虚神に奉る四字熟語ーリアルゲームアタック動画少女ー
鈴神楽
0001=『一刀両断』出来ないファン心理_岡辺八平Kライブ視聴
「
木曜日 19:15
外陣市の住宅街の一般家庭の一室
」
「少し遅れたぜ!」
俺は、慌てて自分の部屋に駆け込み、パソコンを起動、3710010アンテナを付けて、ブックマークから日々の愉しみ、『路姫奮戦ー四字熟語乞食上等ー』のライブを視る。
「やべ、やっぱり開始前のインタビューは、終わってる。えーと今日やるのは……」
肉の大盛りだからとお代わりした事を悔やみながら携帯で公式情報を確認する。
「そっか、今日は、新規のKの日だったか、ライブで開始前インタビュー見たかったぜ」
ライブ終了後の再視聴の予約をしながら、画面を見る。
そこには、銀髪に透けるような肌、空の様な綺麗な青い瞳の小学生高学年くらいの少女、このライブの主役、路姫の愛称で呼ばれる、都に張り巡らされてし土の路を司る姫『都土路姫(トドロキ)』ちゃんが大刀を構えて立っている。
「今日のコスも可愛いな」
路姫は、毎回新しいコスでゲームする。
路姫がやってるゲームは、3710010が独占する特殊なVRゲームで実物じゃないとしても毎回変えられるのには、理由がある。
今見ている動画を配信している『サイト3710010』は、路姫の父親、パパPが運営していて、Dママがデザインしてるからだ。
なんでもパパPは、元は、全国ネットの富士山テレビの名物P、『牛P』だったが、昔ながらの過激な演出で来たクレームに切れて退社、現在のネット状況を利用して自由な番組、動画を作っているらしい。
そんな運営の紐付きだからこそ毎回、新しいコスが用意出来るんだろう。
「まあ、俺らファンとしては、嬉しいがな」
既に、俺も参加しているアングラファンサイトでは、色々な角度の路姫新コス画像が張られまくっている。
【相変わらずのミニ、サイコー】
【今回のノースリーブは、脇が見えて良いな】
【汚らわしい、路姫様をお前等の下品な目で見るな!】
【なんだって!】
毎度おなじみに喧嘩が始まってるが、それも直ぐに終わる。
なんせ、今は、肝心の路姫のライブの最中なのだから。
「あれって確か、『一刀両断』だったよな?」
うろ覚えな記憶を確認する為にファンサイトの分析班のログを見る。
【今日は、卑弥呼の新規K、未知のドラゴンだから初手牽制の意味を含めて確実に大ダメージを与える零壱零壱『一刀両断』を補助マシマシで準備していた】
【レアな、髪展開、鈴鳴らし、フル詠唱に満足】
「嘘だろ! そんな激レアのライブ、見逃したのかよ!」
俺は、激しく後悔する。
路姫の武器、虚神刀『牛若丸』は、設定上、約千の形状と能力がある。
発動させるだけなら四字熟語を空中に描くだけでも大丈夫みたいだ。
ただ、その能力を十分に発動させるには、下準備が必要って事になってるらしい。
しかし、戦闘中に呑気に長い詠唱が出来る訳がなく、今回みたいな補助マシマシを行うのは、本気で激レアだ。
それだけに悔しさがこみ上げてくる。
そして、問題の敵が現れて、路姫が叫んだ。
『何でよりにもよってヒドラなの!』
【路姫、やっちまったなWW】
【再生特化のヒドラ相手に物理特化の『一刀両断』じゃ相性最悪じゃん!】
早速、流れるコメントに俺もなんだかなっておもっていると動画の実況者役、髪が虹色した翼あるキャラ、双色翼人、ツインデザイアハーピー、愛称ヨックーが絶叫する。
『これは、いきなりピーンチ! 解説の九郎さん、挽回は、出来るでしょうか?』
それを聞いて、男女共に人気が二十代後半のキャラを使っている路姫の祖父、九郎さんが解説を始める。
『まあ、拙者のマイハニーとの永久決闘の際には、使役されたキングヒドラも倒しているから、倒すこと自体は、不可能じゃないのだろうが、やはり問題は、縛りじゃな』
『そうですね、あの時の様に無制限に『牛若丸』が使えないとないとすると使用する四字熟語にも制限が多いですからね』
ヨックーがそこで一度咳をして、俺達ファンにとっては、同じみな四字熟語リストを表示させながら説明してくる。
『元々、このゲーム、CDRGは、路姫が諸悪の根源、『自分勝手な天災』を永久決闘で破って大人しくさせた事が要因で始まったって設定ですからね』
【設定ってWW】
【ヨックーのこのメタ発言嫌いじゃない】
コメントにある様に俺も嫌いじゃない。
『これって異世界で亜神ともされてたのに好き勝手やりまくって追放された挙句、こっちでも好き勝手して、異世界絡みの業を積み立て、この世界の悪影響を出してるのを解消するのが目的って設定で、縛り無しに『牛若丸』を使えって余計な異世界絡みの業、異業を増やせない。その為、視聴者の皆様が溜めてくれた四字熟語の言霊を使って使用しているんですよね』
【またメタってるWW】
【この説明要る?】
【ご新規さん対応でしょ?】
【意外とヨックーってマメだしね】
そんなコメントが流れる中、九郎さんがリストの一つ、0444、『起承転結』を指さす。
『キングヒドラを倒した時に使った『起承転結』、四撃必討が使えれば、確実なんじゃがな』
ヨックーが望みこむように見て言う。
『一応、一回分は、溜まってますけど使いますかね?』
【ヨックー、解っていってるでしょ?】
【顔が笑ってるじゃんWW】
【言ってやるなよ、これも実況役のお約束なんだからよ】
『まあ、使わないじゃろな。あれは、路姫にとっても切り札、失敗前提の初回アタックで使うのは、リスクが
高いわい』
九郎さんがそう解説する様に俺も使わないと思う。
だが、その理由は、違う。
【『起承転結』って初見の時は、インパクトあったけど、何回か使われて飽きられてるからな】
【そうそう、ただ四回斬るだけでどんなボスも倒しちゃうからファン受けも悪いしな】
そうなんだ、最初見た時は、すげえと思って俺も何度も3710010提供の四字熟語用、声でのマイク、キーボード入力、パッドでの書きに指の動きで空中に書くまである言霊チャージをけっこうやったが、何度もみて飽きてこの頃は、やった覚えがない。
前に数字が取れないとパパPから使用を控えろって言われてた路姫も愚痴ってたな。
そんなかなりピンチな状況な路姫のグヌヌ顔を鑑賞していると動きがあった。
ヒドラがその大きな頭で路姫を喰らいに行った。
【危ないWW】
【まあ、路姫だったら楽に避けるっしょ】
【それでも一応は、心配しろってWW】
コメントでも誰も心配してない様に、紙一重を見切って路姫は、飛び上がっていた。
そのまま、手に持った大刀を振り下ろした。
【すげえ! やっぱ『一刀両断』は、迫力あるな!】
【うんうん、見栄えがするよな】
【あのでかいヒドラが真っ二つだぜ!】
興奮したコメントにある様に、路姫の何倍もの大きさのヒドラがまさに真っ二つに切り裂かれていた。
そんな状態でも路姫は、油断してない。
『どっちから再生する?』
【俺は、右にこないだ手に入れた路姫のパンチラ画像】
【だったら俺は、左にファンリクエストに答えたお兄ちゃん起きてボイス】
そんな賭けをしながら注目される中、それが起こった。
『嘘でしょ?』
顔をおもいっきり引きつらせる路姫。
【WWWWWW分裂してやがる】
【賭け全員大負けじゃんWW】
コメントが大量に流れていく画面で二匹になったヒドラが動き始めて居た。
『これは、珍しい現象ですね?』
ヨックーが正に他人事の様に尋ねると九郎さんが苦笑する。
『本来なら核の大きい方が復活するのじゃろうが、路姫が見事に真っ二つにしたせいで、別れた核、それぞれが復活を始めたようじゃな』
【完全な自爆WW】
【技術が高過ぎて馬鹿見るって何度目だよWW】
コメントが盛り上がる。
実際、普通なら起こらない事が路姫の高過ぎる能力で発生して自爆した場面が何度もあったからな。
更なるピンチの中でも路姫は、諦めていない。
ヒドラから距離を取りながら懐から札を取り出すと指先を切って最後の一筆を書き加える。
『『疾風雷神』』
【札を使った起動ってレアじゃん!】
【ここまで急ぎの場面ってそうそうないし、前に作るのも面倒だって聞いてるしな】
コメントが喜ぶ中、路姫の持つ『牛若丸』の形態が変化する。
大刀からちょっと長めの刀に変化した『牛若丸』をもった路姫の動きが加速する。
【零零壱弐、『疾風迅雷』、本人のスピードアップと刀への雷撃属性付与】
【説明班のコメント感謝】
説明班のコメントとそれに感謝するコメントが流れる画面の中で高速で動く路姫。
【いま、一瞬パンチラしたぞ!】
【加速中の動きで即座にパンチラに気付くってWW】
【男の悲しい性ですなWW】
俺は、再視聴の際にここは、スローで視ようと心のメモ帳に書き込みながら視聴続ける。
二匹ヒドラを同時に相手にしない位置取りをしながら、雷撃付与された『牛若丸』で削る路姫。
『このまま削る作戦でしょうか?』
ヨックーが視聴者のコメントにもあった質問をすると九郎さんが首を横に振る。
『せんじゃろ。再生特化のヒドラにそんな事をしていたら朝になっちまう。こうして時間を稼いでいる間に使える四字熟語の中で有効打になる物を考える作戦じゃな』
【ヒドラに有効なのってなんだろうな?】
【やっぱ即死系じゃね?】
【それだけど、即死系って不人気で言霊溜まってないだろう】
そうなのだ、『牛若丸』の形態のいくつかは、決まれば即死的物もある。
だが、そういうのは、最初の一回こそ受ける物の、二回目から冷める所為か、言霊が全然貯まらないのだ。
「いっその事、『焼肉定食』なんかどう?」
俺があまり考えずそうコメントを書き込んでしまった。
【はぁー? お前、何そんなネタ四字熟語押すのか!】
【嫌だ嫌だ! ロマンが解らない奴は。どこの世界にドラゴンを焼肉定食にするファンタジーがあるっていうんだよ!】
【空気読めよな!】
一斉に反発された。
「まあ、確かにあれは、完全にネタ枠だけどさ……」
【焼肉定食って何ですか?】
新規さんの疑問に即座に説明班が動く。
【零玖弐玖『焼肉定食』、路姫がどこまで有効かで駄目元でやったら成立してしまった四字熟語。一説では、弱肉強食との類似から四字熟語と認識してる知能指数率い連中の思い込みの結果だろうと言われている。そんな冗談みたいな形態だが、意外に強力でD-デストロイ/殲滅の方で襲い掛かった猛牛集団の全て焼肉定食にしたという実績あり。Dの時には、洒落混じりに使ってと人気がある】
【どう考えても、この状況であのヒドラが焼肉定食化したら白けるだろうが!】
【そうそう】
次々と同意のコメントが流れる奥では、路姫が眉を顰めていた。
もしかしたら『焼肉定食』もありかと考えていたのかもしれない。
喧々囂々と俺達が五割本気、三割ロマン、一割心配、のこり一割おふざけって感じで検討している間も巨大なヒドラからの攻撃を紙一重で躱しながらもチマチマと攻撃していた路姫だったが、予想外に雷撃が効いたのか一匹のヒドラが大勢を崩した。
『チャンス!』
路姫は、体勢を崩したヒドラに足を踏み台にしてその長い首に飛び乗ると頭に向かって駆けていく。
『これは、大チャンス到来! このまま頭まで行ければ一体は、潰せるかもしれません!』
実況のヨックーが叫ぶが九郎さんは、淡々と告げる。
『まだまだ甘いのう』
その言葉の意味は、直ぐに解った。
もう一体のヒドラが昇られているヒドラの首ごと路姫を喰らったのだ。
『あちゃー……』
実況のヨックーも言葉を無くす中、画面がブラックアウトして実況ブースが映った。
『皆さんの応援も空しく、今回の挑戦は、失敗に終わりました』
ヨックーがそう宣言する中、お約束ともいえる『負け犬』と書かれたシャツだけの路姫が現れる。
『えーと不甲斐ない結果に申し訳ございませんでした』
完全に棒読みの後、路姫が半ば涙目で言ってくる。
『異業を解消する為に頑張ってるって設定なんだからガチでやらせて! あちきも『焼肉定食』なんて空気を読まないことは、言わない。『起承転結』ぐらい使わせて!』
路姫の主張に対する俺達の答えは、直ぐに解った。
【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】【『一刀両断』】【『疾風迅雷』】
『ヒドラの口の中は、物凄く気持ち悪かったんだぞ!』
悲痛な叫びをあげる路姫を九郎さんが担ぎ上げて消えていった後、ヨックーが締める。
『今回は、残念な結果ですけど、明日も実況があるので見に来てね』
【はーい!】
俺達が良い返事をして、ライブも終了を迎える。
「今回も面白かったな。早く、再視聴できるようにならないかな」
俺は、ライブの再視聴開始を待ちきれない状態になるのであった。
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