第2話:幼馴染み

「ずいぶん遅かったじゃない。待ちくたびれたわよ?」

「それなら先に帰ってくれててもよかったんだよ?佐夜。」

 正門で不服そうに僕を待っていた茶色い髪のポニーテールの目印の女の子。秦野佐夜の言葉を軽くあしらい目の前を通りすぎる。佐夜とは幼馴染みではあるが、別に一緒に帰る約束をしていたわけではなく、たまに彼女が勝手に僕の事を待っていることがあるのだ。

「せっかく待っててあげた幼馴染みにその言葉はあんまりなんじゃないの?」

「一緒に帰りたいから事前に声をかけてさえくれたら呼び出されてた事くらいは伝えてたけどな?」

「でもあなた、一緒に帰ろうって教室まで誘いに行くといっつも断るじゃない。」

「そりゃ、幼馴染みとはいえカースト上位のおまえと、目立たないおれが一緒に帰るとなると角が立つんだから当たり前だろ?まさか男子からの羨望の眼差しを気づいていないとは言わせないぞ?」

 男勝りなわんぱくな性格であるところはあるが、気遣いもできるし容姿も良い佐夜は男子からの人気が異常なほど高い。そんなやつに教室まできて一緒に帰ろうなんて毎日言いにこられてみろ。教室で地味な立場を確保しているおれからしたら肩身が狭くてしかたがない。

「別に人気者になりたいと思ったわけでもないし、好きじゃないひとから告白されても困るだけだからやめてほしいんだけどね。毎日毎日、断ってるんだから諦めてほしいよ。もぅ。」

 膨れっ面をしながら隣にならび歩いてくる彼女。そんな無防備とも言える顔をホイホイと学校でやるからなおさら知らない男子から告白されるのだと気づかない限りは、その不満は解決しないだろうな。

「あの人たち相手にしてるなら、遥斗と話してる方がずっといいよ。」

「勘弁してくれ。俺は静かに生きたいんだ。」

「そう言いながらも、本気で突っぱねたりしない遥斗のこと、私は好きだから絶対に離れたりしないけどね。」

 にこやかに僕に宣言する彼女は、そう言えばと話題を変える。

「結局なんであんなに遅かったの?いつもは正門で待ってたら二分もしないうちに来るのに。」

「進路の話だってよ。成績が良いから学校側としては進学してほしいらしいぞ。」

「あー、、、、。」

 その話題だけで大体状況を察してくれたらしい佐夜は少しだけ口を閉ざした。

「私は大学行くの賛成だよ。私も一緒の大学行きたいと思ってるし。翔くんもきっとそう思ってくれてるよ。」

「そうかもな。でも、父さんはそうは思ってない。」

「・・・。私も説得するから行かない?」

「母さんと子育ての方針で揉めて、母さんが出ていった話を忘れたか?ひとの話なんて聞くひとじゃないよ。」

 二年前だったか、あまりに厳しい父にみかねた母と父が大喧嘩したことがありその後折り合いがつかず離婚。親権を父が取ってしまったため僕たちをおいて母は出ていってしまった。

 とはいっても、完全に縁が切れたわけではなく時たま会うこともある。

「あんたの人生なんだから、適度に肩の力を抜くことを覚えなさい。根に詰めても良いことなんてなにもないんだから。」

 今でも母はそう言って僕を心配そうな顔で見てくることがある。心配をかけないように、家を追い出されるまでは前日はクマとか出来ないようによく寝ていたつもりだったが、バレていたようだった。父はそんなこと気づいてはくれなかったが。

「・・・まぁ、まだ時間はあるしすぐに決めなければならないことじゃないもんね。」

 軽くため息をつきそういい、切り替えたようにニコッと笑みをうかべ、

「ねぇ、今日もそっちの家行って良い?ごはん食べて帰りたいんだけど。」

 っと。そう言った。


 

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