第8話 母の手紙
故郷の村で、己れの体内に秘められた魔力を暴走させてしまったレウス。
レウスは勇者アルバスの養女レギアスの助言のまま、故郷の村を立ち去った。
自分をかばおうとしたドレイク、レギアスをかばって死んだ母ユリアを連れて。
「まさか、ここが母さんの墓穴になっちまうとはな。」
ここは、村の裏山の中腹にある、ちょっとしたほら穴。
レウスにとって、ちょっとした秘密基地。
このほら穴の奥に、母ユリアから託された箱が埋められていた。
レウスは捨て去りたかったが、託した母の表情を想うと、捨てる事など出来なかった。
「母さん、こんな所でごめんね。」
レウスは箱を埋めてた穴を広げ、ユリアの遺体を置く。
そしてゆっくりと、土を被せていった。
母の埋葬をすませたレウスは、母から託された小箱を手にする。
軽く箱を振ると、カコカコ音がする。
何か固形物が入っているのだろう。
レウスはあまり気乗りしないが、箱を開けてみる。
「あれ、これって。」
箱の中にあった固形物は、腕輪だった。
この腕輪に、レウスは見覚えがあった。
確か3歳くらいの時、戸棚の引き出しから見つけたこの腕輪。
レウスはこの腕輪を手に取り、ユリアに見せた。
その時ユリアは、凄い剣幕でレウスを叱った。
なぜユリアが自分を叱ったのか、レウスは今でも分からない。
そして腕輪と一緒に、一通の手紙が入っていた。
レウスはとりあえず腕輪を左手首にはめ、手紙を手にとる。
「う、」
レウスは慌てて腕輪を外す。
一瞬だが、腕輪に魔力を吸われた気がした。
改めて腕輪を見るも、何の変てつもない腕輪だ。その様に見える。
レウスは気を取り直し、手紙に目を向ける。
そして母ユリアの遺したメッセージを読みはじめる。
愛するレウスへ。
あなたがこの手紙を読む頃、私はもうこの世に居ないのでしょう。
あなたが一人前になるまで、あなたを見守りたかったのですが、その願いは叶わないでしょう。
人間の魔族狩りも、元四天王にまで及びはじめました。
魔王軍四天王の肩書きですが、人類との対立の激化にともない、何度も再編成されました。
私もそんな魔王軍元四天王のひとりです。
そしてレウス、あなたの本当の母親も、四天王のひとり。
私はあなたの本当の母親の、妹です。
「なんだよ、本当の母親って。」
レウスはここまで読んで、手紙から目をそらす。
自分達は、本当の親子ではない。
そんな陰口を、レウスも幾度か耳にした。
しかしその度に、そんな陰口を否定し続けてきた。
俺の母さんは、本当の母さんだと。
レウスは気を取り直して、続きを読む。
勇者が魔王城に攻め込んだあの日、あなたの父親と母親は、私たち夫婦に、双子のあなた達兄妹を託しました。
しかし私の夫であるケンゴロウは、崩れゆく魔王城から、帰っては来ませんでした。
あなたの妹である、レイアと共に。
「妹?」
なぜかレウスの脳裏に、勇者アルバスの幼女の姿が浮かぶ。
母ユリアが、命をかけて守ったあの少女。
ちなみにレウスは、「養女」という言葉を知らない。
レウスは首をふり、脳裏に浮かぶ像をかき消す。そして、手紙の続きを読む。
ですが、私にはレイアは生きてる気がしてなりません。
レイアは、母から託された指輪を持ってるはずです。
あなたの父が、あなたに託したこの腕輪と、対になっています。
あなた達が魔力を注げば、腕輪と指輪が、共鳴しあうはずです。
レウス。あなたの妹レイアを探しなさい。
「腕輪の共鳴?」
レウスは腕輪に目を向ける。
先ほどはめた時、魔力が吸われた気がした腕輪。
腕輪は、鈍い輝きを取り戻している。
レウスは腕輪を左手首に、もう一度はめる。
今度は、先ほどの様な魔力を吸われる感じはなかった。
そして腕輪は、レウスの左手首にジャストフィット。
元々レウスの身体の一部だったかのように、腕輪はレウスになじむ。
レウスは左手首を胸元に近づけ、意識を集中させる。
これで指輪との共鳴とやらが、起きるかもしれない。
しかしレウスは、何かを感じとる事は出来なかった。
レウスは手紙の続きを読む。
レイアは、生きてるはずです。
お願いです、レウス。レイアを探してください。
そうでないと、私は姉に、あなたのお母さんに、顔向け出来ません。
あなたのお母さんの事ですが、
「なんだよ、俺の母さんって。」
レウスはぎゅっと目をつぶり、涙をこらえる。
「俺の母さんは、あんただろ。本当の母さんって、なんだよ。」
俺を放ったらかした母親。
この手紙に、勇者が魔王城に攻め込んだ時、母ユリアに託したとある。
そこから察するに、母ユリアが元四天王なら、母の姉であるその人は、勇者と対峙する現役四天王。
そんな気持ちの整理をしたレウスは、手紙の続きを読む。
あなたのお母さんの事ですが、あなたに素性を明かすなと念をおされました。
あなたには勇者に討たれた魔族の子としてではなく、いえ、魔族や人間などという括りにとらわれず、生きてほしいのです。
私の姉はそう言いましたが、私はそうは思いません。
あなたは、誰の子であるかを知るべきです。その上で、姉の望む生き方を選ぶか、あなたが決めるべきです。
だからレウス。妹のレイアを探す前に、魔王城跡地に行きなさい。
あそこら辺は、元々魔族も住めない荒れた沼地でした。それを魔王の魔力で、魔族も住める土地になったのです。
その魔王が討たれた今、人間も魔族も踏み入れられない土地に逆戻りしています。
ですがレウス。あなたが一人前になってたなら、行けるはずです。
そこで、真実を知ってください。
あなたは私の姉の息子です。
ですが、私はあなたを本当の息子と思って育ててきました。
いいえ、あなたは私の息子です。
これからもあなたの信念のままに、生きてください。
私の愛する息子へ。
あなたは嘘のつけない性格です。
私が死ぬ前にこれを読んだなら、すぐ分かります。
その時は、容しゃしませんから、そのつもりで。
「う、ううう。」
レウスは涙をこらえる。
こらえきれない感情が、涙となってレウスの頬を伝う。
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