無策な作戦
日が7回昇って7回沈み、さらに1回昇った頃、私たちは先週の喫茶店に朝っぱらから待ち合わせをしていた。期末のテスト期間に入ったにもかかわらず何故かこの作戦は実行へと移される。
「やっぱり勉強しない?来ないかもしれないよ」
たった1回土曜日に走っているのを見たからって決めつけるのは尚早な気がする。それよりも瑞希は勉強して赤点を減らして欲しいのに。
「まぁまぁ、昼までに来なかったら諦めるからさ」
「そこまで言うなら、分かった」
なしくずし的に私が了承すると、二人は堤防に腰をかけて単語帳を開く。勉強する気は十二分にあったようなので一安心する。ウミネコの鳴く声が聞こえて、夏がいっそう強くなるような感じがする。
堤防向かいにある近所のおばあちゃんが営むお菓子屋が開く。堤防の影で日差しを免れようとしていた私たちは急いでその店に向かう。瑞希は入るや否や開口一番に「アイス1つ」と言って冷凍庫からアイスキャンデーを取り出している。私と千紗はラムネを買って、外にあるベンチに腰掛けた。
「やっぱ東北と言っても夏は暑いね」
「そりゃああんなに雪降る長野だって暑いんだから、そんなに降らないここが暑いのも当たり前だよ」
「おっと、そうこうしているうちにあの人影は見たことあるなぁ」
既に食べ終わったアイスの棒で指す先には、ランニングをしている広川くんがこちらに向かってきている。そしてお菓子屋の前を通ろうとしたところで待ち伏せていた瑞希は両手を広げてとおせんぼをする。
「落ち着けよ大翔。疲れただろ?アイス食べようぜ」
「お前、馴れ馴れしいな。初対面からずっと名前呼び、それはどうにかしたらどうだ?」
「ここらじゃあ、苗字で呼ぶことの方が少ないぞ。“転校生”には分からないと思うが」
「あっそ」
私も弟が同じ名前じゃなかったら名前で呼んでいたと思う。
瑞希の横を通り過ぎようとすると、そこをすかさず塞ぐ。まるで子供の遊びみたいになっていて、見てられなくなったのか千紗が引き止めに入った。
「2人とも落ち着いて。まずはこのアイスを2人で食べなよ。大翔くんもさ?そんなに邪険にしなくてもいいと、私は思うよ?」
はい、と手渡されたアイスを彼は額に溜まる汗を拭って無言で受け取る。滴り落ちそうになるアイスをガツガツとあっという間に食べきってしまう。
「ありがとう。あと、別に俺はお前たちが嫌いだからこんなことをしているわけじゃない。それだけは勘違いするな」
「ほらな?」
その言葉を聞いて、瑞希は嬉しそうに笑った。彼のアイスは既にぽたぽたと滴り落ちていて、「うわぁー!?」と言って慌てて食べていた。
「お前、この間の話をこいつらにしたのか?」
「それは、してないと言えば嘘になる」
少し苦虫をかみ潰したような顔をしたがすぐに切り替わる。
「他言無用とは言っていないのだからお前に落ち度はないが、俺はお前を信用した上で話したんだがな」
「でも、それと友達にならないっていうのは関係ないと思うよ」
「ある」
そこだけは、折れなかった。何か決定的な何かを持っているようなそんな双眸でこちらを見つめる。
「俺が助けたい人って言うのは、そんなに単純に解決できるような話じゃあ無いんだよ」
その目には、霞んだ希望と明確な悲観が見えていた。
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