1-4-2. 白いワンピース(章悟Side)
僕は、大型ショッピングモールの入り口に立っていた。
駅に接続しており、僕のようにここが定期券の範囲内である生徒が多いということもあってか、休日の今日は学生客が多い。
今の時刻は午前十時五十分。用事は言うまでもなく「デート」だ。十一時にここで先輩と会う約束をしている。今日一日で、小説の参考にするために僕とシミュレーションをするというわけだ。
まだ来ていないようだったので、時間を潰そうと『恋ふた』の四巻をバッグから取り出そうとしたところで、
「ごめん、待ってた?」
改札口を抜けてきた多くの客がモールの入り口に向けて歩いてくるけれど、先頭にその小柄さが一際目立つ先輩がいた。
その姿を見て、僕は面食らった。学校で会った時とイメージが違うのだ。
当然ながら、いつもの制服姿じゃない。暦の上では秋とはいえまだ少し暑さが残るこの時期に似合う白いワンピースを着ている。首元が露出されており、鎖骨の辺りが完全に見えてしまっている。
髪型も、普段のように頭の後ろでまとめているのではなく、完全に下ろされていた。歩く度に腰の辺りまで届く髪が揺れている。
「下ろすと、結構髪長いんですね」
「そうだよ? 『恋ふた』の『かれん』を参考にしたの」
「……これですか?」
僕はちょうとバッグから出そうとしていた『恋ふた』の四巻を広げた。主人公の
「そうそう、そんな感じ! 私、髪長いからこんな感じでいけば面白いかな、って思ったの」
僕はそのイラストと目前の先輩の姿を見比べた。確かに風貌としてはかなり近いけれど、当然ながら色々と異なる部分もある。
「かれん」に比べると先輩は胸の大きさといい手足の長さといい様々な箇所が小さくまとまっているので、どうしても幼い印象が抜けきれないのだ。かといって、別段無理をしてキャラクターに似せているという感じでもない。むしろ、「かれん」よりもその格好がしっくり来るような気さえしてくる。
「もっと早く来た方が良かったかな?」
「い、いえ、大丈夫ですよ。あまり待っていませんし」
「似合っていますよ」という一言を口に出せないまま、僕はその話題に乗ることにした。
「本当はもっと早く着くはずだったんだけれどね。行く直前になって色々なことが気になって。ほら、これから映画見に行くでしょ?」
先輩はそうやって予定を確認する。
昨日、先輩は僕に細かい「デートプラン」を送ってきたのだ。まずは十一時二十分から、モールの最上階にある映画館で映画を見ることになっている。
「見たい映画があるのだけれど、席が埋まって見られなくなるかもしれないでしょ? 事前に予約しようにも、クレジットカードが無いとできないみたいだから。そういう場合に備えて、近い時間帯の映画をいくつかピックアップしておいたの。もちろん、ただ時間帯が近いだけじゃなくて、『デート』に合うような映画である必要があって、」
「あの、先輩? 早く行った方が」
いつもの癖で話し込み始めた先輩をそうやって押し留める。
「……そうだね、行こう! こんなことしているうちに席が埋まるかもしれないから」
先輩は僕を先導するようにモールの中へと入っていった。
「デート」の最中であろうと、変に緊張することなく中身はいつもの先輩のようだ。むしろ、普段よりもテンションが高めかもしれない。
そういう事実に、僕は安心感を覚える。
やっぱりこれは「本気」ではなく「疑似的」な恋愛関係なんだ、と。
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