第10話悪源太

朱若は憤慨した。


(なんで俺に由良母さんが義朝の御落胤がいる場所を詰め寄るように聞いてくるの!?確かに範頼の件を言い出したのは俺だ!それは文句無い。でもなんで頼朝のもっと御落胤いるかもしれない発言で俺が詰め寄られてんの?おかしいよね?まあ、知ってるから正直に答えないといけないんですが、、、。史実以上に兄弟増やされたら対処出来なくなるかもしれなくてたまったもんじゃないのに、、、。)


三歳にこの仕事を任せるのは苦でしかないのだが、その辺由良からの(全く欲しくない)絶大な信頼を得てしまっており、このように目の前の地図に源氏の御落胤達がいる場所について印をつけピックアップさせられてるというわけだ。


(この辺、有力候補なのは、、、鎌倉幕府の御家人になる豪族たちだな。まずは一番有力な上野国の宇都宮氏だな。ここには八田知家(はったともいえ)がいるはずだ。この「知」は元々は義朝から与えられた「朝」って言われているからな。一応十男の位置付けになるけど1142年産まれなはずだから義平の一つ下なんだよな。生まれた順番から見れば次男ってわけだ。あ〜、結構歳いってるから頼朝に信用させるのもかなりややこしい話になってきたぞ、、、。その他は不伝だから知らん。)


「何してる〜〜〜〜のっ!」


「ぐはぁっ!?」


後ろから思いっきり抱きつく形でのしかかられた。


(俺三歳ってこと忘れてない!?けど重くて死んじゃうなんて言ったらほんとに死んじゃう、、、。)


「坊門(あねうえ)、、。」


「まぁ〜た辛気臭い顔してるぅ〜。気分転換に花札でもやりましょ!」


「姉上、俺そんなことわからな、、、」


「いーえ!分からないなら教えてあげるわ!きっと楽しいから付き合いなさい!」


「ひえェ〜〜〜〜〜!」



強引に坊門姫に花札に誘われた(?)朱若が悲鳴をあげていた、ちょうどその頃、、、、、


「つまらん!」


とぼとぼと熱田の町を歩く男。


「朱若も鬼武者もこのところほとほと冷たい。わしは要らん兄なのか、、、。」


無論、悪源太義平である。


「父上も母上も結婚などどうかなさっておる!わしは弟達と戦がある所があれば充分なのに、、、。」


町の人だかりはそんなことを気にせず噂話に没頭している。


「おい、最近源氏の御長男様がご成婚されるんだってよ!」


(ふん、もうそんなつまらんことが広まっておるのか、、、。)


飲み屋の町人はその本人に聞かれているなんて梅雨も知らず傍若無人に語る。


「聞いたぜ!それはそれはお美しい方だってよ。」


「んだんだ。色白で京美人にも引けを取らんとか。」


「はえ〜、わしらには雲の上の話だな。」


一人の男が杯を掲げて締めくくるように叫ぶ。


「今日は飲むべ!飲んで盛大に御長男を祝おう!」


「「「「「おおおおっ!!!」」」」」


(おい、俺は認めないぞ!!)


走り去るように義平はその場を立ち去った。


しばらく町をぶらついていると急に町人たちが騒がしくなった。


「おい!なんか行列が山賊に襲われたらしいぞ!!!」


(なに!?)


「なんだって!?そりゃ一大事だぁ!」


「でも俺たちが助けようとしたところで山賊に御陀仏だにゃ。」


「どうするべきじゃかにゃ、、、。」


(、、、。)


なぜか、関わりを持ちたくないのに心の中が霞む。義平は自分でもなぜ拳に力が入るのか理解できない。


(くそ、なんでわしは顔も知らぬような奴らのことが気になって仕方ないのだ。これがもし鬼武者や朱若なら、、、そういえば朱若が鬼武者にこんな事で説教してたな、、、。私も京でよく朱若に怒られたな。)


いつかの義平に対する朱若の言葉が頭をよぎる。


「兄者。力ある者は弱き者や大切なものを守るためにあるのです。だから、、、目の前にある救いは必ず手を差し伸べてやってくだされ。朱若はそんな誇れる兄者になって欲しいのです。」


(そうか、そうだったのか、、、。)


源氏一の武士はようやく重い腰をあげるように決心した。


(ありがとう、朱若。兄はようやくわかったよ。守るべきものが、救いたいものが。)


勢いよく走り出す。


タッタッタッタッタッ、、、。


行列が襲われている山間に向かって。




「ぐあああッ!!!」


ザシュウゥゥゥ、バサッッッ!!!


響き渡る鮮血が辺りを染める。


「キャァァァ!!!」


「グハハ!!!不意打ちでこれとは坂東武者も地に落ちたのう!」


(見えたッ!あそこか!?既に襲われているか!)


義平は行列が襲撃を受けているのを捉える。


ガクガクと震える姫君を見て山賊の長は舌なめずりする。


「こいつぁ上玉じゃねぇか!この俺が直接可愛がってから殺してやる。連れてけ!」


「分かりやした、お頭!」


「あ、ああああッ!!!」


二人の下っ端が姫君に駆け寄って連れて行こうと手を出す。


その時だった、、、。


「ぐおおおあああッ!!!」「ぎゃああああッ!?」


二人の下っ端は倒れる。


「おい、これは随分と派手にやってくれたじゃないか。」


異変に気づいた長は振り返る。


「なんだぁ〜?テメェは?俺の邪魔をしようってのか?俺の神経を逆撫でしたからなぁ!!テメェらぶっ殺せェッ!!」


「、、もう、、、ないぞ、、、」


「グギャァっぁあぁぁあ!?」「フギィィィ!!!!」


再び山賊が散る。


「俺は、もうお前らにかける情なんて持ち合わせてないぞッ!!!!」


「ヒイイイッ!!!!」


山賊は義平から放たれる覇気に気圧される。


「クソォォォォォ!!!ビビってんじゃあねぇぞ!」


山賊の長は猛然と斬り掛かる。


義平は義朝から授けられた源氏伝来の名刀 髭切(ひげきり)で受け止める。


「お前ら、必死に打ち込んでくる幼い弟の剣より幾ばくも軽いぞ、、、。」


「クソッタレェ!全く動かねぇ!!!」


山賊の長の耳元で義平は恐怖を囁く。


「この源源太義平(みなもとのげんたよしひら)を怒らせたこと、末代まで後悔させてやる、、、。」


途端山賊の長は徐々に鍔迫り合いで押し切られ始める。


「な、なんだぁ!この力はぁ!!!!!」


そのまま、相手の刀を下にいなす。


髭切は怪しくほとばしり山賊の長の右腕を泣き別れにさせた。


不可視とも言える神速の如き速さで。


「ぎゃああ!!!!腕がァ!?」


山賊の長は刀と自分の腕を拾うこと無く、走って逃げ去る。


「に、逃げろぉッ!!!悪源太だ!悪源太が来たぁ!!!」


振り向くと傍で震える姫君を腕の中に抱き上げる。


「キャッ!」


その表情は赤いのか、、、。義平にその感情を推し量ることは出来ない。


「大丈夫か?」


「はっ、はい!?」


偶然にもお姫様抱っこのような状態になっているので未知の体勢に姫君はドギマギしている。


「お主、、、」


「なっ、なんでしょう?」


「美しいな!」


「ええッ!?」


姫君は義平の突拍子の無い言葉に顔を赤らめる。

しかし、その顔は充足感を帯びていて義平の直垂を強く掴む。


「あの、貴方様の御名前を教えてくれませんか?御礼をさせてください。」


「いや、構わぬよ。それにここで名を名乗ると弟に怒られてしまう。」


「え?弟君に?」


「ああ、なので御礼は気持ちだけで良い!わしはこれにて、息災に過ごせよぉ!」


義平は姫君を残し足早に去ってしまった。


他で転戦していた従者達が駆け寄る。


「祥寿姫様ァ!!大丈夫にございますか!?」


そんな従者の声も祥寿姫には聞こえていなかった。


「ああ、なんと素敵な方でしょう、、、とても凛々しかった。」


祥寿姫は籠の中で悶々としていた。


(ああ、なんということでしょう。これから義平様に輿入れするというのにあの方が頭から離れません。私は本当に輿入れすることができるのでしょうか、、、)


義平はそんなことも知らずに熱田神宮に向けて走っていた。


(しまった、派手にやり過ぎた。また由良(ははうえ)に叱られる!嫌だ!それだけは絶対にッ!)


(にしても、あの娘、なかなか美しいかったな。妻にするならあの娘ぐらいがいいものだな、、、。)


二人の想いは知らないうちに既に交差していた。

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