっと怖い、、、)


それを意に介さず義隆は勝手に進める。


「大庭景義!この源義朝が四男の源朱若に忠誠を誓うか?」


「この大庭景義!死ぬまで朱若様に仕える所存!」


「初めての家臣だな!おめでとう、朱若!」


頼朝は手放しで喜んでいる。


(兄としてそれでいいのか!?年上なのにこされてんだぞ!?)


景義はもはや狂信者のような顔つきで喜んでいた。


(純粋なのは、、、いいこと、、、だよな?そのはずだ、、、。ていうか義平(あに)の結婚式で俺なんで採用面接みたいなことしてんの!?)


そう!大分回り道をしているが義平の祝言の真っ最中なのである。


(呼ばれるの遅いな、、、。なんかあったのか?)


別室の義平は愛する弟の一大事において蚊帳の外であった。


「うふふ、それでは始めましょうか!御二方お入りなさい!!!」


由良の声に反応して向かい合う障子は開かれた。


「お、お主は!?」「あ、あなた様は!?」


二人は驚いていたが、祥寿姫の方が動いた。


タッタッタッ、、、。


「えッ?ちょっと、ぐおぁ!!!」


義平にのしかかるように抱きついていた。


「夫婦になりましょう!すぐにッ!」


慌てて義重が止めに入る。


「これ、少し落ち着かんか。皆の御前じゃぞ。」


「え、、、はわわわわ!私としたことがこんな大胆なことを、、、!」


義平は赤面して俯いていた。


(あのどうしようもない兄バカの義平が、、、弟以外に照れているだと!?ていうか、祥寿姫との接点あったんだ、、、)

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