雑記
古池ねじ
「殺人小説の書き方」の話
※noteの転載です。
「殺人小説の書き方」という小説をウェブに投稿しています。
カクヨムと
https://kakuyomu.jp/works/16816700429273663636
小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n5986hj/
に投稿しています。
人がいっぱい死ぬ女二人のミステリーです。自分でもかなりお気に入りなのでちょっと自作解説してみます。ネタバレしてるかもしれません。
「体験したことしか書けないなら推理小説の作者は殺人犯なの?」みたいなツイートを見るたびにもやもやしていたのがこの小説を書いた動機のひとつでした。
推理小説って別にリアルに殺人描写する必要あるジャンルじゃないだろ…と思うし元警察関係者とか弁護士とかが書く推理小説って普通にそれを売りにしてるじゃん…というのもあるし、何より殺人が社会的に問題のない行為なら小説のために殺人経験したい人、普通にいると思うんですよね。創作のために何かを経験したい、という欲望にはそのぐらいの切実さがあるので、そういうツイートの「いや殺人はしないでしょ」みたいな姿勢にもやついていたのかもしれません。「経験したことがないことも書けるから大丈夫だよ」という優しさから出た発言なのはわかっていますけど、創作することには優しさでは慰められない切実さというものがある。
そこから「経験がないことがコンプレックスになるのは恋愛とか性的なことが多いかな」と思って、ああいう話になりました。
主人公の鏡花は極端な選択をするキャラクターなのでかなり強烈な人間になりました。これは私が「やばい女」の出てくるフィクションが好きで、ついついやばい女を応援してしまう…というのも関係していると思います。フィクションのやばい女はだいたいラストで敗北するものですが、私はこの話で鏡花に勝利してほしかった。ただ、殺人犯ではあるので殺人犯に与えられる勝利ってなんだ?と考えたところからああなりました。冷静に考えれば結構不合理な結論だと思うのですが、不合理で破滅的なラストではなく、鏡花のある種の勝利を読者が感じられたなら、それはこの物語の勝利でもあるのだと思います。
あともともとのプロットでは鏡花は本当は大学時代、ある被害にあっている予定でした。でも書いているときに「最初から殺人犯ってわかってるんだから読んでて納得できるような可哀想な過去なんてなくてもよくない?」と思って、被害にはあわないことにしました。鏡花は普通に読んでいるだけでは到底共感できない、でも彼女と行動をともにすることで愛着がわくようなキャラクターにしようと思っていたのですが、書いているうちに結構読者と距離の近いキャラクターになった気がします。予定よりレンズが近くなりすぎたというか。それが失敗なのか思わぬ成功なのか、私にはどっちだかまだわかりかねるところがありますが…。でも愛してもらえたなと感じる感想を色々いただけて、それはすごく嬉しかったです。
これはもともとの予定通りなのですが、鏡花は「わかる」人にはとてもわかるけれど、わからない人にはまったくわからないキャラクターにするつもりでした。そして、わからない人にとっても最後まで読み進められるような話にしたいなと思いました。わからなくても最後まで付き合って、ラストに鏡花が味わった勝利を見てほしかったです。
そして、鏡花は「わかる」人にとってはとてもわかるけれど、実際にこんな人間はそうそういないようなキャラクターでもあります。鏡花は自分が味わった理不尽に対して憤ります。そして、普通の人間が成長に伴って社会と和解、あるいは妥協するところを、しません。愛されていることと軽視されていることが両立することに怒り、自分が愛するものに生まれ持ったもので拒絶されたことに怒り、そのあと愛されているからと軽視されることを許したり、優れているからと例外的に受け入れられたことで許したりはしません。許さずに怒りを怒りのまま非力な手で握りしめて、最後まで世界と和解しないキャラクターになりました。そう書けたこと、私としては嬉しかったです。
この話、気に入っている、と書きましたが、本当はそれ以上のものだと思っています。私と、そしてある種の人たちにとって、本当に価値ある小説だと思います。いろんな人に読んでほしいです。少しでも気になったなら、ぜひ読んでください。
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