第6話 面接
車に乗って二十五分経った頃、車はグレーの七階建てくらいのビルの前で止まった。
「さ、着いたよ」
時間は予定の十六時よりもかなり早い十三時四十分だが、蒼空のミーティングが十四時かららしいのでちょうどいい時間と言えるだろう。
それに、もう準備は昨日の時点で済んでいるので面接はいつでも始められると言われたから、十四時半頃に始めてもらうことにした。
事務所のビルに入ると、見た目通りあまり広くはない印象だった。エントランスには小さな待合スペースと受け付けがあり、入って右側のところにエレベーターと階段が並んでいる。
面接は二階の事務フロアの端にある小さなミーティングスペースで行うらしい。
二階に上がるためにエレベーターに乗った時、石田さんが少し謝るように囁いてくる。
「ごめんね~。僕らからスカウトするときの面接はオンラインだから、
わたしは気にしていないことを伝えるために首を横に振る。
石田さんはそう言うが、そもそも自分から応募する人が少なすぎるので、そのためだけにスペースを作るのは無駄にほぼ等しいだろう。
二階は仕切りを最小限にして広くスペースをとっているせいか、一かいと比べるとかなり広い印象だ。
事務スペースの奥にある白いドアの前まで行くと、蒼空はミーティングに向かうので石田さんに挨拶をした。
「じゃあ俺はここで。萌恵をよろしくお願いします」
「大丈夫だよー。というか面接の部屋の前まで来てるけど時間は平気なの?」
「大丈夫です」
「いや大丈夫じゃないでしょ。準備とかどう考えても三十分くらいかかるよ?」
「大丈夫にします。それじゃあ準備もあるので失礼します」
蒼空はそう言って踵を返し、エレベーターの方へと早歩きで向かう。
——大丈夫じゃなかったんだ。あと大丈夫にするって脳筋過ぎない?
「まあそうなるよね・・・・・・。じゃあ僕たちは行こうか」
石田さんはそう言って白いドアを開き、進むよう促したのでそれに従う。
部屋の中は面接用に整えたのか、二つのパイプ椅子が向かい合うように並べられ、その間に数枚の資料のような紙が乗せられたテーブルがあるだけで他には何もない。
わたしが部屋に入り、石田さんが続いてドアを閉めると、石田さんは頭を掻いた。
「あ、僕が来るの言い忘れてたから椅子無いや。・・・・・・まあいっか。短くて済むだろうし。それじゃあそこの椅子に座っておいてくれる? 面接の時間になったらまた僕と担当が来るから、それまでは何でもしてていいから待っていてね」
石田さんはわたしに椅子を指し示す。
わたしがお礼の会釈をしてその椅子に座ると、石田さんは部屋から出て行った。
椅子に座って一呼吸すると、なんだか急に「今から面接をする」という実感が湧いてきて、段々と体を緊張が襲ってくる。
——お、落ち着け、わたし。大丈夫、面接は確認程度だから心配することはない、ここで落ちた人も少ないって蒼空も言ってた。・・・・・・いや待って、「少ない」ってことは一応いたってこと?
どうにか落ち着けようと自分に問いかけてみたがむしろ逆効果なようだったので、少しでも自分を落ち着けるために普通の企業面接について復習しようと調べてみる。
——うん、言葉遣いや行儀などの第一印象で九割がたが決まるんだったよね・・・・・・あれ? もう社長に会ってるから九割がた決まったも同然?
「お待たせ~」
しばらくいろいろと面接について最後の復習をしていると、部屋に石田さんが入ってきた。
ふと時間を見ると確かに今は十四時半で、気が付いたら五十分も経っていたことになる。
自分ではわからなかったが、こんなにおさらいに没頭するなんてよほど不安だったのだろう。
しかし、この直後のことで面接の不安は三倍増しになった。
部屋に軽い笑顔で入ってきた石田さんの後ろから、ドアの上に頭が掠るほどに大きく、厳つい容貌の人物が入ってきた。
その人物の視線はとても鋭く、まるで獲物を襲うタイミングを計るライオンのような眼だ。
——これって返答間違えたら消されるやつ?
後ろの巨人にビクビクしていると、石田さんが堪えきれなくなったようにぷっと吹き出した。
「あっはは、そんな怖がらなくてもいいよ~。別にこの人、人を食べたりしないから」
「本日の面接をさせていただきます、黒岩と申します」
本日はよろしくお願いします、と黒岩さんが頭を下げたのでわたしもお辞儀を返す。
黒岩さんはわたしが勝手に持った第一印象とは違って礼儀正しく、温かそうな口調だった。
しかし、敬語の使い方がどうも面接する側じゃなくて受ける側のような気もしてなんだか違和感がある。それに、どこかそわそわとしているようにも見える。
黒岩さんが椅子をきしっと軋ませて座ると、黒岩さんは姿勢を正す。そして、わたしたちをちょうど真ん中の位置から俯瞰するような場所で、石田さんは壁に寄り掛かった。
「では、早速ですが面接を始めさせていただきます。まず、お名前をお伺いしてもいいですか?」
——やっぱりどちらかというと面接受ける側の言葉遣いじゃない?
拭いきれない違和感を感じつつも、わたしは前もって繋げておいたチャットアプリで黒岩さんに名前を送る。
そこからは、志望理由ややってみたいことなどの質問に答えていく。
正直練習らしき練習をしていなかったが、わたしの体質に合わせて「文字を打って送る」という形式にしてくれたおかげか、特に失敗らしき失敗はせずに質問は順調に進んでいく。
最初の方は緊張で震えていた指も、面接が始まってしばらくすると、心が慣れてきたのか震えないようになってきていた。
ついに最後の質問がやってきた。
そしてその問題は、わたしにとって、二度と見たくない記憶に触れなければならないものだった。
「では、最後の質問です。あなたはなぜ、本気でゲームをやっているのですか?」
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