一歩下がって二歩進む
「それはなによりだな」
「代わりにお前と親友になることにした」
「どういうことだ?」
料理が届いて場が遮られる。先に食べようぜ。と瑞希が促したことでランチタイムを楽しむ。といってもその言葉の真意が気になってあんまり味は良く覚えていない。
ご飯も食べ終わって、コーヒーを飲んで落ち着いたところで再び話はさっきのところまで戻る。
「さっきの言葉、意味が分からないって思っただろ。一つ質問して良いか?お前は友達がいらないと思っているだろ」
「思ってる」
「でもお前が助けたいって言ってたやつが助かった時に、お前が友達のいないかわいそうなやつだって知ったらどう思う?」
「そ、れは……」
やっと、瑞希が言いたいことがわかったような気がする。
「そういうことだ。だから、たまには息抜きすんのも大切だと思うぞ」
会計を済ませて店を出る。昇った太陽が照りつける外はうだるような暑さで、海がキラキラと乱反射して私たちの目を白くチカチカさせる。
「じゃあ、俺はもう帰るから。言いたかったことは言ったつもりだし」
彼は停めていた自転車にまたがって帰り始める。どうするのかと私は大翔くんを眺めていた。彼は踏ん切りがついたのか、一歩踏み出して彼に呼びかける。
「来週の今日、この場所で。一時に来い」
ぶっきらぼうで、不器用な彼の精一杯の誘いに、瑞希はわかった、と笑顔で手を振りながら見えなくなっていく。
ホッと私は胸を撫で下ろしていた。なんだか新しい友達という響きが心地よくて、やっと彼もこの町の一員になったような、そんな感じがする。
「もちろん、お前たちも来るんだからな」
振り向いた彼は、私たちにも来るように言う。純粋に嬉しかった。
「うん」「OK」
私と千紗が返事をする。たったそれだけの会話だけど彼との距離は縮まっている気がした。
彼と別れて、私と千紗は並んで歩く。まだ日が高く昇っていてカモメの声が時折聞こえてくる。
「良かったね」
「うん」
「あんな上手くいくとは思ってなかったよ」
「えっ?」
「実はね、補習が終わったらこっちに来るように伝えておいたんだ。まぁ来るか来ないかは半々位のつもりで待ってたけど、ちゃんと来てくれた。やっぱりあいつはなんだかんだ持ってるんだよきっと」
なんだそういうことだったのか。私は瑞希が来た時正直驚いた。彼のことを思ってわざわざ場所は伝えて置かないでおいたから、まさかこの場所にいると知ってるとは思わなかった。
「良いよね、青春って感じする」
「鈴ちゃんも今、青春してるんだよ?」
その言葉はどことなく現実味が無かった。
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