第4話:弟の気持ち
翔side
兄さんたちと別れて帰路を辿っているとき、正直僕は寂しさよりも、ほっとした気持ちが勝っていた。
あのまま話していると、あの人への不満が爆発しそうだったから。
「翔、努力している人はすごい人なんだよ。」
そう教えてくれたのは母さんだった。母さんは、兄さんの頑張りを評価して学年二位を取ってきたときとか、ケーキを買ってお祝いしてた時もあった。
その時でさえあの人は、兄さんのことをなんで二位なんだと攻め立てていた。
「俺ができないから悪いんだ。・・・もっと努力すれば、父さんの期待に応えられるはずなんだ・・・。」
兄さんはそう言って父さんの言葉を受け入れていたけど、僕は納得がいかなかった。僕は中学生になってから、兄さんの部屋の電気が僕が寝るときに消えているのを見たことがなかった。
そんな兄さんを尊敬していたし、そんな兄さんをけなすように攻め立てる、父さんをどうしても許すことができなかった。でも、兄さんが受け入れている以上僕が何かを言うことはできなかった。
でも、それを後悔する日が来るなんて思っていなかった。
「さっさと出ていけ。顔も見たくない。」
一番になれなかった。それだけの理由であの人は兄さんを家から追い出した。
僕にはさっぱりわからなかった。僕が人並みに努力して一番を取った時、兄さんは笑顔でほめてくれた。
「よく頑張ったな。」
って。自分は認めてもらえなかったのに。人のことを笑顔でほめられる。その優しさに救われたことは何度もあったっていうのに、僕は一度も兄さんをあの人から守れなかった。
「もう努力をするのは疲れたんだ。」
あの言葉を聞いた時、救えなかったことに僕は絶望した。いつかあの人もわかってくれる時がくる。なんて甘い考えだったのがいけなかった。いつかなんて来ないし、兄さんみたいな無理な努力をしていれば精神的にも限界が来てもおかしくはなかったのに。
きっと、僕はあの人を許せないだろう。僕の努力を認め、きちんと僕と向き合って褒めてくれた兄さんの努力を否定した男。そんな人を一体どうやって許すというのだろうか。
そんな思考を巡らせながら、僕は岐路を緩い足取りで歩くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます