0003=こうやってクラスメイトとゲームするのも『合縁奇縁』_土屋炎華リアル

 金曜日 21:05

 土屋姉妹が住んでるマンション


「モロにへそ出しになってたじゃない!」

 あたしは、クラスメイトの爆笑シーンに涙が出る程に笑っていた。

 暫く笑った後、出た涙を拭って、呟く。

「四字熟語の一つくらい書いてあげても……」

 『3710010』に登録して送られてきた言霊セット、マイク/キーボード/パッド/リングを軽く見る。

「……例えゲームだっていっても不用意に言霊を使うのは、危ないよね」

 いい例がこっくりさん。

 遊びだと思って素人がやって質の悪い動物霊にとり憑かれるなんてケースは、いくらでもある。

 それなのに一般人でも知っている有名な陰陽師、『安倍晴明』を始祖とする土御門家の分家で幕府解体の明治維新の後から日光東照宮の守護を任されている土屋家の人間、まだまだ未熟だといってもれっきとした陰陽師のあたしがやる訳には、いかない。

「まあ、ゴーには、来週に会った時にでもジュースでも奢ってあげよう」

 そう切り替えてあたしは、家に伝わる術具のメンテナンスをする。

 まだ未熟なあたしは、経験を積むためにオカルト事件が多い東京に来て、姉が二人とも所属している『歴史資料監査室』の臨時職員として簡単な仕事をやらせてもらっている。

 『歴史資料監査室』とは、内閣直轄の組織で、表向きは、日本全国の歴史資料が正しいかを確認している全国展開している組織だけど、その実情は、違う。

 妖怪やオカルト事件などなどを解決するのを主な仕事としている。

 あたしの所属している東京支部では、毎日の様に新しい案件が発生して、今日も正式職員である上の姉、氷華(ヒョウカ)姉さんが残業をしている。

 まだ学生のあたしは、通常土日に簡単な仕事を回される。

 その為のメンテナンス。

 正式職員として働いている氷華姉さんと違ってあたしは、術具を使ってようやく妖怪や悪霊に有効な炎を出せるレベルなので、メンテナンスに手を抜くわけには、いかない。

 因みに下の姉、嵐華(ランカ)姉さんは、高校までは、京都支部で働いていたが、その時にネット絡みの技術に目覚め、東京支部でもネットに力を入れるという事であたしが東京に出るのに合わせ、東京の大学に通いながら東京支部のネット関係の仕事をしている。

 今も隣の部屋でネットに蔓延るオカルト関係の問題の対処に当たってる。

「でも、あたしが学校から帰った時にいつも部屋にいる気がするけど、大学に行ってるのかな?」

 そんな素朴な疑問を覚えながらもメンテナンスを続けるのでした。


 土曜日 01:10

 土屋姉妹が住んでるマンション


「ただいま」

 日付が変わった頃に氷華姉さんが帰って来た。

「スーパーで買った総菜だったらあるけど、食べる?」

 あたしがそう尋ねると氷華姉さんが手に持った六本パックのビールを見せてくる。

「おつまみにするから温めて」

 上着やタイツを脱ぎ、楽な格好でリビングのソファに座った氷華姉さんは、缶ビールのプルタブを開けて、一口飲むとあたしが温めた唐揚げを齧って脱力する。

「はぁー、この一口の為に仕事してるって思えるわ」

 このセリフが出るって事は、かなりストレスが溜まってるって証拠。

 普段の氷華姉さんだったら、国民を護る大切な仕事と言ってるから。

「えーと、仕事で何かあったの?」

 恐る恐る尋ねるあたしを氷華姉さんがじっくりと見てくる。

「な、何? 余計な事を言った?」

 慌てるあたしに氷華姉さんは、暗い顔をして言ってくる。

「砂華(サカ)は、お友達の所にお泊りよね?」

 あたし達四姉妹の末っ子で都会に憧れて、自分も修行すると半ば無理やりあたしと一緒に東京に来た砂華だったが、修行もそこそこに都会で友達と遊ぶのを優先してる。

「まだ小学生だし、ある程度は……」

 あたしのフォローに対して氷華姉さんは、首を横に振る。

「いない事を確認したかっただけ。嵐華を呼んで来て。ちょっと面倒な話になるから」

「解った」

 あたしは、立って、嵐華姉さんを呼んでくる。



「何が大きなトラブルですか?」

 仕事が出来る女的氷華姉さんと違いどこかやぼったいけど胸だけは、無駄にでかい嵐華姉さんが尋ねると既に三本目のビールに口をつけていた氷華姉さんが言う。

「例の件は、状況は、どう?」

 あたしには、解らない言い方だったけど嵐華姉さんは、理解出来たようで答える。

「ほぼ、公式設定通りだって事は、確認出来てる。でも、それならばウチらが気にする必要がないと思う」

 大きなため息を吐いて氷華姉さんが告げてくる。

「それがそうも言ってられなくなったの。特に炎華がね」

 いきなり自分の名前が出て来て驚く。

「あたしが? もしかして今度の土日の仕事に何か問題があるの?」

 嫌な予感がするが聞かない訳にもいかない。

 氷華姉さんは、沈痛な表情を浮かべながら言ってくる。

「今度の土日だけじゃないわ。暫く炎華、貴女には、専属してやってもらう仕事が出来たの」

 顔が引きつってる事だろう。

 まだ補欠クラスのあたしが専属する仕事なんて地味で且つ別段オカルト技能が無くても出来る単純作業っていうのがお決まりだ。

「何を考えているかは、解るけど。そうでじゃないわ。CDRGって知ってるわね」

 氷華姉さんがいきなり関係ない事を言ってくる。

「そりゃ知ってる。クラスメイトが、前に家に来たこともある源さんのお父さんがやってるサイトのゲームで源さんもゲームをやって動画配信してるから」

「そうだったわね、源轟ちゃんとは、友達だったのよね」

 氷華姉さんが凄く複雑そうな顔をする。

「CDRGがどうかしたの? もしかしてあのゲームは、実況配信を偽った呪術的洗脳動画だったりするの!」

 あたしは、最悪の状況を想像した。

 前に嵐華姉さんが京都で研修中に携わった件として聞いたのだけど、宗教法人が単なる説法動画として配信していたのは、実は、大々的な呪術であり、それを視た視聴者を半ば洗脳する事でとんでもない悍ましい儀式魔法を行おうとしていたらしい。

「視聴者を利用しているっていう点では、近いけど違うわ」

 氷華姉さんの答えに安堵を吐くが続いた。

「あのゲームリアルなのよ」

「確かに、かなり凄いVRだよね」

 あたしの言葉に嵐華姉さんが首を横に振った。

「そういう事じゃない。あれは、間違いなく現実に行われている事」

 あたしは、苦笑いをする。

「そんな訳ないじゃない! 昨日の配信でヒドラに喰われたゴーにあたしは、今日も会ってるんだよ。あれが現実だったというなら、ゴーが生きている訳が無いわ」

「ゲーム内の設定を忘れた? 源さんは、不変不滅のエターナルエルフの孫で不老不死なのよ。ヒドラに喰われたくらいでは、死なないわ」

 氷華姉さんの言葉にあたしが言葉を無くしていると嵐華姉さんが補足してくる。

「ゲームの設定って事になってる視聴する事による異業の解消や路姫が使う四字熟語の言霊集め、その全てが設定通りな現実。ここ数年、他の仕事が無い時間を当てて調べたけど間違いない」

「上手く状況が飲み込めないんだけど、もし仮にあの設定が全部本当だったとして何か問題があるの? あたし達が対処しなきゃいけない事態になるわけ?」

 ゴーと争う事になる、そう思うと胸が痛い。

 氷華姉さんは、四本目のビールに口をつけながら言ってくる。

「本来は、無いわね。私の修行中にお父さんから事あるごとに言われた『自分勝手な天災、エターナルエルフに関わるな。触らぬ神に祟りなしだ』を炎華達が聞いた事ない程にこの世界の人間にとっては、喜ばしい事なのよ」

 確かにそんな言葉は、聞いた事がない。

 もしもゲームの設定通りだとしたら、ゴーのお祖母ちゃんは、とんでもない災厄であり、それに鎖を付けたゴーは、人類すべてから感謝されるべき人間の筈だ。

「だったらどうして?」

 あたしがそう尋ねると氷華姉さんは、最後の唐揚げを飲み込んでから言う。

「あのゲームの他のプレイヤーの名前とかに聞き覚えがあるでしょ?」

「えーとあたしは、主に源さんのライブくらいしか見てないけど、確かに他のプレイヤーの中には、こっちの業界で有名な名前がちらほらとあったね。てっきり騙りだと思ってたんだけど」

 あたしの予測を氷華姉さんが否定する。

「全部本人。とんでもない事にあのゲーム内では、死者すら蘇生させられるとんでもない存在が関わっているわ。大前提なんだけど、異業の解消は、私達この世界の人間にとっても他人事じゃない、当事者であり、ゲームに参加して少しでも異業の解消に貢献する必要があるのよ」

 ここまでの話を聞いて、あたしは、この話の出発点を思い出した。

「もしかしてだけど、あたしがそれに参加するって話じゃないよね?」

「そのもしかしてよ」

 氷華姉さんも嫌そうな顔で肯定した。

「無理に決まってる! あれが本人だとしたら、間違いなく一級戦力クラスだよ。補欠のあたしじゃ、とても話にならないよ!」

 あたしの主張に氷華姉さんが大きなため息を吐く。

「そうね。世界各国の政府が後ろ盾になった各世界のトップクラスが参加して異業の解消を進めてる中に本来なら貴女が参加できる場所がある訳がないわ。でもね、政府直属以外にも政府機関が独自にプレイヤーを送りだしたりしてるの。具体的に言えば公安のオカルト担当者なんかが調査を含めて参加しているのよ」

 嫌な名前が出て来た。

 公安のオカルト担当。

 元々、公安の連中って、警察内部監査の他に他国スパイや国内の大きな組織に目を光らせている。

 宗教団体を相手にするとなると当然の様にオカルト関係の事案に対処する事がある。

 それらをするのが公安のオカルト担当者だ。

 そして、その連中と『歴史資料監査室』は、守備範囲が微妙に重なる事が多く、犬猿の仲だったりする。

「まさかと思うけど公安に対抗して内からも人員を派遣するって奴に選ばれたの?」

 違ってる事を祈りながらのあたしの問い掛けだったが氷華姉さんは、嫌々ながらも頷いてしまう。

「本部の連中が東京支部は、人員も多いから派遣可能だろうと東京支部長に通達が来たのよ」

 ようやく、氷華姉さんが真面目な話にも関わらずビールの飲むスピードが早い理由が解った。

「詰まるところ、上の意地の張り合いに付き合わされるって事なんだ」

 疑問符は、付けない。

「東京支部が人員が多いのは、そんだけこの東京でオカルト関係のトラブルが多いって事だって本部だって解ってるだろうに。他が対応してる事に一々人員を割ける余裕なんてある訳ないでしょうが!」

 そう愚痴りながらビールを呷る氷華姉さん。

 愚痴りたくなるのも解る。

 毎日残業をする程に仕事が忙しいって言うのに上の意地の張り合いの為だけに貴重な人員を割けって言われたらだれだって愚痴りたくなる。

「支部長の考えとしては、VRゲームを模倣しているシステムには、最近の若者の方が適用性が高いから臨時職員として登録してある貴女に任せたと上に報告してお茶を濁す予定よ」

 今度は、あたしが大きくため息を吐く。

「結局の所、歴史資料監査室、東京支部としては、本格的に参加するつもりがなく。あたしを形だけでも参加させて本部への言い訳にする訳だ」

「その考えで問題ないわね。だから暫くは、今までの仕事は、せずに問題のゲームに参加して貰う事になるわ」

 氷華姉さんが申し訳なさそうな顔をしてるのであたしは、告げる。

「解った。仕事だから色々とあるのは、理解してるから」

「そうね色々あるのよね」

 遠い目をする氷華姉さんは、きっと今回の件以上に下らない仕事をやらされた事があるんだろうな。

「そんな訳で早速だけど、もう申請は、通してあるから明日私が同行してゲームをする為の場所に行くわ」

 氷華姉さんが表情を切り替えて言ってくる。

「氷華姉さんも行くの?」

「一応万が一のサポートって事で私も登録だけは、してあるわ。もし本当にやばいと感じたら躊躇なく連絡して」

 そう言ってくれる氷華姉さんの言葉が心強かった。


 土曜日 10:30

 ゲートハウス ロビー


「配信動画で見たことある内装だ」

 半ば茫然とその風景をみるあたしと違い、あたし達をここに転移させた5Sタリスマンを怖い視線でみる氷華姉さん。

「とんでもない力ね。これが万が一にも人類に敵対する方向に向けられない事を祈りたいわ」

 あたしも同意だった。

 あたし達が転移されたのは、ロビーと思われる場所でそこそこの人数が居る。

「動画の中では、言葉は、自動翻訳されていたけど本当かな?」

 首を傾げるあたしに対して近くに居たアメリカ人の男性が言ってくる。

「本当だぜ! ここじゃあ、ロシア語だろうがスペイン語だろうが関係なしさ」

 そう笑いながら去っていった。

「とりあえず、どうするのが正解かしらね?」

 こういうのに慣れていないだろう氷華姉さんにあたしが言う。

「パターンとしては、出来るゲーム選びもあるけど、あたしとしては、先に装備をどうにかしたい」

「装備? 術具以外に必要なの?」

 意外そうな顔をする氷華姉さんに対してあたしが答える。

「色々と必要なの。特にデータゴーグルがあるとないとじゃ全然違うんだよ」

 理解できていない様子で首を傾げる氷華姉さんを連れて、あたしは、動画で何度か見たこのゲームだけで使える装備を貸出してくれる店、『レンタルノブシ』に向かった。



 土曜日 10:40

 ゲートハウス レンタルノブシ


「データゴーグルの貸し出しってお願いできますか?」

 あたしが緊張しながら尋ねるとホモンクルスがあたしを見定めてから告げてくる。

「貸せる。武器や防具は、あそこ等辺のだったら問題ないぞ」

 差し出されたゴーグルを受け取って問題の場所に移動する。

「さっきのは、どういう事?」

 不思議そうな顔をする氷華姉さんに対してあたしが答える。

「あそこのホモンクルスって人の能力をある程度見る事が出来るの。それで最低限戦える人間じゃないとレンタルさせてくれない。動画じゃ、見栄だけ参加した金持ちが容赦なくたたき出されてたっけ」

「それは、いい事ね。戦う力が無い人が無駄に戦う必要は、無い物ね」

 何となく納得してくれた氷華姉さんにあたしは、直球の質問をする。

「ところでさ、装備の為のお金って必要経費だよね? いくら位までだったら出るかな?」

「えぇ?」

 驚いた顔をする氷華姉さんに逆にあたしが戸惑う。

「ちょっと待って、まさかと思うけど経費で落ちないの? ほら、悪霊退治の時だって使った呪符の費用とかちゃんと経費で落ちたじゃん!」

 氷華姉さんは、顔を背けながら言ってくる。

「昨日言ったように建前の任務だから予算は、殆ど無いのよ」

「具体的には?」

 あたしは、真剣な顔で追及する。

「一日五千円の日当を含めて一万円。今回だけは、私の分も含めて二万」

 言葉が無かった。

「えーと、装備が無いと駄目なのかしらね? ほら通常任務に使ってる術具とかでどうにかならない?」

 困った顔をする氷華姉さんは、全くこのゲームの事を知らないのだろう。

「ゲームに参加している一流どころの人が同じことをしようとして即死だった。基本、悪霊や妖怪退治の時と違ってかなり物理攻撃力が高いから防具が無いと回避し続ける事になるし、D-デストロイ/殲滅の場合、数だけは、尋常じゃないから回避を成功させ続けるのは、ほんの一部の人だけだよ」

「そうだ! レンタルだったらかなりお安いのでは?」

 氷華姉さんの甘い予測をあたしは、切って捨てる。

「少し考えれば解る事ですけど、防具なんて傷ついてなんぼの物の通常レンタルって成立すると思う? ここのレンタルは、外部で使わせない為の方便だって金欠メンバーが悲痛な叫びをあげる動画に同情のGOODボタンが大量に押されたね」

 随分と設定に入れ込んでるなと思ってたけど、あれは、ガチだったのだろう。

「……今回の防具代は、私が出来るだけ自腹を切ります」

 氷華姉さんが今にも泣き出しそうな顔で言ってくれた。

 それを踏まえてあたしは、防具を視た。

「動画で散々話題に上がってたけど、ここまで酷いんだ」

 第三者として動画として見てるときは、笑える光景が今は、本気で最悪な光景に変化している。

「ここの防具って値段と体積が比例しているわね。やっぱりその方が防御力が高いのかしら?」

 氷華姉さんの言う事は、半分合っていて半分間違っている。

「魔物の攻撃は、人が通常に装備出来る防具で耐えれるのは、殆ど無理らしいって検証動画があった。そんで、ここで重要なのは、値札に掛かれた防御結界レベル。はっきり言ってしまえば防御力は、それだけで決まってその他の項目は、殆ど防御に影響が出ないっていうのがCDRGでの通説だよ」

「へぇ? でも、こっちのビキニの様な奴と確りしたローブの様な奴は、同じ防御結界レベルで値段が二桁違うわよ。やっぱり防御力は、ローブの方が高いんじゃないの?」

 氷華姉さんのごくごく常識的な意見に対してあたしが携帯で一つのCDRG検証動画を見せる。

「これって特撮よね? ビキニの水着とフルアーマーで同じ攻撃受けてビキニの方だけ助かるなんてありえないでしょ!」

 絶叫する氷華姉さんにあたしが頷く。

「あたしもそう思いたいし、あくまでゲーム上の設定だと思ってた。CDRGがリアルだとするとその動画の検証が正しいと思われる節が色々とあるんだよね」

 現にこんなあたし達のやり取りをみる周りの人たちが誰も不思議そうにしていない。

 中には、憐みの視線を向けてくる女性も多数いた。

 まるで通過儀礼を受けているそんな空気が流れる。

「おかしいわ何でこんな事がまかり通るの?」

 真剣な表情で疑問を口にする氷華姉さん、あたしもそれに対する答えをもって居なかった。

 だけど、答えは、意外なところから返される。

「それは、パパPが女性に水着着せとけば数字がとれるを実践してきた人だからだと思います」

 声の方を向くとそこには、ゴーとノブコが居た。

「何でここに?」

 あたしが尋ねるとノブコが苦笑する。

「どうしても何も、ここってあたいの兄貴が管理してる店だよ。知り合いが来たと連絡があったの」

 そういえばノブコのお兄さんは、ノブシって名前だったっけ。

 そんでもってゴーの父親は、確か元テレビ局の敏腕Pだって話だ。

「源さん、お父さんに言ってあげて、今時は、そういうのは、色々と問題あるって」

 氷華姉さんがかなり真剣な顔で言ってるがゴーが肩を竦める。

「でも実際に数値が出てるんだよね」

「数値って?」

 あたしが尋ねるとノブコが胸元を開くと空中に映像が浮かび上がる。

「立体映像?」

 思わずあたしが口にするとゴーが手を横に振る。

「ちゃうちゃう空中に映像を映し出してるだけ。特殊な力場を作ってそこにユニーク情報をもった色素変化と空気振動、座標発信の機能が付いたナノマシーンを放出した上でノブコに搭載された高性能コンピューターが映像と音声にあった指示を出して居るんだよ」

「それって……」

 あたしが言葉に詰まるとノブコが平然と言ってくる。

「あたいの正式の名前は、ニューオーバーバトルユニット5。単体ユニットでは、持ち得ない強力な戦闘能力を搭載した、ゴーレムとホモンクルスにロボットを合わせた物だよ」

「ノブコがロボットだったなんて……」

 若干ショックを受けているあたしを他所にゴーが言う。

「ところでさ、そのナノマシーン射出装置ってそんな胸元に作る必要があるの? 別段、手に付けた方が便利じゃないの?」

「おっかさんの趣味。この方が注目されるだろうって」

 ノブコの軽い答えに一気に脱力する。

 ゴーとノブコも色々あるけど、あたしが知っているゴーとノブコだった。

 そんな中、解説映像を見ていた氷華姉さんが頭を抱えている。

「男って生き物は……」

 あたしも流し見してただけだけど、同じだけの魔物を倒した動画でも、水着姿の方が再生数、コメント、GOODが正に桁違いみたいだった。

「褌だけでドラゴンと戦った動画は、女性受けしているよ。因みに万券を差し込みたいってコメントがどういう意味なのかをヨックーさんには、聞くなって言われてる」

 ゴーの補足に氷華姉さんが凄く遠い目をしている。

「それは、本当に知らなくて良い事よ」

「どういう意味?」

 あたしが聞き返すが氷華姉さんは、何も答えてくれなかった。

「大体の事情は、察するけど、公安の付け届けに対抗したい『歴史資料監査室』の上に対して、中間管理職の人がホノちゃんを使ってお茶を濁そうとしているんだよね」

「『歴史資料監査室』の事を知ってるんだ」

 少し意外に思いながら聞くとノブコが苦笑する。

「知ってるのも何も、アレの好き勝手の影響で妖怪変化が増えたこの島の防衛の為って、飽きて次の悪戯に移ったアレの代わりに小野小町をやってたレイクグレートエルフ様が創設した組織が原型だからね」

「……初耳です」

 氷華姉さんも驚いていたがそれより気になった事がある。

「付け届けって何? これって今言ったようなエターナルエルフの異業の解消の為のゲームなんだよね? その公安の連中がそれで成果を上げているのに対抗してじゃないの?」

 ゴーが意味ありげな視線を氷華姉さんに視線を向けた。

「どうせ解る事です」

 氷華姉さんの諦めが籠った一言にゴーが言う。

「実際見た方が早いね。行こうか」

 そのままあたし達は、ゴーに案内されて移動を始めた。



 土曜日 10:40

 ゲートハウス ポイント交換所


 着いたのは、ホモンクルスをはじめとする人型が働いていない場所だった。

「ホノちゃんもゲームで魔物倒したり、動画の配信でポイントがもらえるって事は、知ってるよね?」

 ゴーの問い掛けにあたしは、素直に頷く。

「そりゃ知ってる。それの合計で各国やいろんな組織が競い合ってるって設定だって思って居た。かなり力を注いでる節があるけど本当に意地の張り合いでもしてるの?」

 掲示板でもこのポイントについては、色々言われていた。

 参加者は、確かにポイントを重要視していたし、その為に殆ど裸な防具を着けて顔を真っ赤にして戦ってる女性を何人も知ってる。

「今の掲示板の主流は、密かに国連でランキングしていて、何かの案系の時に利用されるって政治陰謀説だったかな」

 ノブコのネタにあたしも続ける。

「そうそう、大国が小国に大量のポイントが譲渡させているって大国の横暴さを糾弾するのが定番ネタだよね」

「まあ、色々と言われてるけどその答えがここ。ポイントをノンプライスアイテムと交換できるんだよ」

 ゴーがそういって指さした先には、交換リストが表示された電子掲示板があった。

「ノンプライスアイテム?」

 あたしが首を傾げているとゴーが補足してくる。

「パパPも5Sも異業の解消がこの世界の為だからって無償でゲームに参加して、積極的に活動してくれるとは、考えてなかった。ゲームに参加して且つ率先的に異業解消に動いて貰うためにポイント制を採用し、そのポイントと人の今の技術では、真似できないノンプライスアイテムと交換する方法を提示したんだよ」

 話がかなりきな臭くなってきた。

「まさかと思うけど、うちの上が公安の連中と張り合おうとしてるのって……」

 あたしの言葉に大きすぎるため息を吐いて氷華姉さんが答えてくれる。

「そこに並んでるノンプライスアイテムを付け届けに使う件よ」

「……上は、本気なの?」

 自分でも眉間に皺が寄ってるのを理解しながら尋ねてる。

「綺麗ごとを色々と言っているみたいけど、支部長には、付け届けに必要なアイテムリストが別ルートって事で渡されているわ」

 氷華姉さんも本当に嫌そうに言っている。

「ふざけてる!」

 おもわずそう叫んでいた。

 だってそうじゃない、上が見栄の為に下っ端であるあたしをこのCDRGに参加させるのだって正直まだ納得していない。

 それでもその目的が異業の解消ってこの世界の為だから仕方ないって妥協も出来た。

 実際は、そんなお題目を掲げながら付け届け用アイテムのゲットの為だなんて本気でふざけている。

「これじゃあまるで得意先の社長の息子が欲しがってる電気ネズミTCGを得る為に並ばされてる平社員じゃない!」

 あたしの例えにノブコが感心する。

「物凄く的確な例えだね。正にそんな感じなんだろうね。んでホノの所の支部長さんは、そんな無駄な作業に正社員を使いたくないからバイトをあてがったって感じじゃない?」

「やってらんない!」

 キレるあたしに対して氷華姉さんが言う。

「気持ちは、解るけどこれは、正式な命令よ。まだ正式じゃないといえ、貴女も『歴史資料監査室』の人間よ。断れば、今後に悪影響がでる。特に上からの印象は、最悪になるわね」

「でも……」

 氷華姉さんの言ってることは、理解できる。

 それでも、納得したくなかった。

 そんなあたしを見てゴーが少し考えてから言ってくる。

「あのさ、ホノちゃんあちきと一緒にCDRGする?」

「いきなりなに?」

 あたしがそう返すとゴーが苦笑する。

「あちきは、ポイントつかないよ。まあ、異業の一部は、あちきが無差別に『牛若丸』使った事も影響あるからって事があるけど自分の身内がやった事の尻拭いをしたいからだよ。上の連中は、色々とあるだろうけど、ホノちゃんが手伝ってくれるってんだったら嬉しいかな?」

「ゴー、あんたって体は、小さいのに……」

 なんて大きな心をしてるんだろう。

 何時もライブ配信を視てるからゴーがどれだけ面倒な事をやらされてて、それを一生懸命やっているって。

「何だったら防具の方は、あちきとお揃いって事でこっちが提供しても良いよ」

 ゴーの提案に氷華姉さんが即座に乘って来た。

「炎華、友達同士助け合うことは、良い事だと私は、思うわ」

「氷華姉さんは、自腹切るのがやなだけじゃないの?」

 あたしの突っ込みに氷華姉さんは、遠くをみる。

「そんな事は、ないわ。ただただ、大人の汚い理屈だけで貴女を苦しめたくないだけ。上への許可なら私が責任をもってとるから」

 言い訳とも聞こえるけどどうせやらなければいけない事だったらゴーと一緒にやるのも悪くない。

そう考えているとノブコが呟く。

「これってゴーがDママのあのコスプレを一人で着るより道連れが欲しかっただけじゃないのかな」

 あたしが向けた視線からゴーは、顔を背けるのでした。



 土曜日 12:40

 実況ブース


「そんな訳で今回から参加する土屋炎華ちゃんです」

 ゴーの紹介にあたしは、渋々頭をさげる。

「よろしくお願いします」

「こっちもね。それにしてもそのコス結構似合ってるわね。Dママは、意外とそういうエロ路線もいけるんだね」

 毎度実況をしているヨックーさんに視姦されるあたしが今着ているのは、まるでアニメに出てくる妖精の様なものだけど、問題がいくつかある。

 スカートがやたら短く、少し動いただけで下着が丸見え。

 いくら見せ下着だからって恥ずかしい。

 何より胸元の抉れから胸の一部が見えている。

「これってやっぱり着ないと駄目ですか?」

「防御結界だけは、最強だよ。ほら、褌動画にあったみたいにドラゴンのブレスだって一撃は、受け止められるよ」

 言っている自分自身が嫌そうなゴー。

「最前線に行くんだからそのクラスの防具じゃないと即死するよ」

 映ってないだけで何時も同行しているっていうノブコは、かなり普段着だ。

「ノブコは、着ないの?」

 ノブコは、不思議そうな顔をしていたが手を叩く。

「あたいは、元々の表面層に同様の処理されているから。第一、あたいは、あくまであっちの世界の住人、マッドックス、おっかさんの作品だから異業解消の手伝いが出来ないんだよ」

 元から映って居ないノブコをこれ以上突っ込んでも意味が無いので、よく解説をやっている九郎さんの代わりって解説役をやることになった氷華姉さんの方を向くが直ぐに両手で×を作ってくる。

「そのクラスの防具って一千万円超すらしいの。とてもじゃないが私には、払えないわよ」

「何時の時代も貧乏人には、厳しいんだね」

 そんな悲哀を感じている内にライブの開始時間が来た。

 平日は、学校があるから19時からだけど、土日は、13時からライブ開始が多い。

 今回もその様だ。

「はーい、土曜日のお昼、皆さん休んでる? 仕事してる人は、再視聴にして仕事してね」

 ヨックーさんの軽快なトークに合わせて笑い声が流れる。

「あの笑い声って必要なの?」

 あたしの疑問にゴーが肩を竦める。

「パパPのテレビ時代からのお約束だから気にしたら負けだと思う」

 確かにテレビだとよくある演出だけど、それをこっちでも続ける意味って何だろう。

 そんな大して意味も無い事を考えている間にいつものゴーの棒読みエンタメセリフと感情が籠った四字熟語乞食が終わってあたしの紹介が始まった。

「今日は、友情出演がいるんだぜ! なんとあの有名過ぎる有名な安倍晴明を始祖とする土御門家の分家って所の娘さんだ。紅(クレナイ)ちゃんどうぞ!」

 ヨックーさんの紹介にあたしがカメラに映る。

 一応にCDRGでは、ゴーと本人たちが望まない場合、個人認識が出来ない様に認識阻害された映像が流れる事になっている。

 あたしもそうなっているらしい。

「は、はい。今日から友達の路姫と一緒にCDRGをやることになったツチ……」

 苗字の途中でゴーの肘撃ちが入った。

【認識阻害しているのに本名名乗るつもり】

 ゴーグルに表示されるコメント機能を使ったゴーの警告にあたしは、慌てる。

「……紅です。よろしくお願いします」

 危ない所だった。

 正直、ゴー自体がこれをやってることは、学校でもしられているから、多少認識阻害があったとしてもクラスメイトには、気付かれるかもしれないが、個人情報の暴露は、色々と面倒だ。

 その後、やたら緊張してる氷華姉さんの姿を後で観て楽しもうと企みながらあたし達は、移動を開始する。

 目の前には、動画では、何度か見たことがある魔方陣。

「これって空間転移の魔方陣になる訳?」

 あたしの質問にゴーが首を横に振る。

「空間湾曲型だよ。空間転移の魔法って結構安定性が無いの。だからサークルゲートは、あくまで二つの空間を一時的につなげているだけって感じだよ」

「それでもとんでもない魔法だよね?」

 そう思ってしまうがゴーは、少し悩む。

「凄い魔法かもしれないけど。実は、今装備している防具に掛かってる防御付与の方が何倍も凄かったりする」

「どういう事?」

 あたしが首を傾げるとゴーが手を触ってくる。

「こうやって普通に触れるって事は、防御結界が作用してないって事なんだけど、敵からの攻撃に対してのみ防御結界を張ると同時にそれをドラゴンのブレスでも防げるレベルなんだよ」

 これでも陰陽師の見習いだそれがどれだけとんでもない事か理解できる。

「……それだけの技術でこのコスプレ?」

 あたしの突っ込みにゴーが大きなため息を吐く。

「エンタメの世界は、厳しいらしい」

 そこは、あまり突っ込まない方が良いのだろう。

 そしてあたしは、初めてのCDRGを始めるのであった。



 土曜日 13:05

 D-デストロイ/殲滅 F-5-A


「本気で一瞬なんだ」

 動画でみてたが実体験するとやっぱり驚きがある。

「まあね」

 そういいながら普段からポニーテールにした髪を止めてる鈴を手に取って鳴らしながら唱える。

「『疾風迅雷』」

 ゴーの手に昨日一昨日と使ってる虚神刀『牛若丸』、『疾風迅雷』が握られた。

「今日は、あまり補助のせないんだね?」

「初見の所であまり補助の無駄遣いをしたくないんんだよ」

 ゴーは、そういって鈴を戻す。

「補助って制限あるの? そんな話は、聞いた事ないけど?」

 あたしの疑問にゴーは、頬を掻く。

「制限というか、一応は、周囲の八百万の神を取り込む儀式であって、無駄に多くの力を借りるのは、失礼でしょ?」

「……確かに」

 思わず納得してしまう。

 よくなんでもいいから祈願している人が居るがあれは、はっきりいって無駄な行為って言うか失礼な行為なのだ。

 何故って、神様を無駄に働かせる事を意味するからだ。

 特に八百万の神に関しては、専門分野がかなり決まっていて、そこ以外で力を貸せって言われてもそれこそ神様の縄張り破りになりかねないらしいからね。

「一応注意しておくけど、初見殺しは、普通にしてくるからね」

 ゴーの忠告に過去のライブ配信を思い出す。

「散々やられてたね」

 ゴーが半眼になる。

「エンタメだからって少しは、事前情報を寄こせって言いたい」

 不満一杯らしい。

 こういった、ホスト側なのに優遇度がイマイチな所がこのライブ配信の人気の一つだってなんかの記事で読んだ気がするが、当事者になってみるとホスト側なんだからもう少し優遇されても良い気がするのも確かだ。

「蛇が出るが鬼が出るか? どっちにしろ戦うんだけどさ」

 ゴーがそんな事を言ってると早速お出ましだ。

 見えてきたのは腕が四本あるゴリラだった。

 【フォースアームゴリラ】とゴーグルに名称が表示される。

「接近戦が強そうだね?」

 あたしの初見の感想にゴーが渋い顔をする。

「腕が多いからそう思うかもしれないけど、実は、武術において腕が多いってそれほど優利じゃないんだよ」

「そうなの? 手数が多い方が優利なんじゃないの?」

 あたしの素朴な疑問に対してゴーは、苦笑する。

「テレビゲームじゃないんだから二刀流だから二倍の攻撃力じゃないんだよ。剣で斬るにしても、手で殴りかかるにしても重要なのは、体の動き。強烈な踏み込みからのストレートと手打ちのジャブが同じパンチでもダンチの威力が天と地ほど違う。四本腕があったとしても威力を籠められるのは、どれか一本。接近戦で組み付かれなければ腕の多さなんて問題ないんだよ」

 牛若丸の能力に目が行きがちだがゴーって武闘派だったりする。

 単純に技量がとんでもなく高いらしく、掲示板で本格的に剣術を習っている人でさえ達人クラスだって賞賛していた。

「だから有効活用するとしたらもっと他、遠距離からの……」

 ゴーが言葉の途中で横に飛びのいた。

「へぇ……」

 情けない声を出して動けないあたしに禍々しい色の物体が迫って来た。

 当たる直前であたしの体が横に引っ張られた。

【本来なら禁止項目だけど、初回サービス。後でジュースでも奢れ】

 誰のメッセージかは、言うまでも無いだろう。

 あたしは、小声で呟く。

「来週学校で」

 それだけを言って改めてフォースアームゴリラを見ると、その四本の手に何かを掴んでいた。

「こうやって手数の多さを利用した投擲攻撃が面倒なんだよ」

 ゴーが怒鳴りながら次から次に来るそれらを牛若丸で受け流していく。

 多分ゴーだけなら避けるだけなら簡単なんだろうけど、あたしの為に受け流してくれてるんだと思ってたら大声で言ってくる。

「紅ちゃん、地面に落ちたそれに直ぐにとどめ刺して!」

「とどめって……げぇ、『ヴェノムキャタピラー』じゃん」

 あたしは、顔を引きつらせる。

 猛毒芋虫、『ヴェノムキャタピラー』は、この森ステージでは、既出の魔物。

 とにかくその毒がやばく、プレイヤーを何人も毒殺してるやばいやつである。

 弱点は、とにかく遅いって事。

 だから接近前に倒すのがセオリーなんだけど。

「絶対、これ考えたのパパPだ! こんな前に攻略した魔物をその弱点を潰してあえて出すなんてそうに決まってる!」

 怒鳴るゴーにあたしは、術具を取り出しながら尋ねる。

「その根拠は?」

「5Sの方々なら専用の魔物を作るから。使いまわしなんて効率的な手段なんて必要ない人達だもん」

 ゴーの答えに納得しながらあたしは、取り出した術具、霊木を削って作った周囲に五つ、中央に一つの突起をもったそれに向かって印を刻み。

「木克火」

 陰陽の五行において火は、木に勝つとされる。

 その性質を利用して、木の術具に炎を灯す事で霊木の力を宿した火炎攻撃が可能なのだ。

 地面に落ちたヴェノムキャタピラー共を一体ずつ焼き殺していく。

【少し意外、もう少し虫殺しを怖がると思った】

 ノブコからのメッセージに答える様に言ってやる。

「これでも陰陽師の見習いですから、この手の奴には、慣れてるのよ」

 実際、氷華姉さんの使い式神には、もっとグロい奴がいくらでもいるしね。

「次、『ニードルマジロ』、棘に気を付けて!」

 それを弾きながらゴーが言ってくる。

 地面に落ちたベノムキャタピラーと違った、まん丸なそれにとどめを刺そうとした時、いきなり棘が飛び出して来る。

「やば、警告無かったら刺されてた」

 あたしは、胸をドキドキさせながらも棘が無い腹の部分に術具を突き刺してやる。

 因みに、ただ防いでいるだけに見えて、ジリジリと近づいてたりする。

「行くから、気を付けて!」

 ゴーがそういって今まで弾き続けた投擲魔物の横を駆け抜ける。

 投擲を終えたばかりのフォースアームゴリラは、動けずその首を切り落とされた。

「やった?」

【それやってないフラグ】

 あたしの漏らした呟きにノブコが突っ込むがゴーは、首を無くしたフォースアームゴリラを横に蹴って盾にする。

「お代わりが来たみたいだよ」

 ゴーが嫌そうに視線を向けた先には、フォースアームゴリラのコンビがいるのであった。



 土曜日 15:10

 実況ブース


「お疲れさまでした。今回、初チャレンジのW-5-Aでしたが、どうでしたか?」

 ヨックーさんのインタビューにゴーが突っ込む。

「どうもこうもないよ。普通さ、あんな筋肉モリモリのゴリラが出てきたら接近戦やるって思うでしょ? どうして投擲メインにした!」

「自分でも言ってたように多腕の有効活用が投擲だったからじゃないんですか?」

 他人毎の様にヨックーさんが気楽に言ってくれる。

「ああいうのを初見殺しっていうのかな?」

 あたしの呟きに氷華姉さんが微笑む。

「実戦に向けていい経験が出来たんじゃない? 陰陽師の本業でもああいう初見殺しは、よくある事だから」

 大きくため息を吐きながらゴーが言う。

「今後トライする人は、盾役と弾いた魔物の止め役を確保する事をお勧めします。そうでないと、弾いているだけだとその間に弾かれ地面に落下した魔物がにじり寄ってきて毒攻撃等を喰らいますからね。っていうか、これあちき一人だったら一体目で大ダメージ喰らってたよ!」

 不満気一杯のゴーにヨックーさんが視聴者には、聞こえるだろう小声で言う。

「そりゃ、楽勝されたら面白くないから路姫メタもするよね」

 殺意高い製作者側に怨嗟の視線を向けるゴーであった。



 土曜日 18:50

 歴史資料監査室東京支部


「以上が初回挑戦の結果です」

 氷華姉さんが支部長、田貫(タヌキ)錦史郎(キンシロウ)に報告を終える。

「休日に態々すまないね」

 労い言葉を口にする支部長に氷華姉さんが慇懃に答える。

「いえ、それよりも支部長にも休出して頂き感謝しております」

 頭を下げる氷華姉さんに対して支部長は、首を横に振る。

「こんな仕事を頼んだんだ、休出くらいするよ。それに私は、今は、独り身だからね」

 聞いた話だとバツイチらしい。

 仕事を優先にした挙句、離婚されたって話だ。

「それでなんだが、これからも路姫とコラボを続けるのかね?」

 支部長の質問に氷華姉さんが少し考えてから答える。

「防具購入の予算が工面出来るのでしたら一人でやらせた方がよろしいかと」

「これからもコラボを頑張ってくれ」

 即答する支部長に氷華姉さんが突っ込む。

「アレと関わるのは、色々と問題がある筈ですが?」

 肩を竦める支部長。

「問題ないとは、言わないがそれ以上に何千万単位の予算が出せると?」

「それは……ビキニ系なら百万単位でそこそこの物が……」

 氷華姉さんの言葉に慌てて割り込む。

「動画で記録に残るのにそんな恥ずかしい恰好するなら歴史資料監査室を辞めます!」

 氷華姉さんがなんとも言えない表情で見てくる中、苦笑しながら支部長が言ってくる。

「まー確かに年頃の女の子に予算が無いから肌を晒せとは、言えないね。そういう事だから」

 氷華姉さんも諦めの表情を見せる中、あたしが呟く。

「こういうのを縁というのかな? 牛若丸の『合縁奇縁』を使えば切れるかもしれないけど、ゴーとの縁は、きりたくないからな」

 こうしてあたしとゴーとのコラボが続く事になったのです。



 土曜日 21:00

 歴史資料監査室本室

 田貫錦史郎


「こちらの計画、土屋炎華を源轟と組ませる事に成功しました」

 私の報告に今回の計画の責任者である室長が苦笑する。

「それにしても気長な作戦だったな。組ませる前提条件として一年間も必要だったか? 半年もあれば子供同士だなんとかなったのでは?」

 私は、首を横に振る。

「これでも時期尚早と思って居る程です。本人たちは、それほど意識しておりませんが、氷華につけた式神は、全滅しています」

 室長の眉間に皺がよる。

「警戒は、されているって事だな」

「はい。氷華にもあくまで上への付け届けの為というフェイク情報を信じさせていたから今回の成功につながったと考えております」

 私の感想に室長が淡々と告げてくる。

「まあよい。とにかく我々としては、日本政府が直接接触できないエターナルエルフ陣営との繋がりが出来た。これからは、この繋がりを強め、有効活用していく必要がある。その為にも頼んだぞ」

「解っております。真の目的を知らない土屋姉妹を前面に計画を続行していきます」

 私は、そういって頭をさげ、退室する。

 人気が無い廊下に出て、普段使ってる煙が出ないタイプでない、昔ながらの煙草を取り出して一服しながら呟く。

「上の連中は、虚でも神である『牛若丸』を使えるあの娘を取り込みたいんだろうが、何にも解ってねえな。触らぬ神に祟りなし、炎華には、これ以上踏み込ませない様にして上手くバランスをとっていくか」

 携帯灰皿に吸殻を捨てて、胸に入れたロケットに入れた写真を見る。

「気まぐれだった。当時の俺が自惚れ、『自分勝手な天災』に手を出した代償は、俺から全てを奪った。陰陽師としての未来やあいつらのとの未来も」

 俺とあいつ等が仲良く写る唯一残された写真。

 残りの写真は、全て改ざんされた、自分が出来る最大の結界で守ってなお影響が抑えきれず、既に妻や娘の顔は、歪み始めてる。

「人の縁まで弄れる化け物。あんな物と進んで関わろうなんて本気で馬鹿ばっかだぜ」

 俺は、外した仮面を被る。

「私は、上の命令を守る。そしてどうしてかこれ以上の縁が結ばれない。それが正解なのですよ」

 例え、相手にとっては、まるでしらない第三者だとしても、大切だった妻子の為に私は、私が作った仮面、人格で本音を隠し今日も仕事を続ける。

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