第94話 生徒会長と悪役令嬢

『……え?』

「ほう……生徒会長、ですか。それは奇遇ですね」

「奇遇という事は……アンジェリカさんも梨花さんを生徒会長にしようと考えていたわけね」

「ええ。もちろん、ツカサ様やイサム様のご指導が必要ですが、梨花が生徒会長になれば、今よりもずっと自信を持つと思いますし、威厳なども出て梨花に対して何か危害を加えようと考える方も中々出てこないと思うのです」

「たしかにね。それにしても、アンジェリカさんも同じ事を考えていたのなら話は早いわ。それなら後は──」

『ちょ、ちょっと待ってください!』


 なんだかアンジェリカと緑彩先輩だけで話が進んでしまいそうになっているのを感じて私は急いで止めた。


「どうしたのですか、梨花?」

『どうしたのですか、じゃないよ! このまま私の生徒会長育成計画を進めようとしてたでしょ!』

「進める事に何か不満でも?」

『あるよ! というか、緑彩先輩もどうして私を生徒会長にしたいんですか? アンジェリカにも言いましたけど、私は生徒会長向きじゃないですよ?』

「……梨花さん、なんだか大変そうね。私が貴女を生徒会長にしたいのは、これまでの問題解決力を評価してなのもあるけど、貴女なら生徒会長としてみんなをまとめていけると思ったからよ」

『私ならって……別にそんな実績はないですよ?』


 私が不思議に思いながら聞くと、緑彩先輩は微笑みながら首を横に振る。


「いいえ、あるわ。これまで、貴女はアンジェリカさんの助けがあったとはいえ、私達の悩みを解決してきてくれたし、積極的に先頭に立って頑張ってきてくれた。

本来、三年生で生徒会長でもある私がみんなの先頭に立つべきなのに、勇君の件ではあまり役には立ててないし、他の時も結果的に梨花さん達のおかげで解決していった。それなら十分に生徒会長としてみんなをまとめていけると思うの」

『そんな事ないですよ。さっき、緑彩先輩も言ってましたけど、アンジェリカの助けがあったから私はどうにか出来ただけですし、他の時だってみんなの力を借りられたからで……』

「みんなが力を貸してくれたのは貴女だったからよ、梨花さん。私達は梨花さんにお世話になったのもあるけど、誰かのために真剣になれる貴女の事を助けたいと思うから力を貸したくなるの。合気道部のみんなや演劇部のみんなに華道部のみんな、そして私達や先生達、凛音さん達、みんな貴女の事が好きで貴女のために頑張りたいと思うから力を貸してくれるのよ」

『緑彩先輩……』

「まあ、貴女の自己犠牲の精神の強さと優しさはだいぶ心配になるけどね。でも、そんな貴女じゃないと救えない人だって確実にいると思うし、貴女はアンジェリカさんの影響か少しずつ厳しさという物も持ち始めてる。時に優しく、時に厳しく、そんな生徒会長ならみんなもついてきてくれると断言出来るわ」

「俺も同意見だ」

『勇先輩……』

「剣を交えてハッキリしたが、梨花さんは芯がしっかりとしていて、簡単にはへこたれないだけの強さがある。それに、凛音さん達の指導があったとはいえ、未経験だったところから俺に勝てるまでになった成長力は目を見張る物があった。それならば、生徒達から寄せられる様々な意見にもしっかりと耳を傾けながらもそれを完遂し、学校をより良い物に変えてくれると俺は思っている。それだけの力があると俺はこれまでの付き合いで感じているからな」


 緑彩先輩と勇先輩の目はとても真剣で、私達を見守る香織先輩達の顔も私なら大丈夫だと確信しているような物だった。

そこまで私を評価してもらえてるのはもちろん嬉しい。だけど私は、やはりまだそこまでの存在じゃないと自分では思っている。私はまだまだ悪役令嬢見習いで生徒会長としての器ではなく、私よりも生徒会長に相応しい人なんて絶対にいる。それならその人に譲った方が学校のみんなのためになると私は思っていたのだ。

申し訳なさを感じながらも私が返事をしようとしたその時、緑彩先輩は静かにため息をついた。


「仕方ないわね……梨花さん、夏休みに何か予定はある?」

『予定……前半に課題を片付けて、後半は自分磨きに使おうってアンジェリカと話してはいましたけど……?』

「そう。それはちょうどよかったし、その後半に合宿をしましょう」

『合宿……?』

「ええ、梨花さんを生徒会長にするための強化合宿よ」

『き、強化合宿……!?』


 緑彩先輩の言葉に私は驚いていたが、アンジェリカはそれとは逆にノリノリな様子だった。


「ほう、それは面白そうですわね」

『いやいや、面白そうじゃないから!』

「私はね、梨花さんの意見は尊重するつもりよ。だけど、今の貴女には決定的に自信を持つという点が欠けていて、これは生徒会長の話だけじゃなく、他の点においても大きな影響を与えてしまう。

 だから、合宿を通してしっかりと貴女に自信を持ってもらい、今後の貴女の人生にそれを活かしてもらいたいのよ」

『その気持ちは嬉しいですけど……勇先輩達はどう思っているんですか?』

「俺も賛成だ。自信を持つというのは様々な点においても重要だからな」

「そうですね。どれ程優れていても自信を持たないままでは成功出来る事も失敗に繋がってしまいますから」

「僕も同感かな。絵を描く際も自信を持って筆を持たないと自分の描きたい絵なんて描けないし」

「記者としてもそうだね」

「はい。これが真実だと自信の持てないままで記事にするのは良くないですから」

『うぅ……四面楚歌だ……』


 みんなが私に自信を持ってもらう事に賛成なのを聞いてどうした物かと考えていると、緑彩先輩はにこりと笑った。


「まだ計画段階ではあるけど、ほぼ確実にやると思っていてね。梨花さん」

『……はい』

「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか。早くしないと遅刻しちゃうわ」


 その言葉に全員が頷き、歩きながら話し始める中、私だけは夏休みに待っている生徒会長合宿の事を考えてズーンと沈んでいた。

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