1-1-2. 体育倉庫の裏(灯子Side)
私は今、とんでもない睡魔に襲われている。朝眠いのはいつものことだけど、今日は特に強烈だ。
こうなった原因は分かっている。昨日の夜、プレイしていたゲームで新しいキャラクターを解禁したので、その使い心地を長時間確認し続けた結果、ほとんど寝ることができなかった。
そのキャラは敵を眠らせる強力な技を持っている。どうやら画面越しに私もそれを掛けられてしまったみたい。いや、「眠い」と同時に頭の中に有毒の霧が立ち込めているような感じで、「毒」も重ねて掛けられてしまったのかも。
起きて時間が経てばどうにかなると思っていたのに、結局のところ、まだそれは解消されていない。今の私には、寝るための場所が必要なんだ。
そんな思いを胸に、章悟を置いてゆっくりと歩き続けた結果、私はある場所に
体育倉庫の裏にあるスペース。
私はバッグを置いて地面に腰掛け、そのまま寝転ぶ。勢いでスカートがめくれたけど、多分誰も来ないと思うから大丈夫。普段なら昼休みの時に来る場所だけど、その時は他の誰かがここに足を踏み入れたことは無い。
多くの人で
草の上で体を横にしながら目を閉じて少し経ったところで、私は何らかの気配を覚えた。音は無いけど、誰かがこっちに向かってくるような感じがする。
気のせいだと思って再び寝ようとするけど、「気配」がさらに距離を詰めてきた。それに反応して、私は目を開けて体を少しだけ起こす。
一人の女子生徒が私の顔の辺りを眺めていた。目の焦点が合わず、こっちからは彼女が何者なのか上手く確認できない。
「ごめんなさい!」
突然現れた謎の女子は、すぐに振り返り、後ろにくくった髪を揺らしながら逃げていった。結局のところ、何者なのかは不明なまま。まあ、分かったところで彼女は私の知り合いじゃないと思う。この学校で私と親しい女子生徒なんて存在しないわけだし。
何が起こったのかよく分からなかったけど、「考えるだけ無駄」と思ってもう一度寝ようとしたところで、
「こんなところで何やってるの?」
彼女が逃げていったのとは逆の方から、章悟が現れた。どうやら私のことを探していたみたい。
「……眠い」
「こんなところで寝ていたら一時間目始まるよ? ほら、起きて!」
私は体を横にしたままで会話する。そう言われたところで、この心地良い感覚から簡単に抜け出せるはずがない。
章悟が私の腕を
それにしても、痩せ型の見た目に反して、章悟の力は結構強くなったものだと思う。
小学生の頃の章悟は体が小さく、見るからに弱々しい感じだったのに、今となってはこっちがあまり力を入れなくても腕を持って起こすことができるくらいになっている。身長に関しても、中学生の三年間で急速に伸び、今では、女子にしては背が高めの私よりも10センチほど高いくらいだ。
「眠いんだったら、タブレットを購買で買ってくるから」
訳も無く色々と思いを巡らし、目をこすりながら私は章悟の後を追うように歩いていく。
結局のところ、眠ることはできないようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます