第5話・花火大会〔少しだけ視えてきた彼女〕

 SE・夏祭りのお囃子、人が夜店通りを行き交う音


T「うわぁ、これがお祭り? 初めて見た……外で滅菌処置もされていない食べ物を売るなんて、信じられない。それを外で平気で食べるなんてショック……ごめん、少し驚いたから……思わず本音が出ちゃった」


T「あたし今、お母さんが貸してくれた浴衣着ているんだけれど見えるかな? 君には陽炎みたいにぼんやりと見える程度なの……柄とかは? お母さんの話しだと、風鈴とかいうモノと……狭い枠の中で泳いでいるところを捕獲される、赤い小魚の柄だって言うんだけれど……そっか、見えないか」


 SE・打ち上げ花火の音


T「夜空に何か出た! 音がスゴいね……これが君の世界の打ち上げ花火? どういう仕組み?

えっ!? 爆発物を実際に空に打ち上げて爆発させているの? それって、危なくない?

てっきり、デジタル画像を空に投影するのかと思った……だからかぁ。

あのねぇ、あたしが知っている打ち上げ花火は、デジタルな幾何学模様が空に映し出される、安全な電子花火なんだよ……でも、旧式で原始的な打ち上げ花火もキレイだね」


 あたしは、火花散る打ち上げ花火を見上げながら、チラッと君を見た。

(もう、そろそろ視えてきちゃったかな……あたしが何者か……大切な君、もしかして、あたし同い年の君に少し魅力を感じちゃている?)


 SE・連続する打ち上げ花火(フィナーレ)


T「たくさん花火あがって、静かになっちゃったね……これで終わりなの? そっか、ううん、楽しかったよ」

 あたしは、打ち上げ花火の明かりに照らされる、君の横顔に現れた困惑している表情に気づいていた。


(やっぱり、君には科学者の発明家になって、あるモノを開発してもらわないと……最初は、どんな将来を自由に選択してもいいって思っていたけれど……このままだと世界が終わるから。

あたしの世界からしてみたら十分明るい未来なんだけれど……君にはディストピアの世界に映るかな?)


T「今度はあたし……いきなり、現れるかもね」


 

 ファストフード店〔お節介に視えない彼女〕 一部に間接的な残酷表現あり


 SE・ハンバーガーの包みを開ける音


T「ふ~ん、そんなの食べているんだ……あっ、むせた。いきなり背後から覗き込んでごめん……そのパテに挟まっている肉って飼料で育てた家畜肉? それとも合成肉とか培養肉? まさか悪性新生物増殖肉じゃないよね」


 合成肉と培養肉を、君は知らないんだ……まっ、当たり前か、まだ市場に出回る前だもんね。


T「【合成肉】っていうのはね、さまざまな廃棄処分部位肉片を混ぜ合わせて形成した得体が知れない肉……あたしは絶対に食べないけれどね」


T「【培養肉】っていうのはね、工場で部位をクローン培養される肉だよ……家畜を育てる労力と時間を必要としない、今は培養肉が主流だね、畜産肉生産は消滅した」


T「【悪性新生物増殖肉】っていうのは、一部の国で食べられている肉で輸入はまだ。安全面から許可されていない……早い話がガン細胞を培養した食肉だね。それと、もう一種類の肉類が」


 あたしは、この肉のコトを君に伝えてみてもいいか、伝えない方がいいか悩む。

(どうせ、知るコトになるんだから喋っても別にいいか)


T「あたしは好物なんだけれど、ペースト状にして形成された【昆虫肉】も普通に販売されているよ……あたしの好きなのは、やっぱりコオロギのハンバーグかな、コオロギバーグはエビみたいに香ばしくて好き♪」


 SE・椅子から慌てて立ち上がり、トイレに向かって駆けていく音


 SE・トイレの流水音


T「やっぱり、昆虫食肉の話しは君には衝撃が強すぎたか……本当は、もう一種類の肉があるんだよね……これは、ごく一部の国内でしか流通されていないけれど……生きる資格が無いと社会的に選択排除された、人間を加工した【人食肉】があるけれど……これは、今の君に話したらショッキング過ぎるよね。

それにしても、ファストフード店のレジに人間の店員さんがいて、マニュアル対応していたのには驚いた。次は君が何をしている場面に現れようかな♪」

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