0002=過激そうでも一応『日々平穏』って認識です_源轟リアル

 金曜日 06:05

 亜空間にあるマッドックス研究所


 あちき、戸籍の名前が源(ミナモト)轟(トドロキ)の朝は、狂気との対面から始まる。

「これで前回の二倍の威力がでるぞ! だがまだまだだ! もっともっと強くし、一撃で全てを粉砕出来る様にするんだ!」

 あちきの目の前で小学生中学年程度に見えるドワーフ成人女性があいも変わらない狂気の発言をしていた。

 あちきは、手に持った真名を一文字ずつ書き込んである魔力を籠めないと鳴らない鈴を鳴らす。

「『日々平穏』」

 鈴の音に合わせる事で『牛若丸』が応じて、あちきの手の中に反りが無い短刀が現れる。

 あちきは、それの柄でそのドワーフ成人女性の頭を叩く。

「痛い! うん、なんだゴーか、もうそんな時間か?」

 あちきが『日々平穏』の精神干渉能力で平常心に戻ったそのドワーフ成人女性、突然変異種のドワーフ、全属性ドワーフのマッドックスさんに告げる。

「はい。もうすぐ朝ご飯なんできれいにしてから来てください」

「解ってる」

 そういってマッドックスさんが指を鳴らすと助手のホモンクルスが容赦ない手つきで研究室の端に置かれた大型ドラム型洗濯機に投げ込む。

 そのままそれは、動き出してしまうが、いつもの事なので気にせず、作業台の上に横になっていた物心つく前からの相棒、NOBU5ことノブコに声を掛ける。

「今日は、何をされてたの?」

 ノブコは、立ち上がると戸籍上の年齢相当の胸をみせながら言ってくる。

「昨日、ゴーを助ける為に突かったおっぱいミサイルの装弾だよ。何でも新型らしいぞ」

「マッドックスさんが旧型使うわけないか。それにしてもほぼ生体部品のノブコのおっぱいミサイルって控えめに言ってスプラッタなんだけど」

 あちきのつっこみを聞いてノブコが肩を竦める。

「ノブミ姉さんのおっぱいミサイルの方が格好イイのアタイも認めるさ。それでもあの時、直ぐに助けられそうな装備は、それしかなかったんだから仕方ないだろう」

 あちきもため息を吐きながらドラム洗濯機の方を見る。

「技術力は、凄いんだからもっと堅実な組み立てとかを考えて欲しいよ」

「無理無理、あの人の無茶ぶりを無理やりさせられ続けた結果生まれた突然変異のおっかあの頭に堅実なんて言葉は、ないって。あったら自分の名前を決めて良いって言われた時にマッドとマックスを合わせるなんて事しない」

 ノブコが言う通りだ。

 お祖母ちゃんの被害者トップテンに入ってもおかしくない立場なのに、何時も楽しそうに無茶ぶりに答えて無茶苦茶な発明してるもんな。

「ふと思ったんだけどさ、ノブコやノブミさんのおっぱいミサイルって発射時に組み上げる、内蔵型だよね? 基本装備のバルカンの弾丸みたいに亜空間無限弾倉に完成形でいれておいた方が効率的じゃない?」

「わかってないな! 胴体の厚みより長いミサイルを内蔵して、発射する。そこにロマンがあるんだよ!」

 ドラム洗濯機から出て来たマッドックスさんの熱弁を聞いてノブコが言う。

「あれって間違いなくエンタメを理解させようとロボットアニメ諸々を見せたパパPが原因だね」

 娘としては、否定したいが出来ないのであった。



 金曜日 06:20

 源家に向かう通路


「やはり、丸ごと洗濯機は、優秀だ! 服だけでなく、体も洗う事で時間が大幅に短縮される」

 そんなマッドックスさんの自分の作品賛美に対して、後ろから来たメイド姿の女性が言う。

「あんな物を喜んで使うのは、マスターと感性が未熟なホモンクルスだけです」

「おお、NOBU3元気だったか?」

 マッドックスさんの挨拶にそのメイド、NOBU3ことノブミさんが冷たい視線を向ける。

「ワタシが不調だとしたらそれは、マスターの調整ミスなだけです」

「そうでもないぞ! この間、NOBU4が予測しなかった相互干渉で熱暴走しかけたからな」

 マッドックスさんの言葉にノブミさんの顔に緊張が走る。

「そういう事は、早くいって下さい! ノブコ、ノブシを緊急招集です!」

「はーい! ノブシニイ、ノブミネエが呼んでるぞ!」

 ノブコが内臓した通信機でノブシさんを呼ぶと、ノブミさんが来た方向からホバリングした状態で長身な男性姿のNOBU4ことノブシさんがやって来た。

「キタ」

「熱暴走仕掛けた時のデータを寄こしなさい」

 ノブミさんの指示にノブシさんが頷く。

 少ししてから頭を押えるノブミさん。

「かなり危なかったじゃないですか!」

 ノブミさんの指摘にマッドックスさんは、気にした様子も見せない。

「大丈夫、バックアップは、お前の中にあるから、ボディさえ再構成すれば問題ない」

「そういう問題じゃないんです!」

 ノブミさんが怒るのを見てノブコが袖を引っ張る。

「こうなったら長くなるから先に行こうぜ」

 あちきも頷いて通路を進んでいく。

「マッドックスさんが開発したNOBUシリーズって全部コンセプトが異なるんだよね?」

 あちきの確認にノブコが頷く。

「そうそう、大本のオーバーバトルユニット、OBU1、OBU2が元の世界で壊された時、同一コンセプトだと同時突破されるって考えて変えてるらしい。連番を継続して始まったニューオーバーバトルユニット、NOBUシリーズでは、NOBU3が全世界を情報を管理する世界樹の能力を組み込んだ情報処理特化の多目的性を重視。NOBU4は、戦闘力に重きを置いて希少金属を多用した原子力を遥かに超す内燃機関搭載したハイパワーユニット。そんでアタイNOBU5は、ゴーの護衛で傍にいる為にほぼ生体部品でどんな検査機器を使っても人間と差異が解んなくしてあるぞ」

「ノブコが傍に居てくれて色々助かってる」

 あちきの感謝の言葉にノブコが苦笑する。

「気にしないでよ。アタイは、その為に産まれたんだから」

「それでも感謝」

 あちきがそう告げるとノブコが言う。

「ボウさんが待ってる急ごう」

 駆け出すノブコにあちきも続いていく。



 金曜日 06:30

 源家の食堂


「マッドックスさんは、ノブミさんの説教中なので少し遅れるよ」

 あちきがそう告げると料理を作っていたお母さんが少しこちらを見てくる。

「そう、ご苦労様。席について待ってて、もう直ぐ出来上がるから」

 そういって料理を再開する。

 あちきは、自分の席に着いて上座でデーター確認をしているお父さんに告げる。

「お父さん、おはよう」

 するとお父さんが笑顔を向けてくる。

「昨日の路姫奮戦は、いい数字出てるぞ!」

 思わずあちきが怒鳴る。

「娘がヒドラに喰われている動画が好評で笑顔になるな!」

「そういうな。この業界、数字がとれる事が正解なんだよ」

 お父さんが真面目な顔でそんな事を言ってくる。

「あのさー、前から思ってたんだけど、テレビの視聴率と同じ考えで良いの?」

 あちきの疑問を聞いてお父さんが即答してくる。

「テレビの視聴率とネットの数値は、別物だ。ネット配信の動画の再生数、GOOD評価、コメント数は、どれかに特化しているのも問題だ。総合的に高い数値が出せるのがベストなんだよ」

「そういう事じゃなくて! 動画配信の目的は、あくまで異業の解消であって、それに直結するゲーム攻略より数値を大切にするのが良いのかって話だよ!」

 あちきの更なる追及にお父さんが少し悩んでから言ってくる。

「正直これについては、ゴーがどうしても嫌だと言うならやり方を変えても良いと思ってるぞ」

 意外な反応にあちきは、戸惑う。

「どうしても嫌って事じゃないけど、でも効率的に言ったら……」

「効率でいうなら間違いなく、攻略を優先するより数字を重要視した方が良いだろうな」

 お父さんがそう答えて来た。

「どうして? そりゃ多少は、減るといっても攻略を早く進めた方が異業の解消は、早い筈だよ」

「ゴー一人でお義母さんの数千年以上かけて積み上げた異業を解消するんだったらな」

 お父さんの言葉にあちきが怯みながらもその経緯を思い出す。



 あちきがCDRGをやってるのは、間違いなくお祖母ちゃんの異業を解消するためだ。

 諸悪の根源であるお祖母ちゃん、異界から追放されてきたエターナルエルフ、シースカイは、こっちの世界でも好き勝手にやって来た。

 周囲は、ひたすら迷惑を受けてきたが、その中でもあちきがどうしても許せなかったのは、元富士山テレビの名物Pだったお父さんが自分のやり方の正しさを示す為に始めた動画配信サイト、『サイト3710010』で勝手な事をして潰れる寸前までいった事だった。

 当時小学五年生だったあちきは、切れてお祖母ちゃんに永久決闘を申し込んだ。

 不老不死のあちきと不変不滅のお祖母ちゃんだから成立する時間の概念すら無い亜空間での決闘。

 勝ち負けを決めるのは、ただ一つ、敗北宣言だけ。

 性格は、最低だが能力と経験だけは、間違いなく亜神クラスのお祖母ちゃんは、負ける事ないと思って受けた。

 当然の様に手も足も出ないまま何万年も過ぎた。

 お祖母ちゃんの半ば呪いに近い従属に伴う不老不死付与があるお祖父ちゃんや鬼家令さん、マッドックスさん、ヨックーさん達と試行錯誤を繰り返しけど、どんなに人外的な魔法の才能がるあちきだったとしても魔法でお祖母ちゃんには、勝てないと踏ん切りをつけて、虚神刀『牛若丸』を作った。

 虚神刀『牛若丸』、刀って形態しているけどある種の儀式魔法なんだ。

 亜神クラスのお祖母ちゃんには、通常魔法なんてまるで通じないし、多少のダメージを与えられても不変属性がある限り決定打には、ならない。

 ならばどうすればいいか、あっちが亜神という神様に準ずるものならばこっちも神をもってくるしかない。

 あちきは、通常の魔法行使能力を封じる代償とし、刀という形態の疑似的な神、虚神を生み出した。

 無論、本当に神様を一から作りだせる訳がない。

 そこで日本の八百万の神に目を付けた。

 西洋の神と違い、それは、直ぐ身近に存在する神である。

 神格としては、大半は、大した力をもたないが、それでも間違いなく神であり、それは、人の生活に密着した存在だった。

 四字熟語を絡めて八百万の神の力を『牛若丸』って刀の形に集める。

 そうして初めてお祖母ちゃんに通じる力を得た。

 直ぐに勝てる様になったわけじゃない。

 色んな四字熟語を試し、お祖母ちゃんの魔法に対抗するメタ的な物に変化させ、遂には、勝率で逆転して行き、敗北を認めさせるに至った。

 こうしてお祖母ちゃんの暴虐に歯止めを掛けた。

 だが、問題は、残った。

 潰れる間際だったお父さんのサイト。

 お祖母ちゃんが反省したからってなかった事には、ならない。

 それこそお祖母ちゃんがやった様に道理をひっこめる様な真似をすれば可能だったけど、お父さんを含めた皆がそれを望まなかった。

 そこで出て来たのは、5S。

 シースカイサーバントシスターズ、エターナルエルフをサポートする為に存在する五人の不老不死のグレーターエルフ。

 本来の役割は、元の世界での世界そのものの管理調整役の筈のエターナルエルフを補助する役割だったらしい。

 それが管理調整する筈のエターナルエルフであるお祖母ちゃんが好き勝手やった所為で世界は、混乱のどんぞこに陥った。

 世界の危機を救うため、5Sは、その世界では、何人も逆らえないエターナルエルフに干渉する為、異世界から一人の勇者を呼び出し、自分達の全力でお祖母ちゃんを異世界に追放する為の扉を開いて、勇者に最後の一押しをさせたらしい。

 ある意味、この世界に混乱を呼び込んだ首謀者と言っても良い。

 そんな5Sだけど、その存在は、あくまでエターナルエルフと対を成しており、お祖母ちゃんの異世界追放に紐づく様にこっちの世界に来ていた。

 そして、こっちの世界に多大な悪影響を及ぼさない様に必死に裏工作を続け居た人達だった。

 そんな5Sが今回の一件を知り、お祖母ちゃんの暴走を止めた事への感謝とその為にエルフの尊厳でもある魔法を使えなくなったあちきへの謝罪を含めて、サイトの件をなんとかすると言い始めたのだ。

 裏工作を続けていただけあって、こっちの世界でもかなりの影響力をもつ5Sだったら真っ当とは、言わないまでも妥当な方法で問題解決出来た。

 でもそれをお父さんは、受け入れなかった。

 5Sが感謝してるのも謝罪したいのもあちきであって自分でないと。

 実際、その時の5Sは、お父さんをあくまであちきが生まれる為の種馬程度にしか考えてなかった。

 ヨックーさん曰く、元から5Sは、自分達エルフ以外を養豚場の豚程度にしか認識していない。

 言うなれば愛情込めて育てていると言っても最後には、食肉に回せる程度の価値しか見いだせていない。

 そんなお父さんと5Sの話し合いは、完全に平行線を進む中、あちきが思いついたのは、お父さんが次の動画のネタとして市場調査していた実況動画だった。

 5Sとの話で、今までは、出来るだけ異業を出さない様にするのが限界だったが、この状況なら異業を解消する事が出来ると言っていた。

 その方法が、今のCDRGにある様な異業に形を持たせてそれを攻略して行くことだった。

 話し合いの間も試験的に行ったのを見て、VRゲームみたいだと思って居たあちきは、思いついた。

 攻略の様子を動画配信する為として5Sの援助を受けるって建前だ。

 どうして配信するかは、四字熟語の言霊の為とこの世界の人間に見せ、感じさせる事により異業を効率よく解消する為という風にした。

 妥協点が出来ればお父さんだってサイトを潰したい訳じゃないし、5Sも異業解消は、望む所だった筈でとんとん拍子て話が進み、当初あちきだけがやる予定のゲームにこっちの世界の裏事情を知る人間にも参加させる所まで行ってしまった。

 そしてどういう事か、異業からゲームを作り出す5Sとエンタメに通じるお父さんの歯車ががっちり組み合ってしまった。

 今では、5Sのゲーム作り会議には、お父さんが必ず呼び出される状況になっているのであった。



「……一人じゃ、百年以上かかるね」

 お祖母ちゃんの異業は、あちきが考える以上に酷かった。

 5Sは、元から千年以内に終われば順当と考えるエルフ脳だったが、お祖母ちゃんの異業は、現在進行形で地球環境すら影響与えているって知ってるあちきとしては、出来るだけ早く終わらせたい。

「動画を観てくれる人の気持ちを無視したらそこまでだ。これは、僕がテレビ業界を去る前に感じていた事だけどね。当時のテレビは、報道倫理に引っ掛かるから駄目とか、歴史考証的に間違ってるとか、CGで出来る事をリアルでやってもお金が掛かるだけとかそんな物は、作り手側の理屈でしかない。視聴してくれる人が楽しめる物を作らなければ続かない」

 お父さんの言葉に言葉を返せないあちきだったが意外なところから助け船が来た。

「良い事の様に言ってますが、数値をとって異業解消を進めるのと父親として娘の事を心配するのは、別問題でしょうが」

「鬼家令さん!」

 あちきは、助け舟を出してくれた二メートルを超す巨漢、鬼家令、オーガースチュワードさんを見る。

「いくら不老不死だからといって、痛くない訳では、ないのですよ。少しは、労りをもって接するべきでしょう」

 そのごつい体つきからは、想像出来ない紳士的な対応、それが鬼家令さんらしさだ。

 鬼家令さんは、マッドックスさん、ヨックーさんと共にお祖母ちゃんの下僕としてこっちに飛ばされた人だ。

 元の世界の鬼領地の領主に戦闘以外でも力になりたいと特殊進化した稀有な存在で、それをお祖母ちゃんに目をつけられて領地が襲われ、領主の命の引き換えにと従わされている。

 こっちの世界に来たんだからもうお祖母ちゃんに従う謂れは、無い筈なのだが、主と誓った鬼領主の命と引き換えに誓った忠誠、それを違えられないと今でもお祖母ちゃんの下僕として働いている。

 ただ、この頃は、一番大切にしているのは、あちきのお母さんで、一番一緒に仕事しているのは、あちきのお父さんだったりする。

 ばつが悪そうな顔をしていたお父さんだったが、ため息を吐いてから言う。

「出来るだけ、お前が死にそうにならない様に5Sとも調節する」

 実質的な勝利にあちきが満足している中、お祖母ちゃんの下僕の最後の一人、双色翼人、ツインデザイアハーピーのヨックーさんがやって来ていう。

「5Sの連中も感謝しているけど、自分達が散々苦労させられたアレに生き写しのゴーに悪戯したくなるのも仕方ないでしょうね」

 顔を向けたあちきの眼前で男の朝の生理現象が起こっていた。

「ヨックー、ここには、婦女子もいるのだ、もう少し考えろ!」

 鬼家令さんの注意に朗らかな顔でヨックーさんが言う。

「いや、こればっかりは、仕方ないっしょ。それとも朝から一発やって来た方が良かったのかな?」

「ヨックー! 言葉には、気を付けろ!」

 目を吊り上げる鬼家令さんに背を向けて舌を出して居るヨックーさん。

 双色翼人、色は、色欲を意味していて、男と女の色欲を持つハーピーって意味だったりする。

 出生は、お祖母ちゃんの元の世界でのやらかしだったりする。

 面白い生物を作ろうって半ば無理やり異種族交配を結果に発生したユニーク個体だったらしい。

 強い性欲は、交配の為に行われた処置の影響だって以前に聞いた事がある。

「遅れました」

 ノブミさんがマッドックスさんを連れてやってきて、その後、どうみてもお父さんより若い顔立ちの戸籍名源九郎、お祖父ちゃんが食堂に入って来た。

「お義母さんは、今日も?」

 お父さんが確認するとお祖父ちゃんが苦笑しながら言ってくる。

「ああ、新作ゲームRTAの最中じゃな」

「おお流石は、不変不滅一週間ぶっつづけプレイでも問題なしか!」

 ノブコが変な感心の仕方をしてるが実際常人では、絶対に真似できない耐久プレイである。

 そんで亜神モドキのお祖母ちゃんがどうしてそんな事をしているかと言えば、永久決闘の制約で我儘を強制出来なくなったといっても仕事なんて出来る性格じゃないお祖母ちゃんが欲しい物を手に入れる為のお金稼ぎに選んだのが動画配信だ。

 お父さんも数値に数値に合った金額を出す事を了承したと当初、大魔法を動画にして大金持ちだと宣っていたお祖母ちゃんだったが常識では、在り得ない映像にCGや特殊撮影説が大半を占め、いまいち人気が出なかったのだが、気分晴らしと何気に最近(エルフ概念でここ百年)の一番の趣味コンピューターゲームをRTAでやった動画を配信したら大受けし、それからすっかり人外RTA走者としてそっち界隈では、検証につぐ検証をされても尚、チートもエミュも確認できずすっかりトップランカーの神様扱いに本人がいい気になってはまっているのであった。

「そういえば前から気になっていたのだが、お前達の不老不死とお義母さんの不変不滅って違うのか? どっちも死なないって事なのだろう?」

 そっちの知識が素人のお父さんの疑問にヨックーさんが答える。

「まあ、そこは、素人には、解り辛い点だね。簡単に言えばあたし達の不老不死は、死なないだけで消滅させられるけどアレは、何をやっても絶対に消滅しないんだよ」

 首を傾げるお父さんに対してあちきがフォローする。

「まず不老と不変だけど、あちきたちは、老化しないだけでお腹もすけば病気にもなる、生物として当然の反応なんだけど、お祖母ちゃんは、一切のバッドステータスが発生しない。まあ、お母さんを産めたんだからバットステータス以外は、有効なんだろうけどね。不死と不滅に関しては、あちき達は、肉体がいくら破壊されようが大本の魂があれば再生エネルギーがあれば復活出来る。逆を言えば魂が壊されたら復活出来ないの。それに対してお祖母ちゃんは、基本、何をされてもあっさり復活出来る。上位神様によって存在を完全に抹消されない限り現状を維持し続けられるって完全に反則、伊達に亜神モドキって言われていないよ」

 そんなデタラメなお祖母ちゃんだからこそ人工の神、虚神刀を使って無理くりバッドステータスを付与して勝負継続意志を削るしか方法がなかった。

「皆さん、朝ごはんが出来ましたよ」

 お母さんが次々とご飯を並べていく。

 最後に並べられたあちきの前には、とにかく大量の肉が加工肉が並べられていた。

 何で加工肉かって言えば料理する手間が少ないうえ、保存性が高いから。

 自分の太腿より太いハムを齧り始めるあちきを見てお父さんが言ってくる。

「我が娘ながら体積より多い食事を食べる姿は、エンタメとして面白いな」

「何でもエンタメ中心に考えないでよ。はっきり言って、昨日ヒドラに喰われて大量の再生エネルギーと質量の補完に必要なんだからしかたないの!」

 あちきは、そう返しながらも自分の腕よりながいフランスパンを飲むように消化していく。

「そうだゴー、今日も朝一で読みたい漫画があるからコンビニに寄ろう」

 体型並みに食べるノブコにOKサインを出しながらひたすら暴食の限りをつくす。



 金曜日 07:30

 通学路途中のコンビニ


「ギャハハ! 本当に漫画やってる! どう考えたってそんなダメージで立てる訳ないじゃん!」

 ノブコが漫画雑誌を読みながら馬鹿笑いをしてる。

 あちきは、コンビニのホットフードメドレーを口の中に消していきながら尋ねる。

「確かさ、ノブコって電子書籍を脳内購入可能じゃなかったっけ?」

 限りなく人間に近い風に見えるノブコだけど、マッドックスさんの変な拘りで現代ネットに完全対応している。

 電子書籍どころかパソコンや携帯で行うネット関係の事なら脳内で全部出来る筈。

「解ってないな、漫画って言うのは、手で捲り、目で視るから良いんじゃないか」

 ノブコがそういった後、読み終わった漫画雑誌をゴミ箱に捨てた。

「読み返さないの?」

 あちきの確認にノブコが即答する。

「データーベースに落としてあるから何時でも再生可能だよ」

「さっきのセリフは?」

 あちきの突っ込みにノブコがあさって方向を眺め呟く。

「世の中、理屈で割り切れる事だけじゃないんだよ」

「……無駄遣いして、お小遣いが足らなくなっても貸さないからね」

 あちきの忠告にノブコが暫く考えてから言ってくる。

「読み終わった奴をクラスメイトの男子に半額で売ったら駄目かな?」

「一応法律違反だし、そういう処から本の発行部数減少に繋がるからおすすめしないね」

 あちきは、そうきって捨てて、通学に使ってるバイクに向かう。

 するとあちき達のバイクの周りに男子が集まっている。

 あちき達が使ってるのは、マッドックスさん制作、鬼家令さん検査、ヨックーさん調整のサイドカー付のごつい奴だから当然かもしれない。

「買い出しに使うハイパワーの奴だから気になるんだろう」

 ノブコが自分の妹分に自慢気だ。

 あちきは、最後の特大肉まんを口に挟みながらバイクに跨った。

「えーーー、そっち!」

 一人がそう叫ぶと同じ気持ちみたいな男子の集団が居た。

 バイクの方に向かっていたあちき達を見て、持ち主っていうのは、薄々気付いて居たんだろうけど、運転するのは、ノブコの方だと思って居たんだろうな。

 そのノブコは、サイドカーに乗る。

 基本、ノブコは、マッドックスさん謹製の妹分達を運転するって事は、しない。

 前に理由を聞いた事がある。

 『妹分に跨って、好き勝手に走り回らせるのは、なんか違わない』って感じの解る様な解らない様な答えが返って来た事がある。

 因みにあちきは、十六歳になった直後に免許を取ってる。

 なんせ永久決闘を小五でした影響から外見上の成長は、完全に止まってる。

 年齢を証明できないと色々困るから、写真付きの身分証明書は、必須なのだ。

 免許の前までは、パスポートを持ち歩いていたけど、あれって意外と金がかかるし、常に持ってるのも不自然。

 茫然とする男子たちの中あちきは、疾走する。



 金曜日 08:30

 市立陣外高等学校


「到着!」

 あちきは、駐輪場にバイクを止めて降りて、玄関に向かう。

 その途中、一年生の視線が突き刺さってくる。

「まだ、四月だもんな、小学生、それも明らかに日本人離れしたゴーは、目立つよな」

 ノブコがシミジミとした言葉にあちきは、主張する。

「戸籍上は、立派な日本人! ついでに言えばお父さんもお母さん側のお祖父ちゃんも純粋な日本人だよ!」

「残りの一人の血が母親以上に出てるんだからしかたないと思うけどな」

 ノブコのいう通り、お母さん、実は、肌の色や髪の色等々、外見上は、かなりお祖父ちゃんの血が出てる。

 それに引き換えあちきは、5Sにもそっくりだと言われる程にお祖母ちゃんの血が出て、銀髪に空の様な蒼い目だからな。

 コンプレックスじゃないと言えば嘘になるけど、人間十六年も生きていれば慣れる。

 靴箱で上履きに履き替えて教室に向かう。

 椅子に座って授業の準備をしていると廊下や教室の反対側からの視線があった。

「相変わらず、人気爆発だね」

 そう声を掛けてきたセミロングの女子生徒、高校からの友人、土屋(ツチヤ)炎華(エンカ)、ホノちゃんだった。

「色物好きなだけでしょ。もしくは、ロリコン」

 あちきの返しにホノちゃんは、苦笑する。

「自覚は、あるんだ」

「嫌って程にね」

 呆れ気味にあちきが答えるとホノちゃんは、ニヤリって顔をする。

「昨日の視たぞ」

 大きなため息を吐くあちき。

「だったらその話題は、止めて。ヒドラに食べられた話なんてしたくないの」

「でもゲームの話でしょ。かなりバズってたじゃん」

 事情を知らないホノちゃんは、気楽に言ってくる。

「因みに、ゴーを回収したのは、あたいだ」

 自慢気なノブコを無視してあちきが言う。

「当人にとっては、話題にしたくないネタなの。それより良いの?」

「何が?」

 不思議そうな顔をするホノちゃんに言ってあげる。

「一時間目小テストだよ」

「嘘! 聞いてないよ!」

 どっかのお笑い芸人みたいな事をいうホノちゃんを通過させながらノブコに視線を向ける。

「前回の授業の最後に次回小テストで、赤点だと宿題の追加って予告されてた」

「嘘! 何で早く言ってくれないの!」

 本気で驚くホノちゃんにあちきが笑顔で言ってやる。

「寝て無いふりが上手だからって一時間目から寝てたら駄目って事だよ」

「……範囲を教えて」

 ホノちゃんのリクエストにあちきが苦笑しながら答える。

「お馬鹿さんには、辛いね」

 余裕たっぷりなノブコを見て、携帯であるシステムの起動する。

 一気に顔を顰めるノブコから体内通信機からメッセージが入る。

【『試験モード』は、止めて!】

 あちきは、ホノちゃんに試験範囲の教えながら返信してやる。

【駄目。小テストだってずるする為に無制限ネット契約してるんじゃないんだからね】

 少し睨んでくるノブコを無視して、自分の勉強を再開する。

 さっきのやりとりは、何かというと、ノブコは、脳内でネット参照出来る。

 詰り、カンニングのし放題なのだ。

 それを指摘してやるとノブミさんからマッドックスさんに伝わり、試験の時に外部への閲覧が出来ない『試験モード』が実装された。

 ノブコも頭をガシガシしながら復習を始めるのであった。



 金曜日 16:30

 5S宮


「ヴォルカノグレートエルフ様、予告なしにヒドラは、酷いです」

 あちきのクレームに対して卑弥呼の衣装をまとったヴォルカノ(火山)グレートエルフ様が視線を逸らす。

「いや、この頃、K-キル/殺戮の一発攻略が続いておったからな。少し緊張感を出すのも良いかもとおもってな」

「喰われて程の緊張感は、要りません!」

 あちきが強く主張すると奥に座っていたクレオパトラの恰好をしたデザート(砂漠)グレートエルフ様が小さく頷かれた。

「そうだな。今回ばかりは、少しだけやり過ぎたかもしれないな」

「少しですか?」

 半眼で遺憾の意を示すあちきに対して小野小町の恰好をしたレイク(湖)グレートエルフ様が言う。

「少しですね。ヒドラは、確かに強く面倒ですが、都土路姫が本気でやれば瞬殺出来るでしょ?」

「そりゃ、四字熟語制限無しにやれば楽に倒せますけど、それだと異業が貯まって本末転倒です」

 あちきがそう反論するがモンローの恰好をしたケイブ(洞窟)グレートエルフ様が断言する。

「私達は、異業の解消が多少遅れるなど、大して気にしてません。都土路姫もどうしても嫌だったら縛りを無くしてやればいいのよ」

 そうだった、この人達は、ある意味完全に他人事なんだ。

 元からこの世界の住人じゃない上、正式には、お祖母ちゃん、エターナルエルフの眷属。

 だから主の尻拭いは、するけど、それで必要以上に不快な思いをするつもりは、ない。

 この人達の感性で言えば、こんなクレームをいうくらいなら本気出せば良いだけの話なので、少しなんだろうな。

「それで今夜の路姫奮闘だけど、昨日のリベンジって事で良いの?」

 ヨックーさんが当然の様に言ってくるけどあちきは、速攻で断る。

「D-デストロイ/殲滅、F-5-BからAに向かうトライをやるよ」

「えー! サイトの掲示板じゃ、どう足がくんだろうと盛り上がってるのに!」

 ヨックーさんの不満そうな声に対してあちきは、告げる。

「あのさ、胴体が噛み砕かれたんだよ。暫くヒドラには、近づきたくないの。即死系か遠距離系の四字熟語が貯まるまで後回しにするよ」

「まあ、都土路姫がそういうなら」

 口では、そういっていてもヴォルカノグレートエルフ様は、不満たっぷりな顔をしてるが気付かないふりをして、お父さんの方を向く。

「まあ、挑戦するのは、ゴーだからな。ゴーの判断で良いよ。ただし、エンタメであることは、忘れないで欲しい」

 お父さんがパパPモードに入った。

「D-デストロイ/殲滅は、特殊フィールドに発生した魔物を討伐する。基本縦横9×9のエリアがあり、中央の5-Eから始まり、各エリアの行き来する為のサークルゲートに到達した人間とその仲間だけが次からそのサークルゲートを使える様になっている。魔物を倒すだけって単純な事もあり、ゴー以外も多く参加しているが、森林/フォレストは、その視界の悪さからエリアの解放が遅く、未だに端のエリアまで到達されていない。まっすぐAに向かってるゴーの5-Bが最前線だ。ドラマを頼んだぞ」

「ドラマって無理は、しないよ」

 あちきがそう予防線を張る。

「最悪は、脱出オーブがあるからエスケープは、出来るけどな」

 マッドックスさん製造って事もあり、自分が倒しても異業解消にならない回収班のノブコが言う。

「普通なら二千万円する脱出オーブありきで出来る分、あちきは、楽だけどね」

 あちきは、非常用に持ってる脱出オーブを弄ぶ。

 あちき以外の人もゲームをしているが、死ぬ人もいる。

 まあ、ゲーム空間内なら5Sかお母さんが蘇生して、所属組織から無条件で一千万円徴収する事になってる。

 蘇生は、異業増加に繋がるのでそのゲーム中に溜めていたノンプライスアイテムとの引き換えポイントが没収される事になってるし、その時につけている貸出アイテムも喪失扱いになる。

 それを防ぐ為の脱出オーブだけど、二千万円ってやっぱり高いので使うのを躊躇する人が多数。

 なんせ一回のポイントとレンタル装備を失うが蘇生費用と足しても死んだ方がお得なんだ。

 勿論、大金の損失より蘇生前提の死亡がましって思ってる人は、極々わずかだけど、やっぱり躊躇する金額なのだ。

 中には、最初から買えない人もいるしな。

「まあ、そんな予算的な都合もあって、安全圏で魔物を倒すのが主流だ。だからこそ、新規エリア解放は、ドラマになるぞ」

 パパPが何が言いたいかが解った。

「多少無理してでも5-Aのサークルゲートまで行けって事?」

 あちきがジト目で確認するとパパPは、視線を逸らす。

「決めるのは、あくまでゴーだよ」

 言外にしろって言ってるじゃん。

「まあ、あちきだって早く異業を完全に解消させたいしね。出来るだけ頑張るよ」

「そんじゃ、そういう方向で予告っておくから」

 ヨックーさんが公式ページの予告って言うか煽りページを更新する。

【ファンの非情さに泣いた路姫。その悲しみを拭う為に新たな挑戦に向かう。前人未到のF-3-Aエリア解放。路姫の挑戦は、成功するのか?】

「頭の一文、必要?」

 あちきが突っ込むとノブコが掲示板を見せてくる。

【路姫、逃げた!】

【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】

【四字熟語乞食上等ってサブタイ通り、乞食ってくるかな?】

【俺、リクエストボイス答えてくれるなら書いても良いな】

【それだったら俺は、水着で攻略してくれるんだったら】

【『おっき過ぎて入らない』って言ってくれるなら何回でも出せる】

 あちきは、頭を押える。

「最後の、何が出せるっていうんだよ」

「そんなの決まってるじゃん。ザー……」

 ヨックーさんが何か言おうとしていたが、あちきは、無視してお母さんの所に向かう。

 理由は、こうやってる内にもパパPからDママにコスのリクエストが送られている。

 ほっておいてヤバいコスが作られたら拙いから、牽制するためだ。

「さてさて私の可愛い子達の活躍が楽しみだわ」

 森林エリアを作った楊貴妃の恰好をしたフォレスト(森)グレートエルフの言葉に悪寒が走るのであった。


 金曜日 18:50

 実況ブース


「森で戦闘するのに、ノースリーブは、無いと思わない?」

 あちきは、森って事で童話に出てくる妖精が来てる様なヒラヒラが付いた露出度が高いコスに不満をあげる。

「元のへそ出しも良かったんだけどなー」

 ヨックーさんの煩悩を無視してあちきは、確認する。

「それじゃあ、今回は、D-デストロイ/殲滅、森林のFー5-Bから入ってAを目指すって事で」

 因みに数値が縦軸、アルファベットが横軸だ。

「楽勝モードで進まないでね」

 ヨックーさんからのリクエストにあちきがため息を吐く。

「楽勝モードになる訳ないじゃん。一つのエリアに複数の魔物がいるのが普通なのにあそこは、一種の魔物しか出てこない。異常地帯なんだから」

「面倒過ぎて、こっちへの進出は、殆ど諦められているからね」

 ノブコが呑気に言ってくる。

「そう面倒。だけど、対処さえ間違えなければ進めるよ」

 あちきは、そう覚悟を決める中、配信開始時間が来る。

「はーい。今日も始まりました『路姫奮戦ー四字熟語乞食上等-』。実況の美女、双色翼人、ヨックーでーす」

 ハイテーションのヨックーさんに合わせるのは、毎度大変だけど、これもエンタメ。

 あちきが笑顔で挨拶する。

「今日も視てくださってありがとうございます。都土路姫(トドロキ)です。今夜もよろしくお願いします」

【こんばんわ!】

【乙】

【今日も腋が見える衣装だ! サイコー!】

【ああ、路姫は、僕だけの妖精だよ!】

【黙れ! 路姫は、皆の妖精だ!】

 例の如くの変なメッセージが流れるのを無視してあちきが言う。

「今夜は、予告した通り、F-5-Bから入ってAに向かっていきます」

【ヒドラは、どうしたの?】

【逃げたんでしょ?】

【見事な食べられっぷりでしたからね】

 煽ってきやがるが鋼の意志で無視して続ける。

「新規エリア、F-5-Aの解放を狙うので皆さん応援してください!」

 あちきの言葉に温かいメッセージが流れる中、一言追加しておく。

「ついでにヒドラを倒すのに便利な即死系の四字熟語を書いていってくれるとあちきは、凄く嬉しいです」

【安定の四字熟語乞食だ!】

【これを聞きに来た!】

【だが断る! 『疾風迅雷』】

 どうしてあちきのファンは、こういうのしかいないのかな。

 まあ、少しだけ『起承転結』って書いてくれる優しいファンもいるけど、一桁台じゃ、とてもじゃないけど使えない。

 そんな事を考えながらあちきは、サークルゲートに向かった。


 金曜日 19:05

 D-デストロイ/殲滅 F-5-B


 サークルゲートを通るとそこは、深い深い森の中。

「前に一度木の上まで行けば見渡せるかもって思ったけどループして駄目だったな」

 一時間以上木登りを続けた過去の思い出とそれに気付いた時のファン達の大草原を思い出しながらあちきは、ポニーテールにしている髪留めを外し、魔力を通す。

 銀髪が魔力に反応して場を構成していく。

 合掌してあちきは、祈祷する。

「かしこみかしこみ」

 神社の巫女の祈祷のお約束。

「虚ろな神たる刀、牛若丸」

 人工でも神である虚神刀『牛若丸』に崇拝の念を籠めて続ける。

「都に張り巡らされし土の路を司る姫、都土路姫の名の元に言霊を奉る給ふ」

 戸籍上の轟は、世間的な名前で、こっちがあちきの真名。

 本来なら動画で晒すなんてもっての他なんだけど、あちきの真名は、牛若丸に捧げてあるので、他者が干渉できない。

 髪留め、鳴らないと思われているあちきの真名を一文字ずつ刻んだマッドックスさん謹製の魔鈴、まずは、『都』を鳴らす。

「疾」

 次に『土』の鈴を鳴らす。

「風」

 その次は、『路』を鳴らす。

「迅」

 最後に『姫』を。

「雷」

 これが奉るのが四字熟語の理由。

 捧げた真名と四字熟語を置き換え、牛若丸が姿を変え、その権能を発動させる。

 牛若丸、実は、それは、常にあちきの傍に存在している。

 普段は、『荒唐無稽』の四字熟語の姿なき姿、無形になって漂っているだけ。

 それが新たに捧げた四字熟語によって姿を変えるだけ。

 あちきの手に握られるやや長めの刀。

 身体能力をあげ、刀身に雷撃を纏わせる。

「後で変える可能性が高いのどうして補助のガン積みしたの?」

 ノブコの疑問にあちきが頷く。

「変えるつもりがないから。ここの魔物は、覚えているよね?」

「ああ、サイズが様々だが猛毒をもった蜘蛛、『ポイズンスパイダー』だよな」

 異業の解消が出来ないから戦いこそしないけどノブコは、常にあちきと一緒にゲームに参加している。

 あちきが知ってることは、たいていノブコも知ってる。

「多脚の特性と糸を使った不規則且つ高速の攻撃だけでも厄介なのに、小さい奴は、数も多い。何より厄介のなのは……」

 あちきは、牛若丸を振るった。

 空中に雷撃で焼き切られた蜘蛛の糸が視聴者にも見えただろう。

「エリア中に張り巡らされたこの蜘蛛の糸。相手にとって有利でこっちには、ただただ邪魔でしかないこれがあるからこそこのエリアの攻略が諦められてた。あちきも面倒だと後回しにしてたしね」

「その面倒な事を何で今回やるの?」

 ノブコが当然の質問をしてきたのであちきがサークルゲートの方を向く。

「サークルゲートが活性化と共に散布されるマッドックスさん謹製の撮影集音ナノマシーン、『ナノドローン』でゲーム参加者の行動をサイト閲覧者に送られる。詰り、あちき達の戦いは、常に見られ続けている」

 本気でやばいのは、パパP論理での検閲で削除されてるけど。

「見所を作らないとエンタメにならないでしょ」

 あちきのその答えにノブコが腹を抱えて笑う。

「やっぱゴーは、パパPの娘だよな」

「何を当然の事を言ってるんだか」

 あちきは、呆れながらも道を塞ぐ蜘蛛の糸を雷の火力で排除する。

 それだけの火力を得る為に補助をガン積みした。

 蜘蛛の糸への干渉は、当然の様にポイズンスパイダーに伝わる。

 戦闘的な気配が全方向から迫ってくる。

「駆けるよ!」

 気配が多い方向にあちきが駆け出す。

 大きなポイズンスパイダーが道を塞いでくるがあちきは、更なる加速と共に放った上段斬りで速度も落とさず通過する。

 すると足や腕に小さなポイズンスパイダーが群がってくる。

「想定内!」

 あちきは、雷撃を纏ったままの牛若丸を自分の腕に当てる。

 強力な電撃があちきの体中を走った。

 自分でやったので覚悟が出来てたあちきと何も知らずに体にへばりついていたポイズンスパイダーでは、ダメージが違う。

 体についてきたポイズンスパイダーは、全て感電死して落ちていく。

「随分と過激な方法とったな」

 ノブコが意外そうな顔をするのであちきは、足を止めず答える。

「そうでもない、このエリアで一番厄介なのは、大型の攻撃よりも無数の小型の奴の張り付きからの毒注入、防御したり、逆にくっつかれなくすることは、可能だけどひたすら面倒。だから見た目こそ恥ずかしいコスでも全身に付与される防御結界が有効な内に取りつかせて雷撃でふるい落とす方が効率的だよ」

 こうしている間にも新たな小型ポイズンスパイダー達が群がってきてる。

 防御結界が持たなくなる少し前に雷撃を自ら喰らうを続ける。

 因みにノブコの方は、ここに来るって解った時点でノブミさんが使用している対虫用人工皮膚を張って来たので平気らしい。

 そういう対応力は、流石マッドックスさんが誇るNOBUシリーズだよね。



 そんなこんなで速度を落とさず進んでいたあちきの前に特大のサイズのポイズンスパイダーが現れた。

「エリアボスって感じだね」

 あちきのぼやきにノブコが頷く。

「きっと、えげつない技もってるよ」

 今まで戦って来たエリアボス達を思い出し、ため息を吐きながらもあちきが気合を籠める。

「エリアボスが出て来たって事は、もうこのエリアも終盤、もう直ぐ次のエリアのサークルゲートがある」

 正にゲーム的展開。

 どんなにリアルに作った所で、5SがパパP監修で作ったゲーム世界、そんなお約束がまかり通る。

 ここに来て今まで何もしなかったノブコが両手を広げる。

 指先に穴が空くと同時に弾丸が放たれ雑魚を潰していく。

「ボスとのタイマンに横やりは、エンタメじゃないでしょ」

 ノブコの言う通りだね。

 あちきは、躊躇せずにボスポイズンスパイダーに斬りかかる。

 次の瞬間、何かが攻撃があちきをかすめた。

 半ば反射的に体を倒してなかったら死んでたかもしれない。

 直ぐに次弾が来るが足を止めたあちきは、それを牛若丸で斬った。

 雷撃で焼かれてその姿を現すのは、当然と言えば当然、蜘蛛の糸。

 ただし、切った蜘蛛の糸が反動で当たった木があっさり切り倒されていた事から通常の粘着して足止めするタイプじゃない。

 獲物きり殺して捕食する為の物だ。

「周囲に展開された無数の見えない刃ってか。燃やせれば楽なんだろうけどな」

 森って環境を無視して業火で燃やせれば普通に勝てる気がするが、そういうのは、パパPNGになる。

 そんな事を考えている間にも蜘蛛の糸が次々と襲ってくる。

 あちきは、少し距離をとって目を凝らす。

 細く透明だといってもまるで見えないって事じゃない。

 僅かだけど見える。

「それでもこれって人一人通り抜ける隙間ないね」

 あちきのぼやきをノブコが茶化す。

「人一人が駄目でもゴーだったら大丈夫なんじゃない?」

 その言葉にあちきは、ある作戦を思いつく。

「その手で行きますか」

 あちきは、一度更に距離をとると『疾風迅雷』の加速能力を最大まであげて飛び込む。

 四方八方から鋭い刃の様な蜘蛛の糸が襲ってくる。

 あちきは、その糸を足場に更に加速する。

 当然、進行方向にも糸があるが、あちきの小さな体、それも飛び込む姿勢ならば牛若丸の刀身でカバーしきれる。

 驚愕の表情を浮かべるボスポイズンスパイダー。

 だが、あちきの脳裏に浮かぶのは、狡知な笑みを浮かべるエルフの顔。

「『荒唐無稽』」

 牛若丸の形態を無形に戻し、両手をクロスしてコスの防御力頼りに刃の蜘蛛の糸に突っ込み体を止めた。

そしてあちきが飛び込むはずの場所では、蜘蛛の顔が割れて出た尖った前足が通り過ぎていた。

「異業から作られた人に害する為なら自ら傷つく事すら厭わない魔物が恐怖させたのが間違いだよ」

 いくら別れていたといっても自分と同じヒドラが死ぬのも構わず首にかみつくヒドラがいい例だ。

 奴等は、他者への悪意しかない。

 例えそれが自分の身を亡ぼす事になったとしても。

 魔鈴を掴み鳴らす。

「『一刀両断』」

 大刀に変化した牛若丸が渾身の不意打ちをスカッたボスポイズンスパイダーを両断するのであった。



 金曜日 20:55

 実況ブース


 時間を見ると九時直前、基本報酬を貰っていなく、ゲームで遊んでるって体でやってるけど九時過ぎるとコンプラ的に厳しいので今回は、セーフって事だろう。

 まだ無理やりのストップで刃の蜘蛛の糸でストップさせて、咄嗟の事で半ば反射で一刀両断まで繋げたけど、あの直後ズタボロの腕は、モザイクが入るレベルだったらしい。

 もう回復してるけどまだ痛い気がする。

「見事エリアボス倒してのF-5-A到達おめでとうございます」

 実況のヨックーさんがインタビューしてくる。

「ありがとうございます。全部応援してくれる皆様のおかげです」

 お約束のセリフを笑顔で言っておく。

【いつも思うが路姫のこの棒読みのセリフは、煽りにしか思えないぞ】

【そういうな、路姫も必死で演技してるつもりなんだからさ】

【そうそう、いくら顔で使える四字熟語をもっと書き込めば楽できたんだぞと主張しててもそれに気付かないふりをするのがファンって奴さ】

 そこは、気付かないふりじゃなくって気付いて書き込んでよ。

「ところで書き込みでもありますが、最後の攻防、少し不自然な所がありましたね?」

 ヨックーさんがコメントにあった質問をしてくる。

【そうだ! あれって事前に隠し手の情報得てたんじゃないのか?】

 まあ、そう思われても仕方ないけど違う。

「蜘蛛の糸を使った加速は、牛若丸伝説にある弁慶相手にその身軽さを発揮させた技の応用です。因みに九郎さんだったら、平然と全部の蜘蛛の糸の刃の中を飛び回れます」

 あちきは、解説役のお祖父ちゃんに話をふる。

「よく誤解されがちだが、物を切ると言うのは、刀身が当たったからなる事じゃないのじゃ。刀身が当たりそれに抵抗する物体があるから切れる。故にその刀身の力に抗わなければ切れぬ」

 口で言うのは、簡単だけど、実際やるとなると大事。

 言うなれば刀を振るわれても切れないまま飛び散る葉っぱになれって事。

 あちきだって元から加速してる状態だったから糸の動きを加速に変える事で斬れるのを防いだけど、お祖父ちゃんがやる様な刀身の上に乘ったり、そこから飛び上がるなんてどう考えても人間の体重を考えたら在り得ないことは、出来ない。

「そこは、まあ変態的技能って事で、それよりもその後、顔面が割れて出て来た隠し手ですよ」

 ヨックーさんが失礼な表現をしてるがそこには、触れないであちきは、答える。

「表情です。魔物を構成してる異業の原因ってエターナルエルフですからね。永久決闘で何度も戦ったあちきには、あのボスポイズンスパイダーの驚愕の表情がこちらを嵌めようとしてる表情に見えたんです」

 永久決闘の際、勝敗が五分になった頃には、よくあんな姑息極まる手で負けたものだ。

 倫理観に絶望的欠如があるお祖母ちゃんは、それこそああやって効いてるふりしながらこっちを陥れる鬼畜な罠を仕掛けてきた物だ。

「なるほどな。確かにマイハニーは、時々あんな顔をしていたな」

 お祖父ちゃんも見たことあるんか。

 お祖父ちゃん相手にやられたんじゃないと断言できる程の馬鹿ップルだけどさ。

「旦那さんからもそこまで言われる問題の人ってどうなんですかね?」

 ヨックーさんが茶化し半分で言ってるけど、『自分勝手な天災』の異名は、伊達じゃないからな。

 本日のアタックは、無事終わったので四字熟語表を確認しようとした時、気になるコメントが目に入る。

【可愛い臍ペロペロ】

「……可愛い臍?」

 あちきは、少し考えてから嫌な予感を覚えて配信映像を視た。

「負け犬シャツでもいいから隠すの頂戴!」

 あちきは、体まで通ったダメージを受けた事からお約束ってばかりに露出が増えてギリギリっていうかあちき的にアウトな状況である事に気付いた。

「気付いて居ませんでしたか? てっきり視聴者サービスだとばかり……」

 知ってて言ってるヨックーさんを睨みながらあちきは、カメラから逃げるのであった。

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