第11話

「そんな……」


「だから申し上げたでしょう。女王様は陛下の事を好いておられないと。歩み寄ろうとした女王様を拒否したのは陛下です。まずは謝罪をして下さい。話はそれからです」


宰相が夫を宥める。騎士団長も、夫を責めた。


「そうですぞ。あれだけ蔑ろにしておいて、なかった事にしようとしてはなりません。我々はずっと見ていました。女王陛下は民を慈しみ我々配下に配慮し、白雪姫様を大事にしておられる。だからこそ、女王様へ白雪姫様の養育権をお渡ししたのでは?」


「違う……。あの日は、いつの間にかサインをしていて」


「女王様の美しさに絆されたのでは?」


「わたくしが美しいのは当然ですわ。だって世界一美しい白雪の母なのですから」


ここに鏡が居たら血は繋がってないだろってツッコんでくれるんだけど、あいにく鏡は不在。


宰相や騎士団長は完全にわたくしに見惚れてるし、夫は白雪の話をしても無反応。


「美しいのは貴女だろう。白雪はまだ子どもだ」


「いいえ。わたくしより白雪の方が美しいですわ。それに、白雪は美しいだけじゃない。毎日たくさんの勉強をしているし、わたくしや使用人達の体調を気遣ってくれる優しさもあるし、分からない事を分からないと聞ける素直さもある。あの子は立派な女王になりますわ」


「……そうか」


冷たい対応にイラッとしてしまい、つい声を荒げてしまう。


「あまり白雪を可愛がっておられないフリッツ様は理解出来ないかもしれませんけど、あの子はお母様が亡くなられてからずっと1人でした! 貴方が余計な命令をしたせいで、使用人は白雪を構えない! 父親なのにどうして娘を放っておいたのですか! あの子は2年も、1人で寂しく食事をしていたのですよ?! 家庭教師は躾と暴力の違いも分からない無能だし、一番許せないのは料理長への命令です! 粗食にしろと厳命するなんて……あの子は成長期、しかも姫なんですよ?!」


「あ、あれは……! 白雪は体が弱いから粗食にしないといけないと聞いたからだ!」


「誰に?!」


「つ、妻に……」


妻はわたくしよ! あーもう! この男がわたくしを妻と思ってない事は知ってたけど、明言されると腹が立つわっ!!!


「まさかと思いますけど、白雪が病気がちだった頃の話ではありませんわよね?!」


「……そうだ。白雪が寝込んでいた時、妻が具のないスープを作っていた……」


「白雪は今は健康な子です! 具のないスープなんて、栄養が足りませんわっ!」


「そ、そうなのか?! 妻が作っていたものなら、間違いないと思ったのだが……」


「料理長はプロです。彼を信頼なさいませ」


「……貴女が白雪の食事を作っていると聞いて料理長と話し合ったんだ。彼も白雪は元気だし成長期だから、もっと栄養のあるものを食べるべきだと言った。だからすぐに命令を解除したよ」


「宰相が陛下に伝えて下さったのでしょう?」


「はい。そうです!」


どうしてかしら。最近、宰相に見えない耳と尻尾があるような気がするんだけど。


「よくやったわ。料理長にも御礼を。可能なら今夜はアップルパイをデザートに出して欲しいと伝えて来てくれる? 白雪は、林檎が好きなの。知ってるわよね?」


「はい! デザートに林檎を出すよう指示はしておりましたが、アップルパイにするように伝えて参ります!」


「さすがね。きっと白雪はアップルパイを食べるのは久しぶりだと思うのよね。もしかして、アップルパイを食べるのは初めてかしら? 喜ぶ顔が今から楽しみだわ! あ、もちろん時間がかかるのは知ってるから、無理なら今日は良いからって伝えてね」


「はいっ!」


「それから騎士団長、白雪と鏡先生を呼んでくれる? 護衛は大丈夫だから。わたくし達は夫婦だもの。2人きりでも問題ないでしょ?」


「女王様の御心のままに。すぐにおふたりをお呼びします。国王陛下、御前失礼致します」


宰相と騎士団長を退室させ、夫に向き直る。以前会った時よりも目に光はあるわね。鏡の攻撃が効いたのかしら?


「ねぇフリッツ様」


「なんだろうか?」


「今までわたくしと会おうともせず、可愛い可愛い娘を放置していたのに、どうして急に変わったの?」

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