第5話
途中、何度か宿泊客とすれ違った。
ご飯が楽しみだとか、温泉がどうといった会話が聞こえてくる。
さすが春休み只中。家族連れの数が圧倒的に多く、館内の通路はとても賑わっていた。
中でも特に騒がしかったのは食堂の前だった。
夜桜は部屋食が基本である。ゆえに夜桜の食堂は家族連れは少なく、居酒屋の雰囲気に近い。
普通に仕事帰りに飲みにきた人や、部屋食では飲み足りない人が酒盛りを開いてるのだろう。食堂内はほぼ席に空きが無いくらいの混みようだった。
真弓さんいわく、これでも繁忙期のピークは過ぎているそうだが、俺にはそうは見えないくらいの喧騒だ。
ちなみに、俺の食事は食堂でとることになっている。
普通の客のように料理を注文して、客に混じってそれを食べる。使った食券を真弓さんに渡せば、あとで経費で落としてもらえる段取りになってるらしい。
そのへんは事前に聞いていたことだ。
施設を見回っているうちに大浴場へ到着する。ほぼ埋まりきったロッカーの中から、わずかに空いているところを探して服を脱ぐ。
結論からいうと、大浴場はシャワーを浴びただけで出た。温泉には入っていない。
人が多すぎて満足に足も伸ばせそうになかったからだ。
本当は浸かりたかったが、まぁいい。
温泉は清掃が入る十時から正午の間でなければいつでも開いている。明日の朝一で入ればいい話だ。
そう思って部屋に戻ったら、ひななと母からメールが来ていたので返事をしておいた。
母からは「了解。新生活、頑張りなさいよ」ときていたので、「もちろん」とだけ。
ひななの方は、「全然大丈夫だよ!それじゃ、また明日ね」
と来てたので、「おう。またな」と返す。
ついでにスタンプとかいう洒落た機能も使ってみた。
といっても、誰でも使える無料の物しかもっていないのだが。
ひななのセンスを参考に、なんかよくわからないカエルが泣いてるスタンプを送ってみたが……。
その翌日、休憩時間中にすれ違った彼女に「クルくん。センス無いね」と馬鹿にされて、俺は愕然とするのだった。
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