第11話足利と新田

ついに義平のお見合いが始まる。


そんな中控え室には縁者たちが顔を合わせていた。


「由良義姉上!お久しゅうございます!」


由良に晴れ晴れとした顔で挨拶する男。


「まあ!あなたは陸奥判官義康(むつのほうがんよしやす)殿ではありませんか!義妹は息災ですか?」


「はい!それはもう由紀(ゆき)はのびのび暮らしております。」


(陸奥判官義康だって!?こいつは驚いたな。まさか室町幕府の将軍を排出する足利家の始祖のあの"足利義康"が来ているとは、、、。)


源義康。またの名を足利義康(あしかがよしやす)という。彼自身も源氏の血を濃く引いており、朱若たちの先祖は源八幡太郎義家(みなもとのはちまんたろうよしいえ)の次男の悪対馬守義親(あくつしまのかみよしちか)の血統を持つ子孫だが、義康はその弟である義家の四男である源義国(みなもとのよしくに)の子である。

かねてより京都の平安京の中央貴族や院(院政を取り仕切った上皇や法皇)を中心に悪対馬守義親の子孫達は仕えて勢力を伸ばそうとしたのに対し、弟の義国は中央政界での勢力拡大をそうそうに辞めて、上野国(こうづけのくに)(今の群馬県)に下向して武士団をまとめあげることで関東に一大勢力を築き上げた。元々気性の荒い性格であったため義家の跡継ぎ争いには直接参加することはなく、関東での覇権を狙い、義家の跡継ぎを狙って加茂二郎義綱(かもじろうよしつな)を陰謀で嵌めたり、義家の跡を継いだ義忠を殺害するも棟梁の地位に就くことに失敗し甲斐国(かいのくに)(今の山梨県)に勢力を張った源新羅三郎義光と激しく戦った。


その中で義朝が若き頃に関東に下向して源氏嫡流としての勢力基盤を築く際に義国と激しく対立したが、互いの利害の為和解し義朝が熱田神宮大宮司の娘(つまり由良)を正室にし、義国の次男である義康に大宮司季範翁の孫に当たる姫君を大宮司の養女として妻に娶らせることで縁婿同士にしてさらなる関係強化を測ったのだ。ちなみに義康は義朝の叔父にあたるが義朝の二歳下なので関東に義朝が勢力拡大を行っていた頃は兄弟の様に仲が良くその関係は今でも続いている。ちなみに義康は源姓を名乗っていたが上野国の足利荘(あしかがしょう)に住んだことから後世では足利義康とも呼ばれるようになる。


「なんかまた考え事してるね、朱若は。」


「案ずるな、朝長よ。もしかしておなごのことでも想像しておるのかの?」


「まぁ!義朝様、破廉恥ですよ!」


かなり失礼な詮索をされているようだ。


(うるせー、生きててこの方有名人ラッシュで頭回すぐらいしか自分の状況と正気を保ってられねぇんだよ!あと、おなごで想像してんのはお前だ、クソ親父ッ!)


ぷりぷりと可愛らしく怒ってみせる母に下世話な父とは随分とまぁ苦労しそうだと自身の運命を呪った。


そんな中元気が有り余る義康を宥める男がまた一人。


「これこれ、義康。少々から回っておるぞ。嬉しいことは良いが。」


「あはは、面目ない。兄上。」


「由良殿。我が弟の義康をこれからも良しなに頼みます。そして我が娘の祥寿姫の事もどうかどうか、、、。」


「そんな丁寧になさらなくても大丈夫ですよ、義重(よししげ)殿。これから源氏の発展のためにあなた方はなくてはならぬ存在ですから。」


「これはかたじけない!」


(やっぱ来てたようだな。兄の義平の妻は今から対面する祥寿姫になるはずだ。義康の兄でその父親である源義重(みなもとのよししげ)ことあの足利尊氏のライバルとなる新田義貞の新田家の始祖の"新田太郎義重(にったたろうよししげ)"!硬そうな顔がよく似合った生真面目さだな。)


源義重。またの名を新田義重という。義康の異母兄で義国の長男である。義康が義国の所領である足利荘を継承したのに対し、義重は分家して独立し新田荘(にったしょう)に居館を構えたことから後世から新田義重と呼ばれるようになる。


義重が由良に近づき、申し訳なさそうな顔で言う。


「昨日の山賊の件、義平殿御自ら祥寿姫をお救いくださりなんと御礼を申したら良いのか、、、。」


「まあ!そんなことが!?私は義平殿から聞いておりませぬのであとから話し合う必要がありますね。」


(OHhhhh,義平が見えないところで説教確定、、、。)


ーーー


義平の控え室


「ぶぅえっくしょんッ!!!な、なんか嫌な悪寒が・・・!?」



ーーー




「あら、まだこの子達の紹介がまだでしたね。鬼武者、朱若、ご挨拶を。」


「鬼武者です。」


「朱若です。」


今回は軽く済ませた。


(今回は主役以外が目立つのは無粋だからな!)


反射的にモブ脱却を図ろうとするところだが今回は諦める。


「そして、こちらが蒼若。あそこにいるのが蒲玄若です。」


そう今回五男の蒼若こと後の希義と六男の蒲玄若こと後の範頼も揃い踏みで参加している。


「これはこれは、坂東にお越しの際はぜひおよりになってください。歓迎の準備を常にして待っております。」


どこまでも真面目な義重に、若干由良もやりづらそうであった。


「ホッホッホッ、荒加賀入道(あらかがにゅうどう)の兄上(つまり義国)は息災か?」


ひょこっと現れ声をかけた義隆に義重が畏まる。


「おおっ!森冠者叔父上!我が父義国は息災ですぞ。戦戦だと息巻いており流石に有り余っております。」


「ホッホッホッ、そうかそれは兄上らしいのう。」


兄弟協調路線を提唱する義隆は兄の近況を聞けて嬉しそうである。


「義国兄上は関東に下る際も私のことを気かけてくれたからのう。」


どこか懐かしむ様子は義隆の過ぎ去ってしまった時間を思い起こされているようであった。

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