1-4-3. 好きじゃない(灯子Side)

 朝食と昼食を兼ねた食事を終えてしばらく経った後、私は家を出て電車に乗り、数駅の所にあるショッピングモールを訪れていた。


 目的は主に二つある。一つ目は千円カットの床屋で髪を切ってもらうため。そして、二つ目は下着が最近きつくなってきたので買い替えるため。こういった複数の用事を済ませるにはここに来るのが手っ取り早い。


 服装はいつも通りのTシャツに半ズボンというスタイル。就寝時とあまり変わらない。これくらい薄着だと大きな胸が変に強調されてしまうけど、着込んで汗をかいて体中がかゆくなってしまうよりは何倍も良い。


 目的地に向けて周囲を見ないで真っ直ぐ歩いていくだけなので、知り合いでもない限り声を掛けてくる人なんていないだろう。そして、この私に「知り合い」なんて皆無に等しい。


 しかし、それにしても耳が痒い。多分、篠塚家にいた時にずっと耳栓をしていたせいだ。もう着けていないのに感覚がいまだに残っている。母さんがあんな大きな声を出していなければこんな事態にはならなかったと思う。余計なタイミングで存在感を発揮してくるのはどうにかして欲しい。


 何か月か前の話だったと思う。今回と同様の目的でモールに来た時、父さんとデートを楽しんでいるらしい母さんを見かけたんだ。


 そして、服屋で父さんに対して二種類の服を見せて「どっちが良い?」みたいな質問をして、父さんが片方を選んだところで、「こっちじゃない」みたいなやり取りをしていたんだ。娘からすると、「この歳になって何やってるんだ」って感じ。


 あれ以来、私はここに来た時はなるべく服屋の前を通らないようにしている。まあ、今日は二人とも家にいるみたいだから、そんな心配は無さそうだけど、念のためだ。


 結局のところ、私は「菅澤千里」という女性が好きじゃないということだ。それに尽きる。


 だけど、そんな思いを無視するかのように、私の見た目は彼女に近付き続けている。成長するにつれて鼻は高くなり、目の二重がくっきりし始め、身長ももう同じくらいだ。数か月前の健康診断では163センチメートルだった。ブラジャーのカップも多分FからGに上がっていると思う。これも彼女と同じくらい。


 十五歳にしてこの仕上がりだ。この調子で行けば、あと五年くらいして成人したら彼女とうりふたつになってしまうかもしれない。


 そんな風に今ここにいない人物のことを考えていたら、最初の目的地である床屋の前を通り過ぎていたことに気付き、私は引き返す。


 店に入って椅子に座って待ち、店員に髪を切った状態の私の写真を見せて、数十分待てばいいだけの話だ。早いうちに切っておかないと、髪の長い母さんにもっと似てきてしまう。

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