1-4-5. どういうつもり(灯子Side)

 いくつかの用事を終え、私はモール内にあるベンチで足を休めながらゲームをしていた。


 予想通り、ブラジャーのカップがGに上がっていた。これでまた母さんに一歩近付いてしまったことになる。いや、考え方を変えてみれば十五歳でこれくらいあるわけだから、大人になればもっと大きくなるかもしれない。今更小さくなると思えないから、それなら逆に更に大きくなる方を目指すというのも一種の手か。


 また、さっきCDショップを見かけたので、そこでアルバムを一枚購入した。視聴した限りでは私が普段あまり聞かないようなハードなサウンドだったけど、何となく良いと思えたんだ。歌詞も英語だったし。


 こんな風にモールでの出来事を振り返りながらゲームをプレイしていたら、視界の端の方で見覚えのある人物が近くを通り過ぎたような気がした。


 そっちの方に目をやる。Tシャツに半ズボンという私みたいな格好の男子の後ろ姿があった。章悟のように見えなくもない。でも、別段特徴的な見た目というわけでもないし、顔が見えるわけでもないので別人かもしれない。


 また、よく見てみると、小学生くらいの女子が隣にいて何やら楽しそうに話しているということが分かる。だとすると、やはり章悟じゃない。あれくらいの年齢の女子とつながりがあるとは思えない。多分、どこかの知らない誰かが妹と一緒に歩いているだけ。


 そう思ってゲームを再開させて数分後、


「んっ? 菅澤じゃん」


 誰かが声を掛けてきたような気がした。しかし、付近が騒がしいので私の聞き間違いかもしれない。今、手が離せないので、聞き間違いということにする。


「ほら、知ってる? 篠塚とよく一緒にいるんだけど」


 しかし、その声がさらに近付いてくるので、私はタイミングを見計らってゲームを中断させた。


 目の前に一人の男子が立っている。どこかで見たことがあるような気がするけど思い出せない。暑さが残る時季だというのに、シャツの上に一枚ジャケットを羽織っている姿が変に印象に残ってしまう。


「この前、うちのクラスに来たじゃん。あの時一緒にいたんだけど」


 そう言われると、少しだけピンと来るものがあった。高校で章悟を見かける時に、よく一緒にいる友人だ。


「篠塚のおさなみなんだって? 鵜飼っていうんだ。よろしく」


 確かに幼稚園児の頃からの付き合いだけど、「幼馴染み」と言われると何だか少し変な感じがする。章悟が私のことをそのように説明したのかもしれない。


「えっ? もうこのキャラ解禁してるわけ? すげーじゃん」


 その「鵜飼」という男子は、私が手にしているゲーム機の画面を見ながら少し驚いたような声をあげた。


「ほら、このソフトってちょっとマイナーじゃん? 俺もやってんだけどさ、周りでやってる奴いないし」


 マイナーだろうかメジャーだろうか別にどうでもいい。ただ単にやりたいゲームをやっているだけ。


 それにしても、この「鵜飼」という男子は一体どういうつもりなんだろう。ほぼ接点が無い私にいきなり馴れ馴れしく話し掛けてくるなんて。


 そこで、私は不意に中学生の頃のことを思い出してしまった。


 ある日、突然名前も顔も知らない男子に校舎の裏に呼び出され、こう言われた。


 「僕と付き合ってください」と。


 当然ながら、当時から恋愛なんてどうでもいいと思っていた私はそれを断った。今思えば、不思議で仕方ない。クラスが違う(もしかしたら、学年も違ったかもしれない)大して親しくもない相手に突然告白するなんて一体どういう心境なんだろう。


「あのさ、ちょっと食べてかない? 俺も一人なんだけど」

「……行かない」


 私は迷わずにそう答える。よく分からない相手と一緒に食事しようなんて発想は私の中には無い。たとえ腹が減っても、篠塚家に戻ればいいだけの話。


 あと、少し離れた場所でこっちの様子をうかがっている男子が二人ほどいる。もしかしたら、鵜飼と一緒に遊びに来た友人かもしれない。それなら、「俺も一人」というのはうそということになる。


「いやほら、もうこんな時間じゃん? だったら、一緒にどっかの店で食べないか、って。あっ、もちろん、金は俺が出すから」


 鵜飼は諦めずに誘おうとしてくるけど、私の気持ちは変わらない。同じことを何度も言いたくないので、無視してゲームを再開させる。


「あっ、今度俺と対戦を……」


 私はコマンドを入力して必殺技を繰り出した。これで敵キャラクターを倒したかと思いきや、ギリギリのところで耐えられてしまう。油断せずにとどめを刺さなければならない。


 しばらく経って画面内でのバトルが終了した。顔を上げると、さっきまで目の前にいた鵜飼はいなくなっていた。

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