0004=『気炎万丈』ってやる気だけじゃ意味ないです_NOBU5ほぼリアル

 日曜日 10:00

 土屋姉妹が住んでるマンション


「休みの早い時間に押しかけてすいません」

 ゴーが玄関に出て来たホノの上姉に頭を下げる。

「それは、構わないけど、どうしたの?」

 戸惑いを見せるホノの上姉に対してゴーが本題に入る。

「えーと、今日も炎華ちゃんとコラボする予定で良いのですよね? でしたらタリスマンを使わず、うちから常設通路を使ってあっちにいった方が良いと思いまして迎えに来ました」

 それを聞いて少し考える様子を見せるホノの上姉。

「確かに炎華を参加させるつもりですが、態々迎えに来る必要は、無かったのでは?」

 当然すぎる疑問に対してゴーが告げる。

「タリスマンの移動では、どうしても制限がつきますから。具体的に言えば勉強道具を一緒に運ぶのは、難しいです」

「勉強道具?」

 首を傾げるホノの上姉に対してゴーが続ける。

「はい。炎華ちゃんの性格からして、月曜日に提出予定の宿題をまだやって居ないかと思って。そしてコラボすると宿題する時間が無くなったと開き直って月曜日に宿題を写しても仕方ないって言うかと」

 はっきりと失礼な物言いだけどホノの上姉は、眉間に皺を寄せる。

「中に入って待ってて。ちょっと確認してくるから」

 案内されるままにあたい達は、中のリビングに入る。

「あれ、ゴーじゃん、どうしたの?」

 ホノの妹、砂華が不思議そうな顔をしてみてくる。

「ちょっとね。それより、お出かけ?」

 ゴーが確認すると砂華は、嬉しそうに言う。

「うん。子供割引で映画を観に行くんだ。実家の方じゃ、最新作の映画を直ぐ観れないからね」

 本当に嬉しそうだ。

「そう、でも鍛錬を忘れちゃ駄目だよ」

 ゴーの言葉に驚いた顔をする砂華にあたいが続ける。

「あんた達姉妹が陰陽師の家系だって知ってるのをカミングアウト済み。んで、修行をサボり過ぎだぞ」

「小学生が遊んで何が悪いの!」

 睨んでくる砂華に対してゴーが真面目な目で言ってくる。

「遊ぶのは、悪くない。だけど、砂華ちゃんがこっちに居るのは、修行の為だよね? 他者に強制された訳でなく自分でそういって以上それを破るのは、言霊的に不味いって解るよね?」

「言霊なんて解らない!」

 そう反発する砂華に対してゴーが更に言う。

「映画に行くなとは、言わない。でもね、行った後、ちゃんと修行もするんだよ」

「うるさい! お姉ちゃん達みたいな事を言わないでよ!」

 怒って部屋に戻っていく砂華とすれ違ったホノの下姉が言う。

「砂華は、炎華と違って人形遣いの才能が高いから実家に居た時から期待が大き過ぎた。どうしても遊びより修行優先だった。だからこっちに来て、そういう事を言う人が減ったと遊び中心になってる」

「今時、陰陽師にならないって選択肢もありますよね?」

 ゴーの指摘にホノの下姉は、複雑な顔をする。

「両親は、そういうのもありかもと言ってる。でも逆に陰陽師の才能が低い周囲の人間が才能があるからと半ば強制している」

「才能なんて言葉は、やる事の理由にならない筈なんですがね」

 ゴーも複雑な顔をする。

 ゴー自身は、唯一と言えるアレを歯止めを掛けられる才能があり、それを行使した為に色々と制限があり、やらなければいけない事が沢山あるからだ。

「最終的に決めるのは、本人です。やる気がない人間が出来る仕事じゃありませんから」

 ホノを連行して来たホノの上姉。

「日曜日なんだからもう少し寝てても……」

 眠そうなホノのボヤキにホノの上姉が睨む。

「そう言葉は、宿題をちゃんと終わらせた人間だけが許されるのよ」

「……宿題なんて直ぐに終わるよ」

 ホノが視線を合わせずそう反論するのであたいが言ってやる。

「金曜日の朝に一生のお願いってゴーに宿題写させてもらってたけど、明日も一生のお願いするの?」

「あれは、本当に忘れていただけで……」

 ホノの言い訳にゴーが笑顔で言う。

「詰り、明日は、宿題を写させてって言わないって事で良い?」

 ホノからの返答は、無いのであたいが追い打ちをかける。

「ちなみにだけど宿題は、数学のプリントと古文と英文の訳って結構面倒な奴ね。あたい達は、昨日の内に終わらせてある」

「どれが終わってないの?」

 ホノの上姉の追及にホノは、顔を引きつらせる。

「どれというか……古文って宿題あったんだ?」

「そういえばホノ、古文の時間に目を開けたまま寝てたっけ」

 ゴーがそう言うとホノの上姉の笑顔、口角が更に高くなる。

「最低限の学歴だけは、保持しろって厳命だったよね? まさか修行にかまけて中退するつもり?」

「そ、そんな事は、ありません」

 敬語になるホノを他所にゴーが言う。

「まー今更の事は、ほおっておいて。少し早めに移動して、空き時間宿題をしなよ。流石に答えは、教えられないけどサポートくらいは、してあげるから」

「態々、空き時間使ってまで宿題する必要ある? やっぱりあたしとしては、修行が第一だと思うんだよ」

 逃げ口実にホノの下姉が言う。

「京都時代、修行でろくに勉強する時間は、無かったから勉強道具は、持ち歩いて、空き時間に勉強した。だから大学に入れたと思う」

「今時、大学くらい出ていないとまともな人間扱いされないわ。ちゃんと勉強しなさい」

 ホノの上姉の言葉に遂にホノの陥落するのであった。



 日曜日 11:15

 ゴーの自室


「だからここは、この式を使わないと駄目で」

 ゴーが数学のプリントの前で頭を悩ますホノに教えている。

「本当に馬鹿な妹でごめんなさいね」

 ホノの上姉の言葉にホノが感情的に怒鳴る。

「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!」

「そういうのは、良いからプリントに集中して。あっちでも言ったけど、もう適当な理由で誤魔化される偽装が必要ないから宿題をなんでも写させないよ」

 ゴーの言葉に眉を顰めるホノ。

「実際、突っ込めなかったから渋々宿題を写させてあげてたからな」

 あたいの言葉にホノの上姉が頭を下げてくる。

「妹が迷惑かけて本当にすまなかったわね」

「うーーーー」

 って唸るホノに対してゴーが言う。

「お姉ちゃんに恥かかせたくなかったらこれからは、ちゃんとする。今回みたいに空いた時間に勉強を手伝うくらいやってあげるから」

 そうして宿題に集中するゴーとホノを残しあたいは、ホノの上姉をパパPの所に案内する。



 日曜日 11:45

 サイト3710010打ち合わせ室


「それでは、保護者代わりという事で契約の締結させて構いませんね?」

 パパPの確認にホノの上姉が頷く。

「はい。両親もこちらでの生活に関する事は、私に一任すると言質をとってありますから問題ありません」

「それでは、契約内容の確認ですが、形式上は、あくまで娘のゲームに付き合う形での配信参加。本名を含む個人情報については、非公開。ゲーム上で取得したポイントに対しては、全て保護者である土屋氷華が管理する。建前上は、仕事でないので現金による支払いは、直接的には、出来ませんが何からしらの迂回路を使って支払いは、可能ですが?」

 パパPの問い掛けにホノの上姉が首を横に振る。

「防具の提供と最前線への参加を報酬と考えています。妹には、組織の方から日当五千円が出ていますのできにしないでください」

「五千円ですか? 正直、お役人仕事だとしても安すぎると思いますが?」

 パパPの指摘にホノの上姉が苦笑する。

「危険度を考慮しての事ですよね? 実際の相場で言えばどのくらいですか?」

 パパPが資料を軽く確認してから答える。

「最低ラインで一時間一万円って所ですかね。特に魔物へ通じる技能持ちは、参加だけで都度十万円は、手当がつくのが相場って所ですね」

 実際にここら辺の相場って難しい。

 特殊技能がとことん複雑化させている。

「特殊技能者としては、まだまだ未熟。あの程度の腕で手当てを貰おうなんて土屋の家が許しませんよ」

 ホノの上姉が矜持をみせてくる。

「了解しました。それで、話は、変わりますが貴女自身の解説の件です。こちらが前回の解説の報酬です」

 そういってパパPが明細と共に現金を差し出す。

 ホノの上姉は、その現金に唾を飲む。

「い、一応公務員なので副業での収入には、制限がありまして……」

 パパPがうんうんと頷く。

「解っています。ですからこれは、名目上は、タダのお車代にしてあります」

 パパPは、色々あったが敏腕Pだった事からこの手の処理も得意だったりする。

 複雑な表情を浮かべるホノの上姉に対してパパPが真剣な顔で告げる。

「特殊任務で予算もつかない。持ち出しも多くなるのでしょ? 特に術具もタダじゃない。これからの事を考えても非公式な財布は、必要でしょう」

「随分と余裕があるのですね?」

 探るホノの上姉の言葉に対してパパPが苦笑する。

「プレイヤーの登録毎に百万、蘇生には、一千万とっていますからね」

 こうは、言っているが、登録料の百万なんてタリスマンや格安レンタルのデータゴーグル等々を敢えて外部委託している部品等の費用で消し飛ぶ。

 武具のレンタル費用だってほぼ原価に近い。

 敢えて言うなら、蘇生費用が他と違って5Sと望ママが独力でやっているから儲けになるけど、あまり予算に組み込んでいない。

 普段の生活費の大半は、各種費用の薄い利益から捻出してる。

 余ったお金の大半をこういう根回しに使ってる事にパパPが一度言っていた。

『自分達は、ある意味世界から孤立出来る。 だけど、孤立したら望も轟も人でなくなってしまう。 だからお金を使ってでもこの世界との繋がりを維持していくんだ』

 結局の所、世の中の繋がりってお金だ。

 お金のやり取りが無い相手とは、何時でも切れる。

 お金、生活を維持するのに必要な相手だと思わせる事でゴーと望ママをこの世界と繋がらせていたい。

 そんなパパPの思いは、鬼家令やヨックーも賛同しているし、あまり知られていないが影の発言力がある九郎さんにも認められている。

 まあ、アレや5Sの連中には、イマイチ理解されていないけどね。

 あの連中、生粋のエルフ共は、本気で人と感性が全然違うからな。

 そんな益体もない事を考えている間もホノの上姉がお金を受け取るのに躊躇しているとパパPが告げる。

「解説役で映る際に毎度同じ服だと気付かれますよ」

 それが決定打だった。

 ホノの上姉が即座にお金を受け取る。

 やっぱり女性にとってオシャレは、大切なんだなと思う一幕だった。



 日曜日 12:15

 源家食堂


「学校だと加減してたんだ……」

 茫然とそう呟くホノの目の前に大量の料理を口にするゴーが居た。

「まあね。それより、今日のライブだけど、Qークエスト/探求をやる予定だよ」

「えーと、Qって他のゲームと違って戦いがメインじゃないんだよね?」

 ホノのうろ覚えな知識にあたいが頷く。

「まあ、メインじゃないな。だけどたいていは、戦闘も含むから戦闘力が無いと詰む」

「施設攻略型なんだよね。因みにだけど、DやK、Qって異業の種別が微妙に異なるんだよね」

 ゴーの説明にホノが記憶を探る。

「前配信でそんな設定があるって話してたような」

「掲示板にも一応あがってるがあまりメジャーじゃないな」

 あたいがそういって問題の掲示板を見せる。

「えーと、Dが広域、対象が不明確な異業で、Kが特定の人物が中心になった異業、Qが場所が中心の異業って意味が良くわからん」

 ホノの感想にゴーが補足する。

「簡単に言えば、Dは、無差別に好き勝手やった話で具体的に言えばつまらないからって異界の化け物で住民を襲わせたりしたりした時」

「何それ? 本気でそんな事をしたの?」

 ドン引きのホノに対してヨックーが告げる。

「そんなのまだまだいい方だって。Kに当たるのは、たいていは、歴史に名前が残る人が中心でさ、いい例が5Sが後始末をしたクレオパトラや楊貴妃関連でどれだけ人間を苦しめた事か」

 ノブミ姉さんの記憶を見せて貰った事があるけど、あれは、酷かったな。

 人を道具にゲームをして何千何万殺しておいて、飽きたの一言で途中で放り出す。

 そのまま放置したら大変だと5Sがその人物のふりをして後始末してなんとか史実に残せるレベルにしたんだから。

 ホノが顔を顰める中、ゴーが続ける。

「そんで今回やるQの場所って所謂、惨劇の現場になる。黒死病で死体に溢れた町やピラミッド建設で大量の奴隷がすりつぶされた異業が元になってるんだよ」

「それって設定って話だから受け入れられるけど、実際起こった事だとしたら洒落にならないんですけど」

 ホノの当然の感想に鬼家令が言う。

「そんな洒落にならない存在、それがアレなのだ」

 その場にいた誰もがなんとも言えない顔になる。

「それをどうにかしたのがゴーなんだよ」

 ヨックーの説明にホノが言う。

「そう言われるとゴーが凄い事したって思える」

「お父さんにした事が許せなくってやった事だからそんな自慢できないよ」

 ゴーがそう軽く返すが鬼家令が首を横に振る。

「理由がどうあれ、アレの暴虐を止めたゴーは、もっと尊ばれるべきだ。日曜日までライブをする必要は、ないから、休みをいれたらどうだ?」

 怖い顔で誤解されがちだけどこの場の一番の良心の鬼家令。

「ううん、これは、あちきがやりたくてやってるんだからやらせて」

 ゴーがそう笑顔で答えるので鬼家令も渋々引く。

「解りましたが。無理だけは、なされないでください」

「ありがとう。んで本題に戻るけど、今回やるQークエスト/探求は、『G-001ーd』、通称『王家の墓』、外見は、モロにピラミッドで外部から侵入し、王の間を発見、そこから宝を持って秘密出口から出ればクリアだよ」

 ゴーの説明に思い出して来たのかホノが顔を顰める。

「思い出した。幾つかあるQの中でも一番不人気な奴じゃん。確か、やたら天井や床が崩壊してまともな探索が出来ないって!」

「そう。少しでも正常手順と異なる動作をすれば周囲が崩壊して生き埋め。脱出のオーブが無い生き地獄を味わう事になるね」

 あたいが淡々と言うとゴーが補足する。

「逆言えば、正確な手順をこなし続ければ崩壊しないし、通常レンタル二千万円の脱出のオーブもロハで貸し出すから安心して良いよ」

「……どうしてそんなのをするの? エンタメ的には、昨日の続きとかの方が良いんじゃない?」

 ホノが珍しく真っ当な事を言ってる。

「あちき個人だけだったらそれでも良いんだけど。総合的に見た場合、あまり不人気なゲームを放置するわけにもいかないんだよ」

 これがゴーの難しい所で、時々、不人気ゲームのテコ入れをしないといけないのだ。

 はっきり言えば、この間のDの新エリアの解放と探索だって他のプレイヤーの攻略を助ける為って要素があるくらいだ。

「不人気って言うけど、一人だけ拘ってる人が居るけどね」

 あたいの言葉にゴーが顔を顰める。

「ソーロ=イブンさんの事。アレは、エンタメとは、対極に居るからね」

「掲示板で時々出てくる名前だけど何者?」

 ホノの疑問にあたいが答える。

「一番有名の二つ名は、『死なずのソーロ』。百回以上ゲームに参加して一度も死んでないのは、そいつだけだからね」

「それって珍しいの?」

 ホノが不思議そうな顔をするのでゴーが真剣な顔で言う。

「真面目に凄いの。平気で初見殺しがまかり通っているから十回以上参加していて死んだ経験無い人は、一割未満なんだからね」

「因みに死んだ回数のトップは、ゴーね」

 あたいの言葉に遠い目をするゴー。

「何事もパイオニアには、危険が伴うもんだよ」

「ただ単に死んでも死なないからって無茶するからだとおもうがね」

 ヨックーの突っ込みを無視してゴーが説明を再開する。

「ソーロさんは、陰陽師や風水師の様な特殊能力を持ってるタイプでも軍人や諜報員みたいな戦闘のプロって訳じゃない。リアルガチトレジャーハンターなんだよ」

「あの鞭で戦ったり、大岩に追いかけられる?」

 ホノの例えにゴーが手を横に振る。

「それは、どちらかというと考古学者だね。トレジャーハンターって言うのは、非合法すれすれな真似をしても眠った財宝をサルベージするの。当然、危険度が高く、リアルに死亡率が高い連中」

 あたいは、プレイヤーの登録リストを表示しながら補足に入る。

「プレイヤーにも色々いるけど、所属組織で大きく四つに分類される。一つは、組織№が100までの国の代表連中」

 日本やアメリカなどと表記される組織№を見せる。

「この人達は、国家の後ろ盾があって、国の威信をかけて異業を解消に動いて居る人達。実力、装備共に優れているし、Kーキル/殺戮でも成果を上げてる人もいるね」

 ゴーが具体的な数名をあげるとホノが納得の表情を見せる。

「こっちの業界でもビックネームがいくつもあるよ」

「次の300までは、ホノと同じ国の組織。公安やCIA、MI6なんかもこの枠で参加している」

 あたいが次のリストを表示してみせる。

「さっきまでのが国の表の対応だとしたらこっちは、裏の対応。諜報組織が多い事から解ると思うけど、国威云々よりもこのゲームに関わる物に対する情報戦なんかもやってる連中でもあり、そっちの公安がやってるように上の人間へ献上するノンプライスアイテム集めなんかもやってるね」

 ゴーが簡単に説明しているけど、結構複雑な利害関係があったりするんだけど、ホノに説明する必要もないだろうから次のリストを表示する。

「次の600までは、宗教団体や魔法結社、所謂オカルト関係、ただしここへの登録は、国連の承認が必要だから少なくとも国連に推薦してもらえるだけのコネをもってる連中ね」

「げ、土御門の本家もこっちなの?」

 ホノが嫌そうな顔をするのでゴーが説明する。

「そこら辺のオカルト関係は、国にも人員を提供してるけどノンプライスアイテム欲しさに自分処でも人員を派遣してるんだよ。実際問題、一番厄介なのは、宗教関連だったりするんだけどね」

「宗教関連? 仏教なんて異業解消なんて率先してやってくれそうじゃん」

 ホノが不思議そうに言うとゴーが沈痛な表情になる。

「問題は、そこなんだよ。たいていの教えが異世界からの干渉なんて認めていない。異業解消は、下手するとあちき達よりも切実なんだよ。だからこそ、自分の命を引き換えにしてでもって奴が居る」

「でもゲーム内なら死んでも生き返らせてもらえるって話じゃないの?」

 ホノの素直な答えにゴーが告げる。

「異業が増加する事は、容認できないって拒否してくるんだよ」

「冗談だよね? さっき十回以上参加した人で一度も死ななかった人は、一割も居ないって話だったよね? その人達は、その一割になる訳!」

 声を荒げるホノにあたいが即答する。

「その一割には、殆どいない。それどころか残りの九割の半分以上は、宗教関係者」

「はー! そんなふざけた話がまかり通ってる訳!」

 憤慨するホノに対してゴーが何か言う前に鬼家令が声を上げた。

「最終的に決めるのは、本人だ。上部組織がどういって居ようと事前に本人が生き返りたいと宣言していたら生き返らせる。逆に死ぬのを望めば生き返らせない。そこを押し曲げてまで全員を生き返らせようとするのは、神様気取りの偽善者のする事だ」

 何とも言えない空気を打ち破る為にあたいが次のリストを出す。

「最後の999までは、企業。国連の承認を取れるだけのコネを持ってる事が前提の世界的な大企業限定。資金力に組織力、なんといっても有益な人材が居るし、雇えるから成果をだしている。ソーロもこの企業系、『トリガー』所属のプレイヤーだよ」

「トリガーってどんな企業」

 首を傾げるホノに対してゴーが冷めた視線を向ける。

「アメリカ最大の銃器メーカー。世界経済に少しでも興味があれば知らない筈無い企業だよ」

「ほら、あたしアメリカとか興味ないから」

 視線を逸らすホノだったが丁度その時に食堂に入って来たホノの上姉が言う。

「うちでとっている新聞の一面にも何度も名前が載っている大企業よ。少しでも新聞読んでたら知ってて当然の一般常識ね」

 引き攣った顔をしながらホノが話題をずらす。

「んで、そのソーロさんがどうしたの?」

「ゲームだけでなくリアルで危険なトレジャーでも当然死んでないけど、本人以外が全滅ってケースがリアルでもあるって話題になってるの」

 ゴーの説明にホノの上姉がなんとなく察する。

「詰り、他人を犠牲にして生き残るタイプの人間って事ですね?」

「嘘、リアルでそんな事をして大丈夫なの?」

 ホノが信じられないって顔をするがヨックーが肩を竦める。

「当然、故意にそうしているって証拠があれば問題になってただろうけど、そういう証拠は、見つかってない。ただ、完全録画されているゲーム内では、明らかに他者を犠牲にしてるシーンが何度も報告されている。だから彼の動画は、一般受けは、しない」

「本来ならそんなのは、保証元である企業も嫌う筈だけど、それでも雇われ続けるだけの実績を上げている。G-001は、aをあちきが攻略したんだけどbとcを攻略したのがそのソーロさん。Q初の連続攻略って記録にもなってる」

 ゴーが嫌そうに言うとホノが尋ねてくる。

「そのaとかbとかって何?」

「Dは、ステージを設置するとほぼ無制限に魔物が出てくるし、Kは、倒しても異業が残ってる限り復活する。そんでQに関しては、ステージクリア後も異業が残ってる時は、バージョンアップさせて復活させる事になってる」

 あたいがそう説明するとヨックーが告げる。

「他人が謎解きした上、それが動画配信されてるのと同じゲームで数値とれると思う?」

「無理ですね。そんで、その不人気ステージを今日アタックするんだ」

 ホノが納得する中、ゴーが言う。

「まあ、クリア出来るとは、限らないけどね」

「そんなに難しいの?」

 あまりゲームに詳しくない上姉にホノが説明する。

「ほら、洋画でトラップで崩れる遺跡とかあるじゃん。あれを過激にした上数を増やしたって感じなんだよ」

「それって建物として大丈夫なの?」

 ホノの上姉が首を傾げるとヨックーが苦笑する。

「一応は、建物って形をとっているけど所詮は、異業の塊だからね、異業が解消しきるまでだったら何度でも復活するんだよ」

「詰り、そんだけ大仕掛けが出来る程に異業なんだ?」

 ホノの言葉に鬼家令が頷く。

「王家の人間に復活を囁いて作らせたピラミッドは、それだけ多くの人間が犠牲になってるのだ」

 ヨックーが苦笑する。

「死者蘇生なんてやろうと思えばそんなのなくなって出来たけどね。まあ、アレ曰く、大げさな装置があった方がサル山のボスが喜ぶそうだ」

 大きなため息を吐くホノの上姉。

「結局の所の権力者の我儘の犠牲って奴ですね」

 自分も上の連中からゴリ押しでゲームに参加しているホノもため息を吐くのだった。



 日曜日 12:45

 Q/G-001-dの入り口

 ナノドローン配信の受信


「さて今日も頑張ってお宝探索だ」

 陽気な声でそういう白人金髪男性、『603ー00078』ソーロ=イブンの言葉に同行者を束ねる黒人女性女性、『603ー00884』マリーデ=ケイソンが不服そうな表情を見せる。

「休日に態々挑む理由が解りません」

 ソーロは、肩を竦める。

「いやー俺の配信って人気が無いらしくてね。少しでも再生数を稼ぐためだよ」

「再生数が伸びない理由は、時間の問題じゃないでしょう」

 マリーデの突っ込みにソーロが不思議そうな顔をする。

「そうなのかい? じゃあなんで数値が無いのかな? 不思議だな?」

 本当に解ってない様子のソーロに苛立ちを籠めてマリーデが怒鳴る。

「貴方のやり方が酷いからです。前回だって、嫌な予感がするってだけで部下を先行させて殺して居たでしょ!」

「うんうん、やっぱり俺の勘は、正しかったって証明だな。たった数十万ドルでトラップの初クリアをいくつも稼げたんだスポンサーも大喜びだ」

 誇らしげな顔をするソーロにマリーデの後ろに居たメンバーから殺気すらとんでくる。

「言っておくけど、君達に拒否権は、無い。そういう契約だからね」

 ソーロの言葉に歯軋りする部下を押させてマリーデが告げる。

「成果があがる前提です! 何の成果も無しに無駄に部下を殺すと言うなら上も貴方を切ります!」

 ソーロは、それに頷く。

「そうだね成果が出なかったら切られるね。それで俺が成果が出さなかった事があったかい?」

「それは……」

 マリーデが言葉に詰まる。

「ないよね? 俺は、常に成果を出して来た。だから今回も大丈夫だ。君達だって死んでも復活できるうえ、成果報酬も貰えるWinWinの関係じゃないか。それって凄く幸運なんだよ。リアルだったら死んでるんだからね」

 ソーロの言葉にマリーデの部下の一人が漏らす。

「この死神が」

 それを聞いたソーロの目が妖しく光る。

「今日も俺の勘は、冴えわたりそうだ。そこの君には、率先して確認して貰おうか」

 睨み返そうとする部下を抑えてマリーデが言う。

「戦闘するのは、あたし達だって事をお忘れなく」

「はー、このゲームの唯一の難点だね。そうじゃなければ何度も挑めて楽しいゲームなのにさ」

 ソーロの言葉の軽さにマリーデは、何度目になるか解らないため息を吐くのであった。



 日曜日 13:15

 Q/G-001-dの入り口


「今日の衣装は、比較的大人しめだね」

 ホノが、昔のテレビ番組にあった探検隊の様な半袖半ズボンの服を見る。

「前にアタックした時、アニメとかで出てきそうな女王衣装だったのが雰囲気が壊れるって突っ込みがあったんだよ」

 ゴーが思い出したくもないって顔で言いながら手を合わせる。

「かしこみかしこみ虚ろな神たる刀、牛若丸、都に張り巡らされし土の路を司る姫、都土路姫の名のもとに言霊を奉り給ふ『気炎万丈』」

 真っ赤な刀身の刀がゴーの手の中に現れる。

「詠唱付きって事は、それをメインで戦うの?」

 ホノが確認してくるのでゴーが頷く。

「ここってミイラ系ぐらいしか出てこないからね。これで十分。それじゃあ中に入るよ」

 そういってピラミッドを上がっていく。

「ねえ、入り口がそこにあるけど?」

 ホノが指さした先には、確かに入り口がある。

「そこが正解だったのは、最初だけ。後は、王の間の傍まで行くだけのダミー通路」

 ゴーがそう答え、天辺に移動。

 普通に登る様に出来ていない場所なのでホノも息が上がってる。

「こんな所を入り口にするなんて性格悪い」

「残念、そんなに真っ当な性格してないよ」

 ゴーが天辺の石を回して反対側に降り始める。

「どういう事?」

 戸惑うホノに対してゴーが面倒そうな顔をして言う。

「今の石を回してから中に入らないと途中で道が塞がったままなんだよ。そんで正規ルートは、最初の入り口の正反対にあるよ」

「それってもしかして回さずに入ったら、最初に戻らないって事だったの?」

 否定の言葉を求めたホノの言葉にコメントだけが流れていく。

【クレちゃんの反応が新生で良いね】

【路姫って散々やられてきてすれちゃったからな】

【ちなみに『気炎万丈』ってどんな能力】

【零捌弐肆『気炎万丈』、使用者の気合が炎になる。激怒した路姫が都市系Qで建物一つ燃やし尽くした事あり】

【気合が炎になるから見ていて面白いから人気の四字熟語だよな】

【でも最近、派手なのないから、派手に燃え上がるところみたいな】

【それやったら崩落エンドだってWW】

 ホノが小声で呟く。

「見てるだけの連中の無責任発言って結構腹立つね」

「今更だよ」

 そういいながら牛若丸から炎が漏れ出すゴーであった。



 日曜日 14:45

 Q/G-001-dの中間地点

 ナノドローン配信の受信


「ハアハアハア、これでお終いだ!」

 マリーデが最後のミイラを倒したのを確認してからソーロが前に出てくる。

「ご苦労様。さて、いくよ」

「少し休憩させてくれ!」

 部下の言葉にマリーデも懇願の視線を向けるとソーロは、少し考えてから頷く。

「良いよ。ただ、マリーデは、俺の傍ね」

 部下達が複雑な視線を向けるがマリーデは、首を横に振ってから言う。

「お願いします」

 そうして休憩が始まる。

「今回も順調だね」

 ソーロの軽い言葉にマリーデが拳を握りしめている。

「もう半分は、死亡しています」

「まだ半分しか死んでないんだよ」

 ソーロの返しに部下達の視線の殺気が一気に高まる。

「もう少し言い方を考えて下さい」

 マリーデの言葉にソーロがマリーデが用意したコーヒーを飲みながら言う。

「新規トラップを五か所攻略して半分。いい成績でポイントもかなり溜まってる。危険だかたってトラップ攻略を諦めて帰れるのかい?」

「それは……」

 言葉に詰まるマリーデ。

「結局の所、リアルでもゲームでも結果が全てだ。結果が出せないやつから消えていく。トレジャーハンター時代、部下に慕われ、人気もあった奴ほど辞めていった。トレジャーは、ゼロサムゲーム。全てを手に入れるか全てを失うかしかない。それに比べれば死んでも生き返れるこのゲームがどれだけ親切な事か」

 ソーロの言葉に誰も反論出来ない。

「まあ、残り半分もここで終わりだけどね」

 ソーロの漏らした言葉の意味をマリーデが確認しようとした時、それは、起こる。

 床が崩れ始めたのだ。

「どうなってるんだ!」

 部下達が慌てる中、ソーロは、マリーデを促す。

「あそこに通路へ走れ」

 マリーデが大声で命令をだす。

「あっちの通路だ! 急げ!」

 そしてソーロとマリーデが通路に到着する頃には、休憩していた部屋の床が完全に消失していた。

 当然、マリーデの部下達は、全員暗い闇に飲まれていった。

 掴みかかるマリーデ。

「こうなると解っていたのか!」

「そんな予感は、したよ。ミイラが攻撃より足止め優先だったからね。長時間、この部屋に居れば崩れる仕掛けだろうよ」

 ソーロの答えにマリーデが睨みつける。

「だったらなぜ休憩を認めた!」

 肩を竦めるソーロ。

「休憩したいと言ったのは、そっちだろ。何時も勘で適当な指示をするなっていってるののもね」

「なんでだ! なんで無駄に殺した!」

 マリーデの慟哭は、ソーロには、届かない。

「俺の動画のファンは、こうやって死ぬ連中を見るのが好きなんだよ。今もコメントがいっぱい流れているさ」

 マリーデは、自分のゴーグルに流れる自分の部下達の死を喜ぶコメントに怒りを覚える。

「怖い顔をしない。折角綺麗な顔なんだから笑って笑って」

 ソーロの煽りにマリーデの拳が震え、殺意の光がその目に宿る。

「君達、何人の罪のない人間を殺して来たんだい?」

 ソーロのその言葉でマリーデの表情が一変する。

「……何の事?」

 ニヤリと笑うソーロ。

「俺が一緒に行動する人間の事を調べないとでも? トリガーがこのゲームの戦闘要員として準備した人間は、全員殺人経験者だろ?」

 マリーデの目が鋭く光る。

「貴様は、守秘義務というものを知らないのか?」

 ソーロが平然と言ってくる。

「そっちが隠していることまで守秘義務があるとでも?」

「無理やりでも口を塞いでも良いんだ!」

 強い口調になるマリーデに対してソーロは、同様の様子を見せない。

「それこそ契約違反だ。もしもそれをしたならばトリガーは、莫大な違約金を払う事になる。君たちは、トリガーの利益の為に非道を繰り返してきた。ここで疑似的に死ぬのは、自業自得って奴じゃないかな?」

「貴様に何が解る!」

 声を荒げるマリーデに対してソーロは、苦笑する。

「理由をつけて殺人を正当化しようとする人間の考えなんて解る訳ないだろう」

 言葉に詰まるマリーデにソーロが告げた。

「人の命に価値なんて生き残って自分で作るしかない。俺みたいにね」

 そういって先に進むソーロと鬱々と気分を持ちながらもその後に続くマリーデであった。



 日曜日 15:15

 Q/G-001-dの中間地点


「やばい雰囲気!」

 ゴーがミイラの動きに違和感を覚える。

「何が?」

 ホノが術具を使って丁寧にミイラを倒しながら尋ねるとゴーが牛若丸に気合を込めて炎を上げて目の前のミイラを焼き消しながら答える。

「ミイラが足止めしてる。まるでこの部屋に長いさせるためみたいに思える」

「それってどういう意味?」

 ホノが首を傾げるがゴーの予測は、正解。

 いま、あたい達が居る部屋は、さっきソーロ達が居た、長時間居ると床が抜ける部屋。

 人数差が出てミイラを倒しきれていないのに床が落ちる時間が近づいてる。

 これを言えたらいいんだけど流石に主催者側顕現で他者の行動を見た情報を提供する訳には、いかないからあたいは、だんまり。

 ゴーは、周囲を見渡し、ミイラが出口に多い事を確認すると気合を高める。

「一気に突き抜けるよ」

 立ち上る炎でミイラを押しのけ、ゴーが走り、その後をホノも追う。

 あたいは、二人の画に入らない様に天井にアンカーを放って追尾する。

 そして床の崩壊が始まる。

「床が崩れてる!」

 ホノが涙目で叫ぶとゴーが怒鳴る。

「とにかく走れ!」

 更なる気合を込めて炎を高めると出口を塞ぐようにしていたミイラを焼払い、出口に到着する。

 肩で息をするホノを見ながらアンカーで部屋に残ってるあたいを視界の端で確認してゴーが言う。

「危機一髪って感じだね」

「そうだけど、初回クリアポイントついてないよ」

 ホノが不思議そうに言うとゴーが頭を掻く。

「もしかして朝話題にしていたソーロさんが先行しているのかも」

「えー、あたしとしては、初回クリアポイントは、欲しかったのに」

 なんだかんだいってポイント稼げと言われているホノとしては、そうだろう。

「んじゃ、少し急ぐ?」

 ゴーの問い掛けにホノが手を横に振る。

「少し休ませて」

 苦笑しながらあたいの為に少し移動してから休むゴー達であった。



 日曜日 15:15

 Q/G-001-dの終盤地点


「結局ここまで初回クリアポイントなし」

 ホノが少し不満気に言い、ゴーが頭を掻く。

「これは、三連続ステージクリアされたかもね」

「ステージクリアポイントって二回目だとつかないの?」

 ホノの確認にゴーが頷く。

「一度ステージクリアするとバージョンアップするまで無しだね」

「ハァー、無駄足だったって事か」

 ホノがため息を吐き、ゴーが苦笑する。

「そういう事もあるよ」

 そういって、進むと大きな犬の顔を持つ神像の前に立つ。

「これってあれ、魂の判定だね」

 ゴーの言葉にホノが首を傾げる。

「何それ?」

 ゴーが神像が持つ天秤を指さす。

「あれって片方に翅が載ってるでしょ、もう片方に死者の心臓を載せて、その魂の価値を計るって神話の話。まさかと思うけど、本物の心臓を捧げろって事じゃないだろうから、代替品がある筈だよ」

 周囲を見回す中、神像が動き始める。

「まあ、この状況で何もなしで捜索できるとは、思ってないけどさ」

 ゴー達は、間合いを空ける。

 振り下ろされる神像の拳に慌てて飛びのくホノ。

 ゴーは、振り下ろされた拳に飛び乗り、その腕を駆けのぼる。

「きけえ!」

 気合を込め、炎を立ち上らせた牛若丸で首を狙った。

 しかし、牛若丸ごと空中に弾かれるゴー。

 その後、手足を振って体勢を整えて回転着地するゴー。

「破壊耐性がある。倒す系じゃないから、壊そうとすると破壊力高い四字熟語が必要だよ」

「『一刀両断』は?」

 ホノが確認にゴーが首を横に振る。

「あれは、破壊できる物を破壊する奴だから破壊耐性とは、相性は、悪い。セオリーの攻略としては、攻撃を回避しながら代替品を見るける事だと思うね」

「詰り、暫くは、回避続けるって事で良いのね!」

 そう声を上げながら走り出すホノ。

 ホノとは、逆方向に走り出しながらゴーが言う。

「追われた方が囮ね!」

 そして神像は、先に動いたホノを追いかけ始める。

「攻撃したのは、路姫だからあっちを追ってよ!」

 ホノは、ぼやきながらも逃げ続ける。

 その間にゴーは、周囲を探る。

「おかしいな、こんな状況でも天秤を手放してない以上は、あれがクリア条件だとおもうけど、代替品が見つからない?」

 一瞬、こっちに視線を向けてくるけど答えは、教えられない。

 まあ、初見クリアは、まず無理だろうな。

 そんだけ質が悪いクリア条件だから。

 暫く観察した後、ゴーは、再び神像を見て気付く。

「なにかなあのあからさまな心臓の位置を解るようにしたマークって。そういう事なの?」

 神像の左胸に刻まれたマークを見てゴーが覚悟を決める。

「破壊耐性があそこについて居ない事を祈りますか」

 ゴーは、髪留めの鈴をとり鳴らしながら言霊を紡ぎ始める。

「驚」

 コメントを使い、ホノに自分の方に逃げる指示を出しながら続ける。

「天」

 ホノが全速力で向かってくるのを見ながら更に続ける。

「動」

 ホノに視線で通り過ぎる様に合図を送り最後の一言。

「地」

 牛若丸は、ゴーの身長と大差ない大刀に変化する。

 それを観て興奮のコメントが一気に流れる。

【でっかい刀! あんなの振れるのかよ!】

【きょうてんどうち? それってどういう意味?】

【零陸捌玖『驚天動地』、その一振りは、天地を震わす。完全補助の際には、町一つを塵に変えた】

【嘘! そんなの信じられない!】

【本当、本当。過去動画にもなってるし】

【ああ、あのやり過ぎ失敗動画ね。反省会で『あちきは、スカポンタンです』と書かれたボード一つでカメラの前に立たされて涙目で反省させられてた奴だね】

【あの見えそうで見えない奴ね】

【カメラもっとした映せって死ぬ程コメント流れてたな】

【それじゃあ、今回もそうなる?】

【そりゃ楽しみだ!】

【いやいや、今回は、鈴だけの詠唱も無しだ威力は、大分抑えられる筈だ】

【なんかの間違いで暴走しねえかな?】

【よしみんなで言霊追加で暴走をさせよう!】

 その後、『驚天動地』ってコメントが山の様に流れるなか、神像に向かって牛若丸が振り下ろされた。

 神像全体が震えた。

 だが、破壊耐性は、驚天動地の超振動にも有効な様で神像全体が壊れる事は、無かった。

 ただ、マークがついた部分が崩れ、そこから心臓のレプリカが零れ落ち、天秤に載った。

「あれって偶然?」

 ホノの言葉にあたいが小声で答えてやる。

「ヴォルカノグレートエルフの戯れであそこに落ちる様にしてある」

 大刀になった牛若丸に体を預けゴーが言う。

「何とか攻略出来るね。でもな……」

 動きを止めた神像を見て納得いかないって顔をしていた。

「どうしたの? 何かまだトラップがあるとか?」

「流石にそこまで性格は、悪くないと思うけど。少し気になるんだよな」

 そう、神像に集中した瞬間、そいつらは、駆け出した。

 すっかり脱力していたホノは、茫然と、大技の後で余力がないゴーは、悔し気にそれを見るしか無かった。

「お疲れ様! お礼に君の疑問に答えよう。Qで撃破必須の仕掛けは、不自然だと思ってるんだろう?」

 出口に向かって駆けだしているソーロの言葉にゴーが嫌そうな顔をしながら頷く。

「あの几帳面な人が戦闘メインじゃないQで必須条件にするとは、思えないからね」

「簡単だよ。本物の心臓でも攻略が可能なんだよ」

 ソーロの言葉にホノが怒鳴る。

「そんな訳ないでしょうが!」

 信じられないんだろうがゴーは、あたいを見ていたので頷いた。

 ソーロの正解を言っている。

 同行者の誰かの心臓を抉り、天秤に載せても攻略出来る様になっていた。

「マリーデにやってもらおうかと思ってたんだけど、良い所に路姫が来たんで便乗させて貰ったよ」

 出口に到着したソーロだったが、通過直後に扉を閉じた。

 復活する犬の神像。

 そしてホノが不満の声を上げた

「もう一回やるの!」

「残念だけど、そう簡単に行かないよ」

 ゴーが振り返るとそこには、マリーデが立っていた。

「出来るだけ邪魔をして時間を稼げと言われている」

「紅ちゃん、時間稼ぎお願い」

 ゴーは、そう言ってマリーデと向かい合う。

「貴女を倒さない限り、心臓を載せても直ぐに落とされる事になるよね?」

「それが一番合理的だな」

 マリーデは、否定せず拳銃を突き出して来る。

 ゴーは、舌打ちする。

「それって魔物用じゃないよね?」

「そうだな、魔物相手じゃ小口径過ぎる」

 マリーデは、トリガーを引いた。

 弾丸は、真っ直ぐにゴーに向かって飛んだ。

「良いの?」

 ゴーの問い掛けに弾丸を弾いたあたいが答える。

「ホノの方に映像を集中させてるから大丈夫だよ」

「噂では、聞いた事がある。路姫には、映らない護衛が居ると」

 連射してくるマリーデに弾を弾きながら近づいていく。

「あんたの立場は、理解してる。でもね、あたいの役目は、あんたみたいなゲーム外で危害を加えてくる奴を消す事なんだよ」

 マリーデ、トリガーの元裏部門、トリガーに不利益もたらす存在を始末する連中。

 戦闘慣れからか慌てず、自爆の可能性がある小型手榴弾のピンを抜いた。

「甘いよ」

 あたいは、その手榴弾を握りつぶす。

 あたいの手の中だけで爆発した事にマリーデが戸惑う。

「そんな、爆風すら起こらないなんて……魔法?」

 知識外の現象をなんとか理解しようとしているので教えてやる。

「残念、科学だよ。爆発物って言うのは、基本正しく起動しなければその効果を発揮しない。だから爆発物質が連鎖する前に遮断してやれば良い。それだけの事」

「在り得ない。近代の手榴弾は、不発対策は、十分にされてある。それが握りつぶされただけで止まる訳がない!」

 否定するマリーデの顔面を握りしめる。

「解る? あたいの手は、普通の手に見えるけど違うの。この皮膚には、あらゆる信号を遮断するナノマシーンが仕込まれてるんだよ」

「……人間じゃないのか?」

 マリーデは、こんな状況でも諦めず、会話を続けながらも靴に仕込んだ刃を展開させている。

 その足を踏みつぶしあたいが告げる。

「あたいは、守護者。あらゆる危険から護る存在。そんなちんけな物が通じるなんて思うな」

 そのまま顔面を握りつぶそうとした時、空間が歪んだ。

「ソーロさんがクリアした見たい。強制排除されるよ」

 隣に来ていたゴーの言葉にあたいは、この状態で殺せば下手をすれば記憶が残ると舌打ちするのであった。



 日曜日 15:45

 実況ブース


「さてと取引だ。これの事を公にすればこっちもそっちの過去を公開させてもらうよ」

 ヨックーがそう脅迫するがマリーデは、強気を崩さない。

「トリガーのコネクションなら潰せる」

「へー、潰せるね。これでも?」

 そういってヨックーが見せた動画には、マリーデは、驚きの表情を見せる。

「馬鹿な、その時の記録は、無い筈……」

「人を蘇生させるって事は、その人の脳も再生させる事。その際、脳の記憶を映像化出来る技術があたし達には、あるのよ」

 ヨックーの言葉は、本当であり、危険人物に関しては、蘇生処理の際に記憶をコピーしてる。

 それだけに一度も蘇生していないソーロに対しては、余計に周囲の人間から情報を収集している。

「人外め!」

 睨んでくるマリーデの耳元でヨックーが囁く。

「あたし達を敵に回せばどんな国や大企業だって潰せる。その脅しの為の生贄にされたい?」

 マリーデは、悔しそうな顔をして漏らす。

「公には、しない。だが上には、報告する」

「脅しも含めて報告しておいてね。さてとそれじゃ、ゲストとして出てね」

 ライブ用の笑顔を見せてマリーデをゴー達が待つスペースに連行するのであった。



 日曜日 16:10

 ポイント交換所

 監視装置


『ご苦労様。ほらリクエストされてた『子宮復活薬』。これを提出すれば君達にもボーナスが出るよ』

 ソーロがマリーデに交換したばかりのアイテムを渡す。

「子宮復活薬って何」

 監視装置の確認に野次馬的についてきたホノの疑問にあたいは、簡単に答えてあげる。

「これを飲んでやれば種に問題なければ性別女性だったら孕む薬」

「はぁ?」

 首を傾げるホノに対して半眼のゴーが補足する。

「直接的過ぎ。どんなに子宮に問題があっても受精率百パーセントの卵子を生み出させることが可能なの」

「それってどういう意味?」

 まだ解らないホノにヨックーが親指を人差し指と中指の間に入れて見せる。

「アレを飲ませて一発やればガキでもババアでもボテバラに出来るって事」

 挙句に腹を膨らませたジェスチャーまで付けられたらニブチンのホノも気付く。

「何それ! そんなふざけた薬があるの!」

 ゴーがため息混じりに頷く。

「交換率が高い薬だよ。お偉いさんは、正妻に後継者を産ませたいらしくってね」

「因みに、二十億ポイントで交換してる。ノンプライスって伊達じゃないから現金換算するのは、難しいけど一億ポイント稼ぐのに一億円以下ってことは、殆ど無いっていうのが常識ね」

 あたいがそう告げると信じられないって顔でホノが言う。

「そんな人権侵害な薬がまかり通っているの?」

 それに対しては、ヨックーが苦笑する。

「まーこれに関しては、飲む女性側もそうそう嫌がることは、無いから。やっぱり正当な後継者を産めるかどうかは、何よりも大事らしいからね」

「うー、男女平等ってどこ行ったの!」

 ホノが憤慨するが実は、もっと酷い使用例をあたい達は、知ってる。

 一族の血を残す為と病弱な幼女に飲ませて犯した挙句、強制出産。

 それもボロボロになった母体に更に薬を飲ませて二人目すら産ませていた。

 二人目の出産後、三度目の行為の途中にその子は、死んだと報告書には、ある。

 それを考えれば愛も無く、本当の好きな人が居る元トリガー会長の孫娘でもある次期社長の婚約者に飲ませるのは、あだましな使用方法だろな。

 当然、同じ女性であるマリーデは、良い感情を抱いてないだろうが素直に受け取る。

『うーん、何かなその表情は? 君は、それを手に入れる為に部下を殺して来たんだろう?』

 ソーロの言葉に下衆な問い掛けにもマリーデは、歯を食いしばり我慢する。

『もしかして俺の勘違いだったかな? よくここって融通が利かないっていうけど、ちゃんとルールに沿った対応ならしてくれる。今だったら別な物と交換だって可能だけど?』

 ソーロの悪意ある言動にもマリーデは、頭を下げる。

『ありがとうございます。ソーロ様の素晴らしい働きで、喉から手が出るほどに欲しかった物が手に入りました』

 満足そうに頷くソーロ。

『それは、良かった。俺も頑張ったかいがあったってもんだよ。それじゃあ、これからもよろしくね』

 そういってタリスマンを使って転移するソーロ。

 マリーデがその場から動いたのは、暫く経ってからであった。



 月曜日 08:50

 市立陣外高等学校


「そんでさ、どうして自信があるっていってた古文訳が終わってないの?」

 あたいの疑問にホノが頭をガリガリしながら言う。

「うるさい! あんな胸糞悪い物みて宿題する気が起こらなかったんだよ!」

「言い訳は、良いから早くしないと先生が来ちゃうよ」

 時計を指さすゴーにホノが手を合わせる。

「ゴー、写させて……」

「氷華さんから本人にやらせてって頼まれてるんで」

 ゴーの容赦のない言葉にこっちをむくホノにあたいが告げる。

「以下同文」

「へんな略し方しないでお願いよ!」

 詰め寄ってくるホノだったが、携帯がふるえるのに気づいてメールをひらく。

【宿題が間に合わなかったらお小遣い減額ね】

「どうして?」

 戸惑うホノにあたいが告げる。

「ゴーに要求した時点でメールを送っておいた」

「チクらないでよ!」

 半泣きで宿題を続けるホノであった。

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