第2話 面接対策・・・・・・?

 わたしはログイン直後、迷わずに《スクアッド》モード——四人で一組、計二十チームで、最後の一組になるまで生き残るモード——に野良——システムによってその時同じモードを遊ぼうとしている人たちからランダムで組む仲間——無しで選択し、マッチングする。


 ——さーて、どのくらいの撃破キル数とダメージdmgが稼げるかな?


 そう思いながらマッチが開始し、最初に降下するところを選ぶ。


 《BFA》はかなり物騒な設定で、『富豪たちの遊びとして、戦争の捕虜を殺し合わせ、生き残る者を当てる』というゲームの捕虜としてプレイヤーたちは戦う。

 そのゲームでは、まず捕虜を上空のヘリコプターから降下させ、その降りた先にある町などを模したところで武器を手に入れ、それで敵を倒し、最後の一人または一パーティーになるまで殺し合い続けるというルールになっている。だが、ゲームの趣旨自体は他のFPSゲームと全く同じで、エイムとキャラコン、そして立ち回りがすべてのゲームだ。


 だが、他のゲームとは違い、《BFA》は、ゲームでの成績をもとに増えていく経験値を使い、《HP即時回復》や《アサルトライフルの威力を一時的に上げる》、《ミサイルで攻撃する》などのスキルを一つだけ選択し、ゲーム内で使用することができる。しかも、スキルが《攻撃》《防御》《調査》《移動》の計四つのツリー式になっている上、ツリー一つずつのスキルの量が無数にあり、現在世界最高レベルの八千強で、攻撃ツリーだけを解放していてもまだツリー一つも開放しきれないらしい。しかし、そのレベルの時点でも、《HPを百五十消費して指定したところに噴火を起こす》みたいなぶっ壊れスキルもある。わたしはそのスキルを持った敵と一回だけ戦い、ボッコボコにされた。


 ちなみに、わたしは、誰もが『敵が発するSEは足音と銃声、回復音だけ』と考えているので最弱スキルと言われている《発生音拡大》を使っている。わたしが跳んで崖上に上がってくるのを予想していた敵は、《一定範囲内の敵の位置把握》でも取っていたのだろう。


 《BFA》のマップは広大で、大体半径一・五キロメートルの円になっていて、各地にある街っぽいところや研究所のようなところのランドマークを選んで降りることができる。


 わたしは東にあり、超激戦区と言われる、無数のビルが立ち並ぶ都市エリアに向かってスカイダイブを開始した。


 着地後、まずは適当なビルの中に入り、物資を漁る。その後、敵を片っ端から潰していき、最後の一人になる。ただそれだけだ。


 そのいつも通りの作業を思い描きながら着地し、一つのビルの中へと入ると、すでに先客がおり、ショットガンをこちらに構えていた。


 ——やっべ。


 その直後、敵のショットガンが竜の火炎放射のように散弾を放ったが、わたしはとっさの判断で、入り口のすぐ左にあった壁に走って初段をよけ、壁ジャンプでさらに次弾もよけ、敵の頭に格闘攻撃の蹴りを叩きこんで五十ダメージを与え、入り口よりも右側のあたりに着地した。


 格闘攻撃は武器が使えない状況の応急措置的な立場だが、威力は胴体で三十ダメージ、頭に入れば五十ダメージで、HPの総量は二百なので、全弾頭で四発で倒すことができ、場合によっては銃よりも強い。


 その格闘攻撃を立て続けに殴りとして頭に叩き込む。対して敵は、今この狭いエントランス内で使える壁ジャンプやスライディングなどのパルクールをフル活用している私に全く攻撃を当てられず、十秒もなく敵はダウンした。そのまま確殺を入れ、ショットガンを奪うと、隣のビルへと突撃し、援護するために向かってきていた敵をビルのエントランスの時点で全員ショットガンの餌食にした。


 ——これだからFPSはやめられない。一気に敵を薙ぎ倒した時の快感が最高。


 もちろん、最初に降りたところで捻り潰される敵の気持ちを味わったことはある。だが、できてしまうのだから仕方がない。チートでもグリッチでもないのだし、ランク戦でもないので別にいいと思う。


 ——まあ、すぐ全滅して練習もなにもないのはかわいそうと思うけどね・・・・・・。




 その後、敵に全然遭遇せず、最初に降りた都市エリアからはるかに離れた、最西端の港エリア付近が安全地帯に選ばれたため、わたしはそこに移動しながら、そういえばと思い、このゲームを始めたきっかけを思い出していた。


 ——確か、小学一年生の夏に不登校になってから始めた気がするな・・・・・・。


 わたしは小一のころ、気弱で無口だったからか、入学当初から複数の女子児童から凶悪ないじめを受けていた。

 それに耐えられず、三か月が経った七月に不登校となり、家に引きこもりきりになった。


 親にも理由は少しも話さなかったが、学校側に勘のいい先生がいたらしく、すぐにわたしの家に連絡が来て、わたしからいじめられていたのかどうかを訊かれた。そのころいじめがどういったことかわからなく、『いじめという意味はわからないけど、ひどい行為はされていた』という旨のことは言った気がする。


 その後、臨時の学年集会が開かれ、『いじめは決して許されることではない。もししている人がいたら、すぐに謝り、それからは絶対にしないようにしなさい』という感じのことを言い、そしたらわたしをいじめていた人が『謝りたいけど家がどこか分からない』と言って名乗り出てきたらしい。

 それから、わたしはその子が家に来て誤ったので一応許したが、トラウマは消えず、ずっと引きこもっていたと思う。


 だが、家でも勉強はしっかりとしていたので、年一回受けていた模試では偏差値が五十を切ったことがなかったと思う。国語だけだが全国トップ十位に入ったこともあった気がする。


 引きこもっているとき、その時の私に一番輝いて見えたのはゲームだった。自分の性格も性別も経歴も、何もかも関係なく、ただ実力さえあれば評価されるその世界が自分の唯一のよりどころと感じていた。

 まあ、言ってしまえば重度のゲーム中毒になったってことだが、それほどにわたしは心のよりどころを探していた。親しい人と話すことが最もいいと言われていることは知っているが、もともと話すことが好きではないので、自分一人でできることにその要素を求めていたのだと思う。


 それからしばらく経ち、世界トップクラスの実力を得て、ネット上で評価されるようになってもまだその心境は変わっていない。


 ——あ、面接での志望動機はこんな感じでいいか・・・・・・え?


 そこまで考えた時、どこからかスナイパーライフルの銃声が聞こえ、次の瞬間には画面が死亡を意味する灰色に染まり、画面上部に血のように赤いフォントで『全滅』と表示されてしまった。

 いつもならスナイパーライフルで簡単に射撃されないように、不規則にジャンプしながら移動したりしているのだが、考え事をしていたため、リズムが一定で撃ちやすかったのかもしれない。


 ——もう二度とゲーム中に考え事はしないようにしなきゃね。


 結果として、そのマッチでは四キル・千二百ダメージだった。最近の中では最低記録かもしれない。ちなみに、平均は十三キル・三千ダメージだ。

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