第4話 弟誕生兄結婚、兄バカ卒業?

一年後、

仁平二年、1152年

とうとう、源氏館に産声があがる。


「おぎゃ〜!おぎゃ〜!」


産婆から子を受け取った義朝は大きく掲げるように抱きあげた。


「フハハハ!でかした!由良!また、益荒男子ますらなおのこだぞ!」


近くにいた下働きの者たちが一斉に敬服する。


「騒ぎ過ぎですよ、義朝様。それよりこの子の名は如何致しますか?」


「フーム、縁起の良い名がいいのだが、、、」


恒例の名ずけだがどうやら難航しているようだ。

そばに控えていた兄弟四人も様々な反応をしていた。


「朱若に初めての弟だな。」


長兄の義平に続き次兄の朝長や三兄の頼朝も頷いている。


(そういえば、兄たちにはまだ範頼(六男)は認知されていたかったな。)


朱若がそんなことを考えていると生気を取り戻しつつある由良がこちらに顔を向けて言った。


「朱若は知っていますが、あなた達には既にもうひとり弟がいますよ。」


「「「えええええッッッッッ!?!?!?」」」


三人は当然驚いている。

義朝は、、、気まずくて小さくなっている。

もはや物理的にそう見えるほど。


「父上、とうとうやりましたか。」


「まあ、いつかそうなるだろうと思いましたが。」


「朱若は知っていたのか!賢いの〜う。」


義平(兄バカ)を除いてどうやら義朝(よしとも)の不倫は時間の問題だったらしい。


(まあ、この時代なら仕方ないか。)


源氏の棟梁である源義朝の四男として平安時代末期に転生した社畜な故に現代からのジェネレーションギャップを感じるわけだが、この時代は幼い頃に病気で亡くなる子どもも多く、親から子へ引き継がれる世襲制の時代において子どもを沢山儲けることは上に立つ者の義務でもある。


「それに、母上の容態が安定したら御目見できますよ。」


「そうか、もうそこまで話が、、、」


冷静な朝長がうなづいてる途中で由良が進捗を告げる。


「さすがに遠江まで行くのは難しいから、手前の尾張(愛知県西部)にて面会します。場所は私の実家の熱田神宮です。」


郎党一同がおおーッと関心を示しているようだが、一人に残酷な話が告げられる。


「その際義平殿はそのまま帰らずに鎌倉に下向していただくでしょう。」


「んなあああああぁぁッッッ!?」


義平(兄バカ)にとっては残酷な話である。


「いや、その〜義母上?それはいささか早すぎるかと〜。」


「いや!決定事項だ!励むがよい!義平!」


割って入った義朝が断言したことで郎党から歓声があがる。

それと同時に義平は膝から崩れ落ちていた。


「それと、お主には嫁を娶ってもらうぞ!」


「え?」


さらに周りがどよめく。


「ふむふむ、兄上が結婚とはこれは尻に敷かれるぞ。」


朝長が笑って言うと、一堂豪快に笑いだした。


追い詰められた義平は朱若に助けを求めてきた。


「な、なあ、朱若?兄上が結婚するの嫌だよな〜?」


(俺の返事は最初から決まっている。)


「兄者、おめでとうございます。どうか末永くお幸せに〜」


「あ、あ、あッ、朱若までぇぇぇッッッ!!!」


義平は絶望したようだ。


(ご愁傷さま、兄者。いつまでも兄バカじゃ

困るんだよ、、、)


生まれたばかりの希義(まれよし)となる赤子は関係ないとばかりにすやすやと寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る