第一章 就職難の《最強》
第1話 収入源が欲しい殺戮者さん
朝、けたたましいアラームの音で目が覚めた。
アラームを止めるべく、ベッドから飛び起き、勉強机にある目覚まし時計に向かって歩いていく。
アラームオフのボタンを押し、時計の隣にある服をひっつかむ。
寝間着を乱暴に脱ぎ捨て、ずぼっと赤いパーカーに腕を通して着る。その後、デニム生地のショートパンツに足を入れて一気に引き上げる。
仕上げに、生粋の日本人なのになぜか大分色の薄い髪を無理やりブラシである程度整える。
自室のドアを開け、階段を下りていくと、香ばしい魚の匂いがする。
ダイニングのドアを開けると、そこそこ長身で、ほっそりとした青年がすでにいた。
「あ、おはよ~」
寝癖が大爆発した頭で焼き魚の具合を見ながらそう言ってきたのは、従兄弟の蒼空だ。
針が太くなったウニのような頭に水色のエプロンを身に着け、笑顔でこっちを向いている姿がかなりカオスに感じ、わたしは思わず吹き出してしまった。
「ぷっ・・・・・・」
本格的に笑う前に何とか耐えられた。声を出して笑ったら、喉から大出血して大惨事になる。
「いや挨拶くらいしろよ」
「・・・・・・おはよ」
わたしは喉を大して使わない囁き声で言った。正直、魚が焼けるじゅわあ、という音でかき消されていて、蒼空に聞こえた自信はない。
しかし、囁き声だと今度は喉が乾燥しやすくなり、より痛めやすくなってしまうのですぐに水を口に流し込む。
「ほとんど作り終わっているから、お前はご飯よそって待ってろ」
わたしは頷き、蒼空のいるコンロの隣にある炊飯器に向かい、自分の白い茶碗をとり、ご飯をよそっていく。
しばらくすると魚も焼き終わったようで、目の前にシジミの味噌汁、鰺の塩焼き、白米、そして旬のサクランボといった、いつものメニューが並べられていく。
「「いただきます」」
わたしは口の動きだけで、蒼空はしっかり発音して同時にあいさつし、からっぽで限界を迎えかけている胃袋に物を詰め込まんと箸を伸ばしては口に放り込む。
「・・・・・・お前食べ方どうにかならないの? 大分上品とは言えないぞ」
——そういわれたって困る。お腹が空いているのでこっちは緊急事態なのだ。それに、ラーメン用の大きいどんぶりに山盛りのご飯をよそって掻っ込んでいるような人には言われたくない。
そんな意思を込めて軽く睨むと、どうやらそれは通じたようで、「ふーん」と返事をしてまた黙々と掻っ込み始めた。
「そういや、お前、今年で二十歳になるだろ? 流石に収入源作っといた方がいいんじゃないのか?」
しばらく食べ進め、わたしはラストのサクランボにたどり着いたころ、蒼空は味噌汁をすすりながらそう訊いてきた。
私もそろそろ職を得ないときついかもしれないと思ってはいる。さすがに今後も蒼空に頼りきりだとちょっと申し訳無くなる。
わたしは頷くと、また囁き声で言った。
「実力はあるし、プロゲーマーにでもなろうかなって思ってる」
そう言った後、すぐに水を飲んで喉を潤す。
その時、蒼空は、すすっていた味噌汁を盛大に吹き出した。だが、わたしはどこに噴き出す要素があったのかわからず、首を傾げた。
「お前、もしかして俺と同じところに来ようとしてるか?」
蒼空が咳き込みながらわたしに訊いてくる。
わたしはもちろん、そうだけど? という意思を込めて頷く。
「マジか・・・・・・まあ、ずっと俺が萌恵の生活費を払うのと比べたらそっちの方がいいけどさ・・・・・・」
蒼空は唸り声をあげて頭を抱えている。そんなに嫌がることなのかは理解できないが、他にアテが無いから仕方がない。
「そろそろ『所属したい』っていう連絡をしたいんだけど、どうしたらいいの?」
わたしはまた呟き、今度はサクランボの果汁でのどを潤した。
「うーん、基本的に俺のプロチーム《
——何そのめちゃくちゃなりやすい例外。ハードル低すぎでしょ。
「でも、お前話せないだろ?」
「あ・・・・・・」
わたしは思わず声が漏れた。確かに、わたしはまともに話したら甚大な被害が喉に出る。そんなときには大体筆談でやっているのだが、電話で筆談なんて出来る訳がない。
「・・・・・・しゃーない。俺が推薦して、面接からにしてやるから。面接もどうにか筆談にしてもらうから、それで所属しろ」
——あ、蒼空に後光が見える。気のせいかな?
「ありがとう」
わたしは口の動きだけでそう言い、そのくらいの短いものだったら蒼空も読み取れたらしく、「あいよ」と言った。
「とにかく所属しろ。推薦でも落ちる可能性はあるんだから、志望動機とかくらいは考えておけ。あ、金目的って言うのは通じないからな」
——そんなことわかってるよ。ちゃんとしたものを考える予定だったよ。
わたしは朝ごはんの後、自分の洗濯物を干した後、毎日あるゲーム練習時間を丸ごとこの面接対策に費やそうとしていた。
——まず、志望動機は『兄がやっていて憧れたから』的な感じでいいかな・・・・・・いやダメだ。理由が薄いとか言われて
そんな感じで苦悩していたが、一時間も経たずにわたしはもう《
——やっぱFPSゲームは最高だぜ!
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