女の人のために、女の人のためだけに書く。

※2019年に書いたnoteをほぼそのまま転載しています。


こういう記事があった。


https://virtualgorillaplus.com/nobel/appeal-to-male-readers-discussion/


女性主人公を書くときに男性読者にどれだけ配慮するか?と聞かれた女性の作家についての記事だ。彼女がなんと答えたのかは記事を見てそれぞれ考えてみてほしい。


ところで似たようなことを、私も考えたことがある。女性として書くときに、どこまで男性読者に配慮するのか?


私はメアリ・ロビネット・コワルと違って全然社会に影響力はないが、小説を書いている。SFはほぼ書かない。恋愛小説が多い。それ以外のものも書く。読者の性別は限っていないが、女性が多い、と思う。小説の文体は作品によって多少変えるがおおむね柔らかく、いわゆる「女性的」な文章だと思う。影響を受けている作家も女性のほうが多い。江國香織とか、フランソワーズ・サガンとか。


「女性的」であることにそれほどコンプレックスを持っていたわけではない。でも若いころはなんとなく、「女性的」すぎるのはよくないように思っていた。女性に都合がよすぎるものを書くのは、恥ずかしいような気がした。もっと普遍的な事実を書くべきだと思っていた。個人的なことを書くにしても、作品をコントロールする感覚を個人によりすぎるのはよくない、と、思っていたのだった。


個人的ではない、普遍的な事実。


しかし、それってなんだろう。明確な答えまでは出なかったし、今も出ない。でも、普遍的である、普通である、ということは、この社会ではおおむね「男性的」なのだった。


「普通」に書いてみる。そうすると仕事で上の役職についているのは男性だし、結婚しても姓を変えずにいられるのも男性だ。料理を作るのは女性だし、育児の主体も女性。デートのときに化粧をして痛い靴を履くのも女性だ。この世界はそもそも男性に都合がいい。そういうふうに出来ているのだ。


男性に都合のいい世の中で、女性としてものを書く。どう書いたらいいのか迷うとき、この展開、この描写、このキャラクター、これは女性に都合がよすぎないのか、そう迷うとき、「普遍的」な判断をしてしまったら。これは女性に都合がよすぎるから、やめよう。そう判断してしまったら。


それは、「普通」に、男性に都合がいいんじゃないのか。


それに気づいてから、私は書くときに「女性に都合がよすぎるかもしれない」と思うのはやめた。実際私もこの社会に生きているので、そうそう女性だけに都合のいい発想など思いつかない。そこまで都合よくは、なかなかならない。女性向きにするぐらいでちょうどいい、か、まだ足りないぐらいだ。


それにもし本当に女性に都合がよすぎたところで、別にそれでいいじゃないか、と思うのだった。それってすごくいいことじゃないか、と。


「女性」としての私が他の人の作った物語を楽しむとき、いろんなものに目をつむることが多い。男性が書いていて、女性がものすごく都合よく扱われていても「こんなものか」と気にしないようにしてしまうし、女性が女性向けに書いているものでもちょっとしたところで「やっぱりそうか」となってしまう。世の中が男性向けなのだ。男性の都合のよさは「普通」なので、そういう物語ばかりになる。


本当に女性に都合のいい物語、ないわけではないのだろう。けれど、とても少ない。だったら私がそちらの方に行くのだって、いいことではないか。


女の人がただただ楽しめる物語は、少ない。まだ全然足りていないと思う。だったら私がそれを書きたい。読者として読んで「まあ…仕方ないか」と思うような物語にはしたくない。


なので私の小説は女性向けだ。どんなジャンルだったとしても。女性に喜んでもらえたらいいなと思っている。


※こういうことを2019年に書いていたら、2022年の新潮社の「女による女のためのR-18文学賞」で友近賞をいただきました。今も女の人のために書きたいなと思います。私の決意が変わらないというよりも、社会の中のどこに自分を置くか、という話で、社会のバランスがあまり変わっていない、ということだと思います。変えていきたいと思います。一緒に頑張りましょう。

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