第6話・夏のプール〔視えるのか視えないのか、よくわからない彼女〕

 SE・プールではしゃぐ子供の声


T「市民プールに来ても持ってきた本、読んでいるんだ」


 SE・飛び込みの水飛沫の音


T「きゃっ♪ 大丈夫、あたしの体は水に濡れないから……なに? ムッとした顔して、えっ!? 最近、あたしの存在がウザい……やたらと、つきまとわれている感じがしているって! ひどい、いきなり何よ! 君のコトを心配しているのに? 勝手に話しかけてきて答えるたびに、周囲から変な目で見られていて迷惑だったって言うの……いまになって何よ!」


 あたしは、君の意外な一言に傷ついた。そりゃあ、最近は、いきなり現れるコトも多くなったけれど……そんな風に思われていたなんて……あたしはただ君の将来が心配で……アレ?

 あたしは、プールの外に植えられていたヒマワリを見て、あるコトに気づく。


T「ねぇ、あのヒマワリどうして踊っていないの? ユラユラ、ダンスしているのが普通なのに……元々、ヒマワリは踊らない? もしかして、この世界は」


 違っていた、あたしが知っている世界ならバイオ技術で、動くヒマワリが主流になっているはずなのに……この世界のヒマワリは踊っていない。


(ズレている? パパが話していた分岐な世界で。あたしの世界と繋がっていない? ここって、時間軸が分岐したパラレルワールドだったんだ……いつから分岐していた?)


 あたしは、素直に君に詫びる。

T「ごめん、少しウザすぎたね……人生も世界も選択肢で分岐していく、もう君はあたしの世界とは繋がっていない、別の世界の君だったんだね……もう薄々、気づいていると思うけれど──あたし、未来の人間なんだ」


 あたしは君に真実を告げるコトにした、あたしの話しを聞いた君が、どんな反応を示すのかわからなくて、少し怖かったけれど。


T「あたしのパパは、科学者で世界的に有名な発明家で過去にもどって、歴史を修正するための『タイムマシン』を研究開発していたの……その試作品第一号の実験に娘のあたしは志願した……大好きなパバのために……ところが」


 実験は半分成功で、半分失敗だった。あたしは元の世界と過去の世界に同時に存在する、あやふやな存在になってしまった。


T「いずれは、パパがタイムマシンを調整して。あたしのいた元の世界にズレが直ってもどれるんだけれど……君は自由な道を歩めばいいから、君が今いる世界は、たくさんある可能性の世界の一つだから……それそろ、もどらないと。あのね、長時間はこっちの世界と繋がっているのはムリなんだ……

あたしの世界の肉体に負荷がかかるから……えっ! あたしの正体がわかっても、変わらない対応をしてくれるの? ありがとう」


 あたしは、君の優しさに涙が出た……やっぱり、優しいね君は。



 二度目の河原の土手道を並んで歩く〔心が視えてきた彼女〕


 SE・土手の広場で遊ぶ子供の声&バットでボールを打つ音


T「この河原の土手道を歩くのも二回目だね……手をつないでもいい? 今日はなんとなく君と触れられそうな気がする」


 あたしの手にそっと触れる君の手、やっぱりダメだった……すり抜けて君とあたしは触れない。

 どうしてかな? 君に触れてはいけない力が働いているみたい。


T「あのね、この流れている河、あたしの時代には一面〝ソーラーパネル〟が被せられいて流れを見るコトはできないんだよ……土手にも日照時間が短い太陽光から、エネルギーを得るためのソーラーパネルが並列しているんだ。宇宙からもソーラー衛星が地球に電力供給しているよ。あたしの世界は慢性的なエネルギー不足なの」


 あたしは、自分がいる未来について君に話すけれど、未来に失望はしないで。

 君の未来は分岐した未来だから、あたしの話す未来から変わっていくかも知れないから。

 これを、ディストピアと感じるか──明るい未来と感じるかは君次第だよ。


T「現実のオリンピックや万国博覧会は終了しちゃって開催されない、メタバース内では、たまに開催されているけれど」


T「動植物園は少なくなったよ、もういろいろな外来種や気候変動で

動植物の分布図も変わっちゃったからね──バナナの街路樹が関東にあるよ♪ あはっ」


T「野菜は休耕地に建てられた野菜工場で生産されているよ、人工太陽光で室内栽培で、気候の影響を受けないから安定した、生産供給ができるよ……土壌栽培よりも衛生的だしね、Ai管理だから効率的」


 クロレラみたいなモノをペースト状にして固めたモノもあるよ、サイコロサイズやカレールウみたいな形にして料理に入れて野菜の代わりに使ったりしているよ♪


 SE・バットでボールを打つ音、歓声


 あたしは、自分がいる未来世界は、それなりに好きだけれどね。

 今の君が、携帯電話が無い過去に住みたいと思わないのと同じように。


(それから、これは君にはショッキング過ぎるコトだから、聞かせないけれど……ペットの首筋にマイクロチップを埋め込むのと同じように、人間の体にもマイクロチップを埋め込むのが義務化しているよ……あたしも首筋に埋め込んであるけれどね……あはっ)


 話し終えたあたしは、もう一度、君の手に触れようとチャレンジしてみた……やっぱりダメだった。パパが言っていた、今回の君との繋がりが最後になるって。

 タイムマシンの調整が終わったから、二つの世界の繋がりが切れるって。

 あれ、変だな。なんで涙が勝手に溢れてくるんだろう?


T「もう行かなきゃ、うん、また次も会えるよ……えっ? あたしの名前? そう言えば言ってなかったね……あたしの名前は…………〝未来〟ミライって言うんだ」


 体が揺らぎはじめている。時空の繋がりが切れはじめているんだ。

 あたしは、君に急いで最後の言葉を告げる。


T「あたしと、よく似た女の人にあったら。思いきって声をかけて大切にしてあげて……約束だよ」


 君は、あたしと、あたしに雰囲気が似た女の人にとって大切な人。ごめんね、最後にあたし一つだけウソをついた。


 あたしの名前『未来』じゃないんだ……君の人生に介入して分岐した未来が変わらないように、違う名前を伝えた。

 パパから本当の名前を伝えるコトは、禁止されているから。


T「うん、また会おうね……じゃあ、今日はありがとう、バイバイ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る