1-4-4. 楽しみに近い感情(章悟Side)
結局のところ、僕達は当初予定していた映画を鑑賞することができた。
そして今、映画を見終わった二人は、モール内のレストランの席に座っている。
先輩はクリームが大量に乗ったパンケーキを注文した。その一方で僕は小さなハンバーガーとドリンクのみ。先週の勉強会の時みたいだ。
「食べられますか? さっきポップコーン食べていましたよね」
「大丈夫だよ。ああいうクリームは口に入れるとすぐ溶けるから、意外とお腹にたまらないよ。それよりも、映画はどうだった?」
「面白かったですね」
「そうでしょ? 私は小説の方を先に見たけれど、やはり映像で見ると違うね。アニメ作品でありながら、背景にリアリティがある感じで」
「小説が原作なんですか?」
「そういうことではなくて、『映画を小説化したもの』ね。いわゆるノベライズ。世に出たのは小説の方が先だけれど」
「小説でもストーリーは一緒なんですか? 例えば……」
「ちょっと待って」
そこで、先輩は僕の言葉を押し留める。
「急にどうしたんですか?」
「ほら、この店にいる人の中で、今から見にいこうとしている人がいるかもしれないでしょ? すぐ上の階に映画館があるわけだから。その場合、展開を私達が話しちゃうとネタバレになるでしょ?」
「そんなことがあるんですか? 僕達の声なんてかき消されそうですけど」
日曜日で結構混んでいる店内を見回しながら、僕は言う。
「それがね、ふとした瞬間に聞こえてしまうことって結構あるの。私も以前、似たような状況で映画のネタバレを食らっちゃったことがあるから」
経験者が言うんだったら、そういうものなのかもしれない。
「話題を変えましょうか?」
「だけど、今すぐ最後のシーンの解釈を話したいから……そうだ、これで話そうか」
先輩はスマホを取り出した。メッセージアプリでやり取りをしようということだろう。普段の連絡用に、既にIDは交換してある。
「分かりました。僕も少し気になっていたので」
僕もポケットからスマホを取り出し、アプリを立ち上げて、注文した料理が来るまで映画について「会話」をし続けた。
すぐ近くにいるというのに、こうやって間接的なやり取りをするなんて不思議な話だ。それでも、面倒だと感じることはない。
むしろ、どこか楽しみに近い感情を覚えていたのかもしれない。例えるなら、普段の通学路をあえて遠回りするような、そんな感じ。
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