第3話 ゲートの外へ

 魔王が勇者に討たれてから、十年が過ぎた。

 レウスも十歳になっていた。

 五年前にレウスはドレイクに野獣の家畜化を提案したが、その計画はすぐに頓挫した。

 獣を手元で育てるより、育った獣を狩る方が、数段楽だった。

 だから村の周りの、獣の棲息分布の把握に努めた。

 村人の食糧となる獣を狩る肉食の獣は、徹底的に駆除された。

 それで充分だった。


 レウスの母のユリアは、村人達との交流を最低限に留めた。

 しかし息子のレウスは違った。

 五年前のドレイクとの一件から、レウスはよくドレイクとからむようになり、村の他の子供達ともからむようになった。

 レウスが村のガキ大将になるのに、そんなに時間はかからなかった。


 ユリアはレウスに棒術、槍術、剣術、体術をたたき込んだ。

 レウスは修得したそれらで、村の子供達と戯れた。

 ユリアはレウスに、読み書き計算も教えたが、魔術を教えられない事を悩んでいた。

 ユリアは少ししか魔法を使えなかった。

 この村にも、魔法に長けた者はいない。



「え、ゲートの外に行く?」

 レウスの言葉に、ドレイクは思わず声をあげる。

 声がでかいと、レウスは注意する。


 ここは魔界。

 ゲートの向こうは人間界。

 魔王がいた頃は閉じてたゲートも、今では開かれている。

 魔王が討伐された後、魔族狩りをはじめとする、人間側の侵略行為がゲートを解放させた。

 そんな侵略行為も過去の物となり、いつしか普通に交流する様になっていった。

 とは言え、人間側には魔族に対する差別意識があった。

 今ではこの村でも、人間との交流が出来た。

 だけどこの村から人間界に行く者は、ひとりもいなかった。

 別に禁じられてはいない。

 ただ、誰も行こうとはしなかった。


「お、俺は遠慮しとくぜ。」

 ドレイクは行きたくなかった。

 彼の肌の色は赤みがかっていた。

 ひと目で魔族とバレるので、行きたくなかった。

 対してレウスは、肌の色から魔族とは分からなかった。

 と言うより魔王が倒された後の魔族狩りを境に、この村の人たちは魔族である事を隠している。

 ドレイクはなんとなく人間とは違う事を理解していたが、その頃まだ物心ついていないレウスには、自分も魔族だと言う認識はあまりなかった。

 魔族も人間も、見た目はほぼ同じ。

 ならばなぜ、差別する必要があるのだろうか。とレウスは思う。


「分かったよ、俺ひとりで行ってくるよ。」

 あまり気乗りしないドレイクを誘うのを、諦めるレウス。

「おい、危険だぜ。」

 ひとりで行こうとするレウスを、止めるドレイク。

 だけどレウスの好奇心が勝る。

「大丈夫だって、俺の見た目はほとんど人間だし。」

 レウスも、他の村人達とは違い、自分が人間に近い見た目だと気づいていた。

 レウスは誰にも言うなよと念を押して、ゲートに飛び込んだ。



 ゲートの向こうの人間界。

 そこはレウスの村より栄えていた。

 道は平らに整えられ、場所によっては石畳で舗装されている。

 立ち並ぶ家々もレンガ造りで、木材の家は見当たらない。


「おまえ、よそ者だな。」

 レウスが物珍しく辺りを物色していたら、突然声をかけられた。

 レウスが振り向くと、街の子供が三人いた。

「そうだけど、何か?」

 レウスはぶっきらぼうに聞き返す。

「冒険者ごっこするのに、魔族役がいなかったんだ。

 おまえが魔族な。」

 と言って街の子供達が棒きれを持って襲いかかる。


 街の子供達は、レウスの相手ではなかった。

「おまえなあ、魔族が勝ってどうするんだよ。」

 うつ伏せに倒れた子供が、文句言ってくる。

 レウスはその子供の背中に、腰を落としている。


「いや、おまえらが弱すぎるだろ。」

 レウスは呆れてしまうが、緩んだ表情をひきしめる。

「で、魔族にやられた冒険者って、どうなるのかな?」

「ひ、」

 レウスは目の前に立つふたりに問いかける。

 レウスの迫力に、ふたりは逃げだした。

「あ、おい、待てよ!」

 レウスに押さえつけられてる子供は、ふたりを呼び止めるが、無駄だった。

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