第93話 対面する悪役令嬢
「アンジェリカ・ヨーク……それが貴女の名前なのね?」
「その通りですわ、ツカサ様」
「つ、緑彩様……? なんだかいつもの梨花さんとは雰囲気も話し方も違うから、戸惑っちゃうわね……」
「であれば、話し方を変える事も出来ますわよ? 屋上でイサム様に剣道の勝負を持ちかけた時と同じ話し方でも良ければ」
アンジェリカの言葉に勇先輩は一瞬驚いた後に納得顔で頷いた。
「……そうか、あの時の梨花さんは貴女だったのか」
「ええ。今は何かの良さを共有する時ぐらいしか交代はしていませんが、以前までは私が代わりに何かをする事もありましたので。ただ、試合や演劇、そして昨日のキクカワ様とカワラギ様の件は梨花自身の力ですわ」
「そういう事だったのね……あ、話し方については変えなくて良いわよ。戸惑いはしたけど、それが貴女自身なのなら私はそれを否定する気はないもの」
「俺も同意見だ」
「私もそのままで大丈夫ですよ」
「僕も大丈夫です」
「もちろん、私も」
「僕も良いですよ」
「畏まりました。では、このままに致しますね」
アンジェリカが綺麗に一礼をしながら言っていると、香織先輩は何か思い当たった事があるのか少し不思議そうな顔でアンジェリカに話しかけた。
「あの、アンジェリカさん……」
「はい、なんでしょうか?」
「もしかしたらなんですが、アンジェリカさんは梨花さん達がやってらっしゃるというゲームに登場しているアンジェリカさんなのですか?」
「ええ、そうですわ」
「ゲーム……たしか『恋の花開く刻』という名前だったかしら?」
『そうですよ。アンジェリカはそれのヒロインから見た敵、悪役令嬢なんです』
私が手を動かして文章を打ち、それをみんなに見せると、みんなは目を丸くしながら携帯の画面に釘付けになった。
「えっ……もしかして梨花さん……!?」
「はい。昨日、体の所有権を分ける事が出来るようになったので、梨花もこのような形で会話に参加出来るのです」
『アンジェリカが喋りながら私が打つ事も出来そうなので、とりあえずこの形で私は参加しますね』
「それは良いけど……梨花さんはどんな気分なの? その……体の所有権を渡してるというのは……」
『説明が難しいんですが、アンジェリカが動かしてるのを後ろの方で見ているような感じで、今は視点はそのままだけど、手だけはいつも通りに動かせる感じです』
「ふむふむ……それについては後で詳しく聞かせてもらいたいな。でも、どうしてゲームの中の登場人物であるはずのアンジェリカさんが安寿さんの中にいるの?」
「私達にもそれはわからないのです」
『突然アンジェリカが現れて、これまで色々な場面でサポートしてくれたんですが、それに関してはなんとも……ただ、私のゲームについての記憶とアンジェリカの記憶も食い違いがあるみたいで、そこも謎が多いんです』
「食い違い?」
勇先輩が疑問の声を上げた後、私がハーレムエンドの内容とアンジェリカの死の直前の記憶を説明すると、みんなは難しい顔をした。
「そうか……そうなると、そこに何か鍵があるのかな?」
「そうかもしれませんが……皆様、結構すんなり私達の話を信じてくださいましたわね?」
「まあ、中々不思議な話ではあるけど、梨花さんがわざわざそんな嘘をつく理由も思い付かないし、アンジェリカさんと梨花さんの雰囲気の違いもあるからね」
「今のアンジェリカさんの雰囲気はあの屋上で感じた物と同じだからな。信じる理由などこれだけでも十分だ」
「という事で、これからは私達の前でも出てきてくださって大丈夫ですよ」
「……わかりました。皆様、本当にありがとうございます」
『皆さん、ありがとうございます』
私達が揃ってお礼を言い、みんなが微笑みながら頷いていた時、香織先輩の携帯電話が鳴り、香織先輩は携帯電話を取り出した。そして画面を見てクスリと笑って少し操作をしてから携帯電話をしまうと、貴己君は不思議そうに首を傾げた。
「香織さん、どうかしたんですか?」
「ふふっ……いえ、鳳先生と健山先生から屋上でのお昼に誘われたので、良いですよと返したんです。皆さんも一緒にという事でしたが、お昼は大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫よ。それで、笑っていたのはアンジェリカさんの件を先生達にも話したらどうなるかって考えていたから?」
「その通りです。アンジェリカさん、梨花さん、よろしいですか?」
「私は構いませんわ」
『私も大丈夫です』
「ありがとうございます。ふふ、先生達の驚く顔が楽しみです」
『先生達、本当に驚くだろうなぁ……』
先生達の驚く顔を想像してクスリと笑っていた時、緑彩先輩はアンジェリカの顔をじっと見ていたが、何かを覚悟したような顔になると、その顔のままでアンジェリカに話しかけた。
「ねえ、アンジェリカさん。一つ良いかしら?」
「はい、なんですか?」
「昨日、担当を交代する時に思い付いた事があるって話をしたでしょ?」
「そうでしたわね」
「あの話、本当はなかった事にしようかなとも思っていたのよ。勇君にも相談はしたけど、もしかしたら難しいかもしれないっていうのが総意だったから」
「そうだったな。だが、アンジェリカさんがいるなら恐らく大丈夫だろう。俺達もいるしな」
「そうね。ねえ、二人とも」
真剣な表情で口を開いた緑彩先輩から出た言葉に私は驚く事になった。
「次の生徒会長、貴女達がやってみる気はない?」
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