1-4-7. 黄金パターン(灯子Side)

 ショッピングモールを後にした私は、家路を歩いていた。


 日が暮れ始めているけど、夕食はまだとっていない。モール内に飲食店はいくらでもあるけど、誰かに払ってもらわない限り、代金は自分持ちとなる。そして、私はついさっきその「誰か」を拒絶した。なので、こうなっているというわけ。


 今度からはモール内のベンチで休憩しない方が良いかもしれない。まあ、私のことを知っている人物に見つかるなんて滅多に無いだろうけど。


 そんなことを考えていたら篠塚家の前に来たので、いつものように中に入ってダイニングへと向かっていく。


 スパイスの心地良い匂いが漂ってきて、今日の篠塚家の夕食のメニューを理解した。


「おかえり。遅かったね」


 もうすでに食事を終えたらしい章悟が食器を洗いながら、居間に入ってきた私を出迎える。


「今日のカレーは、まだあまり煮込んでいないから味が染み込んでないけど」


 私はテーブルに用意されている皿を手に取り、炊飯器から白飯を、鍋の中からカレーを取り出してその上に盛る。章悟はああ言っていたものの、やはりこういった複雑な香りは食欲を思い切り刺激してくる。


 カレーを盛り付けた皿をテーブルに置き、冷蔵庫から一リットルの牛乳瓶を取り出す。牛乳をグラスに注ぎ、皿の横に置く。これで準備完了だ。私は席に座り、スプーンを手に取ってカレーをすくい、ゆっくりと口に運んでいく。


 期待通りの美味しさだった。辛過ぎず甘過ぎない絶妙な味付けのそれが、舌を通って胃に落ちていくのを感じる。その感覚を何度も味わおうとして、私は何度もスプーンを動かしていった。


 途中で牛乳を飲むのも忘れない。まろやかな風味が舌に残っている刺激を良い感じで打ち消してくれるので、再び食欲が湧いてくるのだ。黄色と白の黄金パターン。胃が許す限りどこまでも続けられそう。


 多めに盛ったはずなのに、いつの間にか皿が空になってしまった。まだ食べられそうなので、私は皿を手にして立ち上がり、再び鍋の方へと向かっていく。


 やはり、彼の誘いに乗らずにそのまま帰ってきて良かったと思う。どうせ、あの男はろくでもないことを考えていたに違いない。一瞬だけ、私の胸元を見ていたような気がしたし。


 当然ながら、章悟はそんなことをしてこない。こっちに顔を向けることなく家事をこなしていくだけ。結果として、私は黄金パターンを味わうことができる。


 あとどれくらい食べよう。明日の分もある程度残した方が良いかもしれない。

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