第10話

「女王様、国王陛下がお呼びです。ご安心下さい。私も、騎士団長も女王様の味方です。必ず、貴女様をお守り致します」


「ありがとう。宰相が貴方で良かったわ」


「……ありがたき……幸せっ……!」


なんで泣くの。最近、宰相も使用人達も騎士も文官も、みんなわたくしに好意的なのよね。


警戒したり、意地悪しようとしてた宰相は何処へ消えてしまったのかしら。ま、今の方がやりやすくて良いけど。


……まさか、精神操作の魔法? 魅了ってやつ?! わたくし、知らぬ間に魔法を習得したのかしら。


あー鏡の呆れ顔が浮かんだわ。


そんな訳ないわよね。魔法はそんな甘いモノじゃない。文字通り血を吐く思いで練習する必要がある。精神操作系の魔法は理論もややこしいし、チャレンジしたけど諦めた。師匠は人を操るくらいなら壊すっていう人だから習えなかったしね。


師匠に白雪は会わせない。白雪が気に入られたら困る。


しまったわ……! 白雪は美しいんだから守りを固めないといけなかったのに! 狙われるかもしれないなんて考えてなかったわ! 王子を監視してる場合じゃない。早急に白雪を守る防護魔法を開発しないと。師匠からも守れる強固な防護魔法の開発が必要よ!


そんな風に白雪の事ばかり考えていたら、目の前の夫の存在を忘れていた。宰相の変わりっぷりに引いてる気がするけど、大丈夫かしら?


「……結婚式以来だな……」


「お久しぶりです。国王陛下」


わたくしの発言に、夫も宰相も騎士団長も驚いている。夫婦なのに、役職で呼ぶって事は夫を拒否してる証だもの。宰相や騎士団長はドヤ顔だ。


だから言っただろう。お前が悪いって目で国王を見てる。すっかりわたくしの味方になってくれたわね。結婚したばかりの時は、2人ともわたくしを警戒していたのに。


「今後は私が仕事をする。今までご苦労だったな。その……女王」


オドオドしている夫を見て気が付いた。この人、わたくしの名を覚えてないんだわ。


「宰相は優秀ですし、騎士達も使用人達もわたくしを助けてくれます。無理をなさらず、今まで通り亡き奥様を偲んでお過ごし下さいませ。フリッツ様」


「……うっ……! そ、そんな訳にはいかない……! いつまでも仕事を放置するなんて……」


「2年も放置しておいて今更では? 宰相はストレスで身体を壊しておりましたわ。それでも貴方は何もしなかった。わたくしに仕事を任せたのも、信頼していたからではなく都合が良かっただけ。面倒だっただけでしょう?」


「それは……」


「あらあら。国王陛下はまだ本調子ではなさそうですね。この程度の嫌味が返せないのによく仕事をするなんて仰いましたわね」


「君は国の実権を握りたいのか? 私が邪魔なのか」


失言ね。宰相と騎士団長が殺気立ってるのが分かる。


「実権なんて要りません。今はわたくしがやるのが適任だからやっているだけです。フリッツ様に与えられたもので手放したくないものはひとつだけです」


「……私の愛……か……」


はぁー?

部屋の空気が凍る。


宰相は怒りでプルプル震えてるし、騎士団長は主人である筈の国王を睨みつけている。


わたくしは溜息をひとつ吐き、言った。


「貴方の愛なんて要りません。大体、わたくしを愛してなどおられないでしょう。わたくしの名前も知らないのですから。結婚式で目も合わさず、お会いするのは本日で3回目。そんなクズの愛など要りません。わたくしが欲しいのは、可愛い白雪を養育する権利だけです。貴方の愛は、娘の白雪に与えてくださいませ。言っておきますけど、わたくしはフリッツ様が白雪を放置した事を許しておりません。貴方の事は、国中、いや、世界中で一番嫌いです」

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