たった1つの手がかり
「ごめん、遅れて」
「別にそんな待ってないからいいって」
残念ながら私は集合時間に間に合うことは出来なかった。謝りながらこの場所に来たわけだけど、どうやら私が最後ではなかったみたいだ。
「ごめん!遅れた」
「お前は許さねえ。後でアイス奢れよ〜」
「なんで?!私だって鈴蘭とあんま大差ないじゃん」
「一番遅れたやつが悪いんだよ。ほら行くぞ」
文句を垂れ流している千紗と私も彼につづく。と言ってもここらで遊ぶ場所というか時間を潰す場所は大体が決まっている。
「こんちゃ〜す」「こんにちは〜」
二人は軽快な挨拶で入る店。カランコロンとドアにかかるベルが鳴って中のマスターが「いらっしゃいませ」と渋めの声で挨拶する。
この町にある飲食店といえば、もはやここしかないと言ってもいい。『喫茶 ホライゾン』水平線が見える店という安直な名付けによって出来たこの店だが、案外売上は良いようで、地元に愛されはや30年の憩いの場だ。
「コーヒー1つ」「同じく」「エスプレッソ1つで」
3人はとりあえず、喫茶店らしいものを注文する。といってもこの店、海に近いこともあってメニューは半分以上海鮮もので占められている。店の名前があるから申し訳程度にコーヒーなどがメニュー表の最後のページにくっついているくらいに。
「ってことで、宿題を教えてください鈴蘭様」
「どうかこいつの軽い頭で教えてくれませんかねぇ」
「なんだとてめえ。お前も頭下げろよ!」
「うるさーい!こんなかだったら瑞希が1番頭悪いだろー!」
「ちょっとしか変わんねえじゃねえかよ」
「まあまぁ」
何故か2人での喧嘩が始まる。まぁ日常茶飯事だから私はあんまり気にしていないけれど。
「コーヒー2つと、エスプレッソね」
「はーい」「ありがとー」
こんな感じで喧嘩は案外すぐに終わる。サービスでつけてくれたクッキーを食べながら、二人は宿題のノートを開く。
「実は私も出来てないんだよね」
「じゃあ一緒にやろうぜ。俺鈴蘭の隣に行くわ」
「あっ、ちょっと。ずるいよ瑞希だけ」
「2人にもちゃんと教えるから落ち着いて」
そんなこんなで宿題を3人で始めたわけだけど、始まったら始まったで二人はちゃんと集中するからだいたいすぐに終わってしまう。そのあとは雑談で時間が潰れていく。
「そういえば私、さっき広川くんに会ったよ」
「えっ?」「マジか」
「その、あんまり話をしたとかじゃないんだけど彼が言うにはね、助けなきゃいけない人がいるんだって。誰がとかはよく分かんないけど」
それを聞いても二人の頭はぼんやりとしたままだ。かくいう私もはっきりしない。
「で、それがどうして友達になれないってことに繋がるんだ?」
「それは私も考えたよ。だけどそれは直接本人に聞いてみないことには分からないと思う」
「また振り出しかよ〜!」
やっぱりちゃんと聞いておくべきだったなと鈴蘭は今更になって少し後悔する。
「まぁでも、完全に振り出しってわけでもねぇな」
「何か閃いた?」
「今日の昼頃に出くわしたんだろ?なら、来週も同じ時間にそこに行けばいい。ランニングとかなら習慣だろうし」
「珍しく冴えてんじゃん!勉強もそれくらいさえてればよかったのにねぇ」
ガシッと彼の肩を持つ千紗。たまに男らしいところが出てくる彼女の無自覚は、思春期の男子には毒だったりする。
「おまっ、くっつきすぎだっつうの」
「なんで?今更恥ずかしがらなくてもいいじゃん」
私たちがそんな雑談をする最中、喫茶店の前を横切る彼の姿には誰も気づかない。
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