書き出しの話

レス・エジャートンの「「書き出し」で釣りあげろ」という本を読みました。アメリカの作家の書いた指南書です。

もともと書き出し、大事だな…でもどういう書き出しがいいのかわかんないな…という問題意識があったので読んでみました。いろいろないい書き出しの具体例も出てきますし、書き出し含む作品全体の話もしてくれて、個人的にはとてもよかったです。


ただ紹介文には「名作に共通する揺るぎない事実、それは「書き出し」がすぐれている点です。やっとの思いで書き上げた作品なのに、文学賞に応募しても審査を通過しない、小説投稿サイトでアクセスが伸びない、同人誌を作ったものの手にとってもらえない……もしかしたら大多数の読者や編集者は、最初の数行で読むことを止めてしまっているのかもしれません。」と書いてあるのですが、この本で指南しているのはおおむね日本では一般文芸と呼ばれる部類の小説のことであって、小説家になろう(訳者あとがきには小説家になろうからベストセラーになった小説の話が出てきます)やカクヨムとかの投稿サイトとか、あと私が個人的に書きたいボーイズラブなどのジャンル小説には役に立つのか…?というと、ちょっと微妙な気がしました。それはそれで別のメソッドが必要なんじゃないか?という気が…。

私自身は一般文芸っぽい小説を投稿サイトで書いて、一般文芸の文学賞に送ったりしているのですが、そこで求められるものと投稿サイトで読まれる作品や、ジャンル小説に求められるものって、結構違う気がします。

一読者としての私の個人的な意見、かつ場合によると思うのですが、一般文芸を読むときは「どういう話なのか」わからないまま読む、書き手に多くをゆだねる部分が多いかなと思います。その分信頼してない相手にはゆだねられないので、信頼できる出版社が出してるとか、好きな書き手であるとか、好きな読み手の人が読んでいるとか、賞をとってるとか売れてるとか、そういう部分が大きくなるかなと思います。それがない場合その分の信頼、なんだかよくわからない旅に一緒に付き合えるほどの信頼に代わるような魅力が必要になってくるので、書き出しはとても大事…ということになってきます。

一方投稿サイトやジャンル小説(私はミステリ、BLが好きですが、どちらもジャンル小説だと思っています)を読むときは、「こういう話が読みたい」と思って読むことが多い気がします。

投稿サイトでよく言われる「テンプレ」は「こういう話が読みたい」という需要を満たすものですし、そこから逸脱しない範囲での新規性を求めているのだと思います。ジャンル小説でも、例えばBLだと主人公と相手役がどういうキャラクターなのかという事前情報を見て読むかどうか決める人が多いと思います。そういう読書をする場合、書き出しに求められるのは「これからどうなるんだろう?」という興味をそそるものより、「思ってたものがここにありそうだぞ」という期待を裏切らないものではないか…と、思ったりしました。もちろん期待を裏切らないうえで興味をそそる書き出しが書ければそれに越したことはないのですが…。

ただそうは言ってもその場合でもこの本が主張する「とにかく早く本題に入れ(私なりのまとめです)」はその通りだなと思います。


創作論の本はあまり読まないのですが、たまに読むと「ここは参考になるな」とか、「この場合はこうしたほうがいいんじゃ…」と自分なりの考えが深まって面白いです。

ともあれ「「書き出し」で釣りあげろ」、おすすめです。

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